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#オリジナル
めんだこ
深い場所だった。
光の届かない、根の奥。
そこに、シオンはいた。
「……大丈夫」
目の前の花人に、静かに語りかける。
「すぐ終わる」
その声は、驚くほどやさしい。
花人は、震えていた。
「……こわい」
小さな声。
それは、昨日アルトたちが聞いたものと同じだった。
「こわくないよ」
シオンは、そっと手を伸ばす。
触れる。
その瞬間。
光が、流れ込む。
「……っ!」
花人の身体が、震える。
花弁が歪み、茎が軋む。
「大丈夫」
繰り返す。
まるで、子どもをあやすみたいに。
「これは“進化”だから」
だが、それは優しいものじゃなかった。
無理やり、押し広げられるような変化。
本来の形を超えて、強制的に書き換えられる構造。
「……やめ……」
声が、途切れる。
シオンの目は、揺れない。
「今のままじゃ、いずれ枯れる」
淡々と告げる。
「なら、変わるしかない」
その理屈は、正しかった。
でも。
その過程が、壊していた。
「……これで」
光が収束する。
歪んだ身体が、ゆっくりと安定する。
「もう、苦しくない」
シオンは微笑む。
その目には、狂気ではなく――
確かな“善意”があった。
別の花人が、倒れている。
変化に耐えきれなかった個体。
身体は崩れ、呼吸も浅い。
「……失敗か」
シオンは、静かに呟く。
その声に、感情の揺れは少ない。
けれど。
完全に無ではなかった。
「ごめん」
小さく、言う。
そのまま、手をかざす。
光が集まり――
核を、砕く。
それは“処理”だった。
苦しみを長引かせないための。
「……次は、もう少しうまくやる」
独り言のように、呟く。
その積み重ねが、何を生んでいるのか。
理解していないわけじゃない。
でも。
止める理由には、ならなかった。
ふと、空を見上げる。
地上の、遠い光。
「……アルト」
名前を呼ぶ。
かすかに、笑う。
問いかけるように。
「これが、“残す”ってことだ」
静かに、言う。
「お前は人を選んだ」
「僕は世界を選んだ」
その違いは、もう埋まらない。
「でも」
少しだけ、目を細める。
「どっちも、間違ってないだろ」
その声は。
誰かに肯定してほしい響きを、わずかに含んでいた。
けれど。
それに答える者は、いない。
ただ、根の奥で。
歪められた花が、静かに増えていくだけだった。
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