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『最後は別にゲームしなくてもよかったんじゃないのぉ?』


背後から死神が話しかけてくる。


「ゲームにしないと、花崎が自宅に向かわず、電車で逃亡することもあり得ました」


14歳の少年、有栖智司(ありすさとし)は死神を振り返った。


「否が応でも自宅に向かわせる必要があったので」


『ああ。なーる』


自分よりもよっぽど軽い話し方をする死神に苦笑しつつ、有栖は人差し指から銀色の指輪を抜き取った。


「――これ、お返しします」


『はい、どーも』


死神は笑いながらそれを受け取ると、自分の小指に嵌めた。


「これで、全て終わりましたか?」


『うん、そうね』


死神は有栖よりもさらに白い顔で微笑んだ。


『お疲れ様。有栖智司君。俺の代わりに悪かったね』


「いえ―――」


有栖は俯き微笑んだ。


「僕も見届けたかったので。尾山さんと翔真君を」


『―――――』


死神は首を傾げて微笑んだ。


『理解に苦しむよ。他人の為に死ぬなんて』


「そんなの、彼らと同じでしょう」


有栖は天井を見上げた。


そこには4人の顔写真が飾られていた。


『いやいや、全然違うよー!』


死神は笑った。


『だって彼らは、地獄界入りを免れた幸運な人間たち、だろ?』



有栖は一番右側の人物を見つめた。


筒井美穂の後輩である小笠原里奈。


彼女は、度重なる浩一の浮気から美穂を守るため、浩一が手を出した女を殺して埋めるはずだった。


3人目を殺してからはさらに手口が荒々しくなり、浩一が言葉を交わしただけの女性にまで範囲を広げ、警察が逮捕した時にはすでに9人の女性を殺害、遺棄した後だった。

責任を感じた美穂はその後、自殺。

裁判により死刑判決が下された理奈もまた、控訴中に留置所で自殺した。



有栖は次に、土井尚子の父親である土井重治(どいしげはる)の写真を見つめた。


彼は精一杯娘を更生しようと努めたが、尚子のセックス依存症は治らなかった。

そして彼は、狂っていった。


尚子の眼球に精液をかけた男を拉致監禁し、その目に硫酸をかけた。

学校から帰ってきて悲鳴を上げた尚子の首を絞め殺害。止めようとして入ってきた母親も殺害した。

全てを残った左眼で見ていた男も殺害し、その後自首した。

逮捕され死刑判決を受けても、重治は控訴しなかった。

そして2024年、時の法務大臣、加藤義彦の死刑執行命令により、静かに48年の生涯を閉じた。



有栖は、ひと際美しい笑顔で微笑む女性を見つめた。


仙田詩乃。

彼女は肺癌という病と闘い、投薬治療を進めるうちに癌細胞が脳へ転移。衰弱すると共に、意識と思考が保てなくなっていった。


病弱な両親には頼めず、頼りない夫に任せるしかない娘の杏奈を心配するがあまり、彼女は病院のベッドの上で愛娘の首を絞め、殺害した。

自力では起き上がることも、飲食をすることもすでにできなかった彼女が、そんなことできるわけないと夫である隆太が疑われもしたが、杏奈の小さな首には、詩乃の長くて細い指の痕がくっきりと残っていた。

駆け付けた警察の応答に応えることもできず、そのまま意識レベルが回復しないまま、詩乃は31歳の短い生涯を閉じた。


「――――」


有栖は息をつきながら、花崎祐樹の写真を見た。

花崎祐樹は、母親と尾山翔真の死体を隠し、驚くべきことに3年間、勤めていた会社で働き続けた。

そしてその3年の間でさらに4人の少年を拉致し、暴行を加えたうえで、今度は殺害と死体遺棄まで行った。


逮捕後、ルポライター、金山正二の手により彼の生涯と事件の一部始終が、書籍化された。

部署の皆とバーベキューをし、満面の笑みでトングを掲げる花崎の写真が表紙を飾り、残虐すぎる事件の全貌とともに、その爽快な笑顔が世界中を震撼させた。

2032年。

最高裁は、東京高等裁判所の有罪判決を不服として、茫然自失、精神衰弱による判断力の低下を理由に控訴した弁護団の訴えを退けた。

2035年。

女性法務大臣、横山裕子の死刑執行命令により、花崎は死刑に処された。42歳になる誕生日の前日だった。



『この619号室の存在意義は、死神のバグの修正ではなく、増えすぎた地獄界の魂たちへ、神からの冥助……』



クククと死神は笑いながら言った。


『彼らは助けられたんじゃない。地獄界入りを免れるために、人間界でちょっといい死に方をしただけさ』


死神が指を鳴らすと、写真が粉々に砕け散っていく。


「―――生き返った人たちは」


有栖は白い死神の顔を見上げた。


「より良い人生を歩んでいけるでしょうか」


『―――』


死神は真っ黒な目で有栖を見下ろした。


『さあ?俺、生きてる人間に興味ないから!』


言いながら手をパンパンと掃った。


『じゃ、逝く?』


コンビニにでも誘うように彼が軽く言うと、619号室の扉が薄く開いた。


『ご両親が待ってるよ♪智司君!』


有栖はもう一度、619号室を振り返った。



『いやよ、生き返るなんて、絶対にいや……』



『やめて……助けて……!!』



『……いいって。俺、生き返んなくていいよ……!』



『―――俺は生き返るのか……?じゃあやっぱり勝負は俺の勝ちだな……』



『……アリス君!待て!君は……!君はどうなる…!?』




アリスは目を閉じた。



「皆さん。次こそ、より良い人生を――」




『あれ?』


死神が振り返った。



『有栖くん、ごめん』


「――――?」


有栖は死神を見つめた。



『なんか、ダメだわ。君を連れていけないみたい』



「―――え?」



『ごめんねぇ?あははははは!』



死神の胡散臭い笑顔は、まばゆい光に溶けていった。


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