「……あれ。鷹取さんってまだお片付けしているの?」
テントの中の隅に、きちんと畳まれたエプロンを見つけ、なんとなく……不吉な予感がした。
「いえ。中島さんと山崎さんは、さっきふたりで写真撮りに行きましたが。湖が真っ暗で綺麗だって」と新卒の子。「……広岡さんは見ていませんか?」
「見てない……」え。ご飯なんてとっくに食い終わってるのに。
携帯は。
と思って電話をしたが、ぶぶぶ、とエプロンからバイブ音が聞こえた。……スマホも持たずにどこへ……。
男の子たちは無邪気に火の周りでまだ遊んでいる。気になって、詠史くんに尋ねた。
「詠史くん。……ママ、見ていない?」
「トイレのほうに行ったのは見たけど、……遅いよね。お片付けなのかな。ぼくも、探しに行くっ」
「――いや」近寄り、目線の高さを合わせてしゃがんで、彼の無垢な頭を撫でた。「大ごとにしたくないし、詠史くんの安全がなによりも第一だ。きみは、ここに残って、ママの帰りを待っていて欲しい。遅くなるかもしれないから、寝る準備は進めるんだよ?」
「分かった」しっかりとした口調で詠史くんは答えた。――本当は誰よりも心配なはずなのに。
男の子たちは、新卒の子が絵本の読み聞かせをしてくれるらしい。ぼちぼち寝る準備もしなきゃだが……。
ともあれ、いまは、鷹取さんだ。彼女を見つけなくては。
洗い場やトイレ、湖のほうなど色々探してはみたが、いない。探していないといえば、あっちの――山のほうか?
ざわり、と血が騒いだ。雲の切れ間に月が見えた。今頃鷹取さんはひとりで……これを見ているのか?
たまらず走り出した。「――鷹取さんっ!!」愛するひとが、無事であることを信じつつ。
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