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文化祭二日目。

今日はルシンダのクラスのカフェに、客としてユージーンが来てくれた。


「やあ、ルシンダ。カフェは盛況のようだね」

「ユージーン会長! いらっしゃいませ。来てくださって、ありがとうございます」


ちょうど手が空いていたルシンダが席へと案内する。


「この後、また生徒会室に行って仕事をしないといけないんだけど、その前に一息つきたいと思ってね。君のお勧めは何かな?」

「でしたら、こちらのハーブ入りのものが後味も爽やかでリフレッシュできると思います」

「なら、それを頼むよ」


ユージーンはルシンダが運んだ紅茶を優雅に飲みながら、カフェの様子をしばらく眺めていた。そして紅茶を飲み終えるとすぐに席を立ち、側にいたルシンダの肩に手を置いて微笑んだ。


「とても美味しかったよ。これでもう一仕事、頑張れそうだ」

「それはよかったです。お仕事、あまり無理しないでくださいね」


ルシンダがそう返事をすると、ユージーンは嬉しそうに目を細めた。


「やっぱり君は優しいね。今日はほどほどにするよ。たぶん仕事どころじゃなくなるだろうし」


ユージーンはそのまま「じゃあ、また」と言い、会計を済ませて出て行った。


(仕事どころじゃ? ほかに何か予定があるのかな?)


なんとなく気になりながら、後片付けをしにユージーンが座っていた席に向かうと。


「あれ、忘れ物かな」


テーブルの上に革製の手帳が置いてあった。ユージーンのイニシャルが刻印されているので、きっと彼の忘れ物だろう。


(この後、生徒会の仕事をするって言っていたから、きっと生徒会室にいるよね)


「ちょっと、お客様の忘れ物を届けに行ってきます!」


ルシンダはクラスリーダーのミアに告げて、生徒会室へと走っていった。



◇◇◇



生徒会室に到着すると、中には誰もいなかった。


(あれ、ここじゃなかったのかな……)


ルシンダが部屋から出ようとして振り返ると、そこには愛おしげな眼差しでルシンダを見つめるユージーンがいた。


「ユージーン会長……」


ルシンダが名前を呟くと、ユージーンはルシンダの頭を優しく撫でて言った。


「僕は、悠貴ゆうきだよ。桜井悠貴。君は瑠美だろう? 僕の大事な妹の」


「え……うそ……。ほ、ほんとに、お兄ちゃん、なの……?」


ルシンダが信じられないとばかりに目を見開く。

目の前に立つこの人は、たしかに今、前世の兄の名前を名乗った。そして、妹である自分の名前も。

前世の姿とは似ても似つかないが、自分と同じく異世界転生を果たしたということなのだろうか。


あまりの驚きに言葉が出てこず、じっと兄の、ユージーンの瞳を見つめていると、彼はくしゃりと表情を緩ませた。


「またルーって呼んでもいいかな?」


“瑠美” だから “ルー”。前世で聞き慣れていた、兄だけが呼ぶ自分の愛称。


(ああ、やっぱりお兄ちゃんなんだ……!)


ルシンダの瞳から涙が溢れ出して止まらない。

二人一緒に事故に遭い、もう二度と会えないと思っていた兄。

親から関心を向けてもらえなかった自分を常に気にかけ、めいっぱいの愛情を注いでくれた兄。


「お、お兄ちゃん……! ごめんなさい……会いたかった……!」

「ルーは悪くないよ。また会えて本当によかった……」


肩を震わせて泣く妹を、ユージーンがもう二度と離さないとばかりに強く抱きしめる。

姿は違うけれど、どこか懐かしい温もりが嬉しくて、ルシンダもぎゅっと抱きしめ返した。



──このとき、ルシンダもユージーンも、前世の大切な家族との再会に気を取られ、部屋の扉の隙間から誰か覗く者がいたことに気付くことはなかった。



◇◇◇



「前世のときより随分いい顔になっただろう?」


やっと落ち着いたルシンダの涙の跡を指で拭いながら、ユージーンが言う。


「前も格好よかったよ。それに今も黒髪だからそんなに違和感ないね。私のほうこそ、だいぶ見た目が変わったでしょ?」

「ルーは前も今もとびきり可愛いよ」

「もう、お兄ちゃんは相変わらずなんだから。……それにしても前世では一緒に死んじゃったはずなのに、こっちの世界で同い年じゃないなんて変だね」


ルシンダが首を傾げると、ユージーンがルシンダの頭を撫でながら言った。


「まあ、そもそも前世の記憶を持ったまま転生するなんてことがおかしいから。年齢のことは、とりあえずまた僕が年上でよかったかな。お兄ちゃんって呼ばれても不自然じゃないだろう?」

「えっと、今の関係で “お兄ちゃん” はさすがに不自然じゃ……。今まで通り、ユージーン会長って呼ぶのじゃだめ?」

「……仕方ないな。でも、二人の時はお兄ちゃんがいい」


ユージーンが拗ねたように言うので、ルシンダは苦笑して頷いた。


「……そういえば、私たちの他にもう一人、転生した人がいるんだよ。前に一緒に生徒会室に行ったミアって子なんだけど」

「もう一人いたのか。そっちはさすがに気づかなかったな。でも、同じ境遇の子がルシンダと友達になってくれてよかった。仲良くするんだよ」

「うん」


いつもおかしな妄想に付き合わされてばかりだけれど、一緒にいると楽しいし、ミアの存在が心の支えになっているのも確かだ。前世の話が気兼ねなくできるのもありがたいと思う。

ミアがいなかったら、いつかどこかで孤独を感じていたかもしれないが、今は騒がしいミアのおかげで、そもそも孤独を感じる暇もない。


(お兄ちゃんに会えたこと、あとでミアにも教えてあげよう)


ルシンダはくすっと微笑んで、大好きな兄の肩に寄り添った。

えっ、ここは乙女ゲームの世界? でも私は魔術師を目指すので攻略はしませんから

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