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「それでは第二回目の冒険者資格試験対策授業を始めます……」
「「は~い……」」
第一回目よりは少なくなった生徒を前に文章先生が授業の開始を宣言する。
「前回はダンジョンの発生とその直後の歴史についてお話ししましたね。
今日はダンジョン発生による世界全体への影響をやりましょう。
ダンジョン発生後に世界に大きな変化が発生しましたが、まずはいくつか皆が知っている物を挙げてみましょう。
誰か答えられる人はいますか?」
「はい!」
「では日代炉狩君、どうぞ」
「月の色が黄色から赤色に変わりました!」
「はい、そうですね。60点です。原因については諸説ありますが、昔は月の色は黄色だったのですが、現代は皆さんが知っているように赤い色になり、尚且つそれまで起きていた月の満ち欠けが無くなり、地球上の何処から観測しても満月の状態でしか見えなくなりました」
「それでは後二つお願いします」
「はい!」
「岩切さん、どうぞ」
「世界各国の軍が自国の防衛を目的とした性質の物に変わり、地域毎に相互互助を目的とした大規模軍事同盟が締結されました!」
「そうですね。90点です。我が国でも大日本帝国陸軍・海軍を前身とて再編されたた日本国自衛軍が、そして我が国を中心とした大東亜防衛軍事連合体を始め、南北アメリカ合一連邦軍、欧州防衛軍、中東鉄砂大同盟、全統一アフリカ連合軍等々……モンスターと言う未知の脅威に対抗すべく、
国家・人種・宗教の垣根を超えた共同体の数々が発足しました。
そして中でも特筆すべきはダンジョンゲート調査隊を基にした全世界冒険者協会が発足した事ですね。これにより、ダンジョン・モンスターの情報が今日(こんにち)迄滞る事なく発信され、共有されています。
協会の元、世界各国に支部が設置され、国と連携を取り、私達の安全が守られてきた訳です」
「センセー、その割には冒険者ってあんまり良くは見られて居なかったみたいですけど」
「そうですね。やはり、命懸けの仕事になる事と、見返りがあっても軍人さんと違って何かしら保障が薄い事もありますし……」
「例えは悪いけど、部長の小野麗尾君みたいに一攫千金狙いの山師的な見られ方をされてきましたね。
江田島氏みたいな立派な方もいらっしゃるのですけど……」
「部長が山師、ですか……?」
「そうですね、分かり易く説明すると、”全財産を慈善事業に寄付して自身は飢えて死ぬ”レベルの善行を為さないと認められない程度には冒険者に対する社会的な地位は低い……低かった、のですが」
「最近は経済活動を通じて社会に関わりを持とうとする冒険者が増えているお陰でそこまででは無くとも、やはり宝くじ当選者的な見方はされていますね」
「それは、僕らもそう言った見方をされるという事でしょうか?」
「そうですね。先程の例えで言えば、皆さんは宝くじを手に入れる権利を手にした、という所ですね。ただし、普通の宝くじとは違い、お金を出せば手に入れられる物ではない、と言う処は皆さん承知されているはずです。
努力によって手に入る枚数も結果すらも変えられるという事も」
「言うまでもありませんが、部長の小野麗尾君は自身の努力でその事を示しています。
わ、私の稼ぎでは自分一人すら生活が覚束無いのに、急に同居人が4人も増えた事を相談したら経理のアルバイトであっさりと受け入れてくれましたし……」
ヨヨヨ……と泣き始める文章先生。
「失礼しました。皆さんも召喚モンスターのご利用は計画的にしないと家計が火の車になりますよ」
「先生、召喚モンスターって食費とかいらないんじゃ……」
「皆さんは給料を出さない、生活の面倒も見ない雇用者の下に付いたらどう思いますか?」
「いや、人間とモンスターは違う……」
「確かに違いますが、彼らにも心があり、自らの状況を判断する知恵があります。
皆さんは自分の召喚モンスターから”クソ上司”・”遠い国の見知らぬ誰か”と同じ扱いに括られて背中を預ける事が出来ますか?」
「インスタント契約は正にそれです。仲間ではなく、何でも言う事を聞かせられる便利な道具と言う認識ですが、これは本当に道具化……ある意味では奴隷化より酷い事になります。これを聞いて何か問題点が浮かんだ方は居ますか?」
「はい」
「では日代炉狩君、どうぞ」
「道具化、という事は使い手が居ないとその真価を発揮できないという事ですよね?
召喚者が危機的状況に陥っても命令が無ければ助けようとしない、とか」
「はい、そうですね。80点です。後は良くも悪くも召喚者の指揮能力が戦力の上限を決めてしまう事もあります。
戦闘の最中に援護してもらいたい時とか、どう動いて・どの位の程度で・どうするか等全部命令出来ますか?」
「弓を使えるモンスターに援護させるにしても条件をキッチリ決めておかないと、後ろから味方に撃たれる事等の事例がありました。
他にも魔法に巻き込まれるとか」
「それは……」
「ええ、これは極端な例ですが。そういう訳で、サマナーになる人は戦局全体を把握する能力と判断力・並列思考等と言った才能が昔は求められた訳です」
「センセー、でも部長は……」
「はい。小野麗尾君のモンスターは一体たりとてインスタント契約のモンスターはいません。
彼らの一体一体と向き合い、その能力を把握し、戦術を構築する……
近年採用率の高いスタイルですね。
ただ、彼らの能力を積極的に経済活動に組み込もうとしたのは……
小野麗尾君が初めて、と言う訳では無いと思うのですが……」
「何にせよ、近年の冒険者の傾向として召喚モンスターに関わらない、と言う事は有り得ません。
皆さんも召喚モンスターとどの様に関わるのか、よく考えてくださいね」
授業が終わった放課後、帰宅途中にて―
「そういえば柴田君は召喚モンスターについて何か考えているの?」
「急にどうした、メガネ?何かさっきの授業で気になったのか?」
「うん。正直悩んでいるよ。僕って前に出て戦えるタイプじゃないから前衛型のモンスターと契約しようと思っていたけど……
危ない所だけモンスター任せで冒険者ってやっていけるのかなって……」
「良いんじゃねーか、別に。オレッチは前に出て剣だの刀だの考えていたけど、入部試験の魔猪(マッチョ)君の件で
あ、こりゃ無理だって思ったし」
「アレは怖かったよね……」
「おう、全身防具でガチガチに固めていてもキツかったしなぁ……」
「あれで考えたんだ。オレッチが一人でどうこう出来ない部分を召喚モンスターに助けてもらおうって!」
「そっかー……あの時は怖かったけどの魔猪(マッチョ)君に乗って走ったのは気持ち良かったんだよね……
あれで僕もいつか自分専用の騎乗用のモンスターが欲しくなったよ」
「お、良いじゃねーか!それじゃ何時かお互いに召喚モンスター契約したら見せあおうぜ!」
「うん!」
後の”万魔殿(パンデモニウム)” 柴田 健太郎(しばた けんたろう)、
”魔獣騎(デモンライダー)” 日代炉狩 眼鏡(ひよろがり がんきょう)
の若き日の姿である……
オカシイ。文量足そうとして放課後パート追加したら
主人公より青春してるぞ、コイツラ……