人が連なって 生まれる意味も
「はぁ…、何か気分下がるなあ…」
しとしとと降り続ける雨を前に、濡れない屋根の下でしゃがみこむ。不規則に吹く冷たい風が僕の頬を撫でる。重い身体を包み込むような寒さも、僕の耳に届き続ける雫の滴り落ちる音も、凄く心地よかった。
人が散らばって 消えゆく星が泣いているよ
フードを深く被り、聞こえる音だけに耳を澄ませる。規則正しく聞こえる自身の呼吸音。人通りの少ない街を映す瞳を閉じようとした時、後ろから物音が聞こえた。反射的に揺れた肩に触れる暖かい手のひらに振り向けば、そこには息を切らした若井の姿があった。
「あれ、?もう休憩終わり?」
僕の問いかけに、小さく首を横に振った若井が隣に同じようにしゃがみ込んだ。静かな空間に増えたもうひとつの呼吸音に、何故か胸が落ち着かない。被っていたフードを脱ぎ、場所を変えようと立ち上がった時、僕を見上げた若井が口を開いた。
「元貴が、涼ちゃんが弾くとこ簡単にしよって。」
「…え、?」
今の僕には酷く痛い言葉だった。能力が足りない、そう言われているようで。それに、元貴から与えられたギターのパートを完璧にこなせている若井に言われるのはもっと心に突き刺さる。
胸が痛い この痛みに名前をと
「そっ、か…。…そしたら僕も間違えないかも!」
手のひらに触れていた服に自然と力が籠るのが分かった。自分は今どんな顔をしているんだろうか。必死に笑顔を作らないと、涙が零れ落ちそうだ。こんな僕のことを、若井はどう思っているんだろう。
じゃなきゃ とてもじゃないけど生きていけないよ 嫌になるから
「……元貴には元貴なりの考えがあるんだと思うけど、俺はこのままがいい。」
僕を真っ直ぐと見つめた瞳にそう言われる。そう言って貰えて嬉しいとか、若井は弾けて凄いね、とか。伝えたい事は沢山あるのに、口を開いてしまえば涙が溢れ出してしまいそうな気がして、ぐっ、と唇を噛み締める。
「涼ちゃんが元貴の事支えてあげよう、って頑張ってるの知ってるから。…俺が涼ちゃんのこと支える。」
「…若井…、っ」
向けられた真剣な表情に、枷が外れたように涙が溢れてくる。ありがとう、って言いたいのに、上手く言葉が紡げない。何とか涙を止めようと服の袖で目尻を拭う僕の腕に若井の暖かい手が触れた。
降り続けるんだ 雨は 少しだけでも
「だから、元貴ばっかじゃなくて俺の事も…見てよ。」
身体いっぱいに広がる若井の温もり。僕の事を抱き締める強い腕の力も、今は落ち着く。
「えへ、嫉妬してるの?」
「………分かってないでしょ。」
ヘラりと笑ってそう問えば、僕の背中を優しく撫でてくれている若井の不機嫌そうな声が聞こえた。凄く頭がスッキリとする。ずっと僕の頭の中を渦巻いていた暗い思考が消えたかのように。
僕が傘になる 音になって会いに行くから
「…そろそろ休憩終わりかも。行こ、涼ちゃん。」
「ん!」
僕から身体を離した若井に手を差し伸べられる。素直に温かい手のひらを取れば、こちらを見た若井が何か言いたげな瞳を向けた。
「どうした、の…、?」
言葉を紡ぎ終わるよりも早く、唇に触れた柔らかな感触に目を見開く。余りにも突然の出来事に頭が上手く動かない。僕は今、若井にキスをされて……
「…僕の、初キス、?、」
「え…、!?!?」
まだ唇に残る感触を確かめるよう、指先で触れる。冷静に考えてみれば、僕は今まで誰ともキスをしたことがなかった。そんな僕の言葉を聞いて、目の前にいる若井は完全にパニックになっている。それに、キスは好きな人とするもののはず。…じゃあ若井は、?
「す、、き?」
自然と口から零れ落ちた2文字。その言葉を聞いた若井が、意を決したように、大きく深呼吸をした。その瞬間、後ろから誰かの足音が聞こえてきた。
「涼ちゃーん、わかーい。どこー!」
「、!ごめん元貴ー!!今行くー!」
「ちょ、あぶな!急に走り出すなって!」
僕と若井の名を呼ぶ声には聞き覚えがあった。きっと元貴だ。1度離してしまっていた若井の手を掴み、声の方へと駆け出す。後ろから聞こえた慌てた声に、クスリと笑いを零し、繋がれた手をぎゅっ、と握る。 3人がミセスである為に、真剣に話し合おう。もう僕らは壁を作ることなんてしない。
La,la,la,la,la,la,la,la,la,la
コメント
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待ってください!?!?名前変わりました!?しきみ、ですよね!?可愛いです🥲💞