テラーノベル
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昔好きだった人に偶然再会した時、そしてその人に心が動かなかったことに動揺した時、今思えば、AI翔太の心臓が止まったのだと思う。もちろん彼に心臓なんかないし、あくまでもこれは比喩だけれど。
翔太が直らないと知らされた時、経年劣化で動かなくなるまで所有し続けるのか、廃棄するのかとても迷った。
優柔不断な俺の心は、まだ記憶のどこかでかつての愛しい存在を追いかけ続けていた。彼を美化し、理想のように未練たらしく想い続けていた。そして現実の恋人である阿部ちゃんのことも同時に愛していた。二つの愛を持っていたことは俺の迷う心がもたらした、機械の翔太にとっては悲劇でしかなかったのかもしれない。俺は迷わず人間を優先した。
そして俺は次第に翔太を顧みなくなっていった。
◆◇◆◇
「もう動かないの?」
「うん」
「これって故障?まだ直るんじゃ…」
「寿命だよ」
そう言って、メンテナンスセンターから送られてきた手紙を阿部ちゃんに見せる。阿部ちゃんは俺の肩を優しく抱き、悲しいね、と言葉少なに慰めた。
「今日の10時に業者が引き取りに来る」
「そう…もう来るね。ちゃんとお別れはできた?」
「…………」
壊れたからといって、人間のように葬式があるわけでもない。最期の言葉を交わすこともなく、こと切れたように突然翔太は動かなくなった。口元はほんのり微笑んでいるように見えて、それがさらに俺の悲しみを誘った。涙を流す資格なんて本当はないと思った。まるで使い古したおもちゃのように、欲望をぶつけるだけぶつけて、大切にしなかったことばかりが思い出される。
「翔太は人形なんだから。あんまり思いつめないようにね?」
「………そうだね」
胸の奥に阿部ちゃんへの反発心が湧きそうになって、それでも俺の使い方は道具に対するそれでしかなかったと、身勝手な怒りに自己嫌悪した。阿部ちゃんの言うことこそが正しい。
中古で買った時から年代物だと言われて買ったんだ。1年ちょっともっただけでもすごいことなのかもしれない。俺は無理やりにこの出来事をそう思い込むことにして、トラックで乱暴に運ばれていく翔太をただ見ていることしか出来なかった。
「さよなら…」
小さくなっていくトラックを見つめながら呟く俺の最後の言葉は、それでもほんの少し翔太を想い、震えていた。
おわり。
コメント
11件
切な〜〜〜いっ!!!😭 旦那の前で泣くところだった💦
うわ〜〜😭😭😭😭😭 最後の最後にゆり組出てきて、 ラストがこれ! 辛すぎるわ〜😱