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それは、雨の降る日の午後だった。
玄関の郵便受けに、
いつもと違う封筒が入っていた。
白くて、厚くて、
角がきれいにそろっている。
差出人を見て、
まどかは一瞬、息を止めた。
鈴蘭学院
名前が、もう驚かせてこない。
部屋に戻って、
封筒を机の上に置く。
資料のときと同じように、
少しだけ、間を置いた。
今度は、
迷いよりも覚悟のほうが近かった。
封を切る。
中に入っていたのは、
一枚の招待状と、案内図。
文字は少なく、簡潔だった。
鈴蘭学院
入学説明会のご案内
特別推薦対象者として、
下記日程の説明会にご参加ください。
「対象者」という言葉が、
胸に小さく刺さる。
日時。
場所。
服装の注意。
すべてが、
きちんと決められている。
「自由」という文字は、
どこにもなかった。
案内図の片隅に、
学院の校章が印刷されていた。
鈴蘭の花。
小さくて、下を向いて咲く花。
きれいで、
静かで、
強い。
まどかは、
なぜか目を離せなかった。
その夜、
招待状は食卓の上に置かれた。
家族の前で、
誰もすぐには言葉を出さない。
やがて、姉が微笑んだ。
「……説明会、来たんだね」
責めるでもなく、
驚くでもなく。
ただ、事実として。
「うん」
まどかは、
それだけ答えた。
その晩、布団に入っても、
眠りはなかなか来なかった。
説明会。
選ばれた人たちが集まる場所。
そこに行けば、
もう戻れない気がする。
それでも、
行かない理由も、
見つからなかった。
窓の外で、
雨が静かに降り続いている。
まどかは目を閉じて、
心の中で、そっと問いかけた。
――わたしは、
本当に「選ばれたい」んだろうか。