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◻︎片付けよりも



お風呂上がり。私は夫の片付けの出来栄えを確認した。お茶碗はなんとか洗ってあるけど、食べ残した料理はまだそのままテーブルの上だ。夫はと言えば、缶ビールとピーナッツを持って、リビングに寝転んでテレビを見ていた。お笑い番組なのだろうか、テレビの笑い声に少し遅れて声を出して笑っている。笑いのツボがズレてるのか?感性がズレてるのか?そこはおいといて。


「あのさ!」


「え?なに?」


「お片付けって終わったの?」


「見てよ、終わってるでしょ?」


「お茶碗洗っただけだよね?それに割れてしまったお皿は、ビニール袋を二重にして入れておいてって前に言ったよね?それもまだまだやってない」


「あー、それは今からやるつもりだったんだよ。ほら、ちょっと疲れちゃったからさ、ビールでも飲んでくつろいでからにしようと思ってたとこ」


「お茶碗だって、たった2人分だよ?これくらいすぐできるでしょ?」


思わず苛立ってしまう。まるで子どものお手伝いを見ているようだ。


「そんなこと言うなら、涼子ちゃんがやってよ。その方が効率がいいに決まってるんだからさ」


「だから!それが嫌だから、できるようになってって言ってるんだよ?まぁ嫌ならいいよ、子どもたちには私から話すから、離婚するって」


ガタン!と音がして、勢いよく立ち上がったのは夫。


「待って待って待って、なんですぐ離婚になるの?」


「当たり前じゃない?あなたも私も、人生の残り時間はそんなにないのよ。どちらかの負担が大きくならないように、計画的に動かないとね。あ、そうだ!うちの経済状態も把握しておこうよ。これから先のいろんな計画のために、お金も時間も大切に使わないとね」


「わかったよ」


夫は、のそのそとダイニングにやってきて、テーブルの上の料理を手にする。少し考えて、そのまま冷蔵庫に入れようとした。


「ちょっと!なんでそのままなの?ラップしてよ」


「ラップも考えたけど、もったいないかな?って思って。だって一度使ったら捨てるでしょ?ラップ」


「まぁ、それはそうだけど。じゃあ、蓋つきの容器に移すとかして」


「そうするとまた洗い物が出るよ」


「洗えばいいでしょ?」


「えーっ!また洗うの?」


「だから私はそんなことを何年もずっとやってきたんだってば」


文句ばかり言う夫をみていたら、この先が思いやられた。



「やっぱアレだな。片付けとかこんな地味なことよりもさ、料理をやりたいな」


片付けもまともにできないのに、料理なんてされたらキッチンがどんなことになるか、簡単に予想できる。


「せめてもう少し片付けができないと、料理なんかできないと思うよ」


「そんなことはないさ、きっと料理してるうちに手際よく片付けもできるようになると思うんだよね。それに僕には料理の才能があると思うんだよ」


___よく言うよ


「たとえば?」


「たとえば魚料理だな。釣った魚をうまく料理できるようになれば、食費も浮くから一石二鳥じゃない?うん、そうだよ、魚料理からやってみるよ」


「あのさ…今だって釣った魚をさばけなくて魚屋さんにやってもらってるじゃん?それって釣り人にあるまじきことだよね?」


「これまではね、でもこれからは違うよ、ほら、コレとか」


新聞に挟まれた広告を出してきた。


『いずみ料理教室、生徒募集』


広告には可愛いエプロンをつけた女の人が、お鍋とお玉を持ってにっこり笑っている。まるで新婚の奥様のようだ。


「せっかくだから、プロに教えてもらおうと思ってさ。どう思う?」


“初心者歓迎”

“男性の方もたくさんいらっしゃいます”

“家庭料理から、少し専門的な料理まで”


まぁ、よくある料理教室だと思うけど。


___この先生がきっと、好みのタイプなんだろうな


なんてゲスの勘ぐりをしてしまう。ちょっとだけぽっちゃりの、色白の背が低い可愛い感じは昔からの夫の好みのタイプだ。なのに何故私みたいなゴツゴツした女と結婚したのか不思議なんだけど。


「時間はたくさんあるんだし、やってみたら?」


「やった!じゃあさ、会費って……?出してくれたり?」


「は?」


広告をよく見たら、週一回のコースで材料費込み、1か月12000円とある。なかなかの値段だ。


「会費がもったいないと思うんだったら、涼子クッキングスクールで私が指導するけど?」


「え?そんな、せっかく…」


「せっかく、なに?」


その後はモゴモゴと何かをつぶやいていたけど。


「わかった、最初の1ヶ月分だけ、家計費から出すね。その後も続けるなら自分で出してね。続くかどうかもわからないんだし」


「続くよ。どうする?そのうちシェフみたいな腕前になってさ、お店とかやることになったら」


「ないわ」


「そんな即答しなくても」


料理教室でなら、きちんと片付けもおぼえてくれるかもしれないと期待しておこう。可愛い先生の手前、カッコつけるのは目に見えてるから。動機はなんであれ、自分から何かをしようとしてくれることは、いいことだ。












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