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近藤 みずき
14
羽海汐遠
16,645
空がやたらと青かった。それだけで、十分に良い日だと思えた。することがないと、時の流れは遅く、いつも暇を持て余していた。何百と通ったこの商店街へ、いいかげん、飽きようとも、他に行くあてもないので、とどまった。ある程度事情を知る女店主から、コロッケや惣菜を押し付けられては、笑顔を作り感謝を述べ、少し悩んで野良へやった。これもまた、飽きた味だったのである。外はまだ明るい、午後7時である。冬の時期だと、すぐに日が暮れてしまう上、常に冷えるので苦労するが、春が来たる今は、もう安心である。公園にでも足を運び、ベンチは汚れているのでブランコへ腰掛けた。赤色の自販機が汚れたベンチを照らし、そのふたつだけの空間に見えた。草はぼうぼうと茂り始め、つくしがいくつか生えていて、花が咲いたり咲かなかったりしている。この静かでさみしさを感じさせる空間へ、本人はさみしさを感じていなかった。日常で、日課であるからして、今更感じるものなど、とうに無かったからだ。ブランコの錆びた鎖の、ぎいぎいとうるさい擦れ音を、あたりへ、(といっても公園外には聞こえていなかっただろう。)響かせながら、ただぼうっと過ごした。なんともつまらない、高校一年生から二年生への春休みである。青かった空は、日暮れと共に赤色を帯び、そして次第に黒を纏っていった。眠気がしたので、その日は帰り、体を流して眠りについた。
この日は桜が散る日で、つまり風が強かった。予定も無く、いつも通りに家を出た、朝9時半だった。玄関先には姿見が置かれていたが、見る暇もなく自分の靴を履いた。学校で使っているものである。玄関に並んだ見知らぬ靴の存在は、見知ったものであったが、その靴自体のことは、やはり知らなかった。街へ出ようと人はまばらで、老人は既に帰り、若人は家に居るような時間だった。あの女店主はシャッターを締め切っており、どうやら今日が月曜だったらしいと知る。(商店街のコロッケの店は、月曜に定休日を定めていたことから。)その時は海を見に行く発想はなく、公園の方へ足を運んでみたものの、ぼうぼうと生い茂る雑草共と、汚れたベンチと、赤色の自販機しかない空間だった。何も無かったように通り過ぎ、何も考えず歩みを進めると、汽車の線路が現れる。これもまた、見なかったことにする。その先に真っ青で、広大な海が広がっていたためである。砂浜へ足を運ぶと、沈んだ。なんとも歩きにくいのだが、関係ないと海へ近付いた。ある程度近付くと砂は濡れ、固まっているので歩くことが容易になった。ただし、何も無かった。テトラポットが重なっているだけだった。時間潰しも兼ね、そこへ寝そべり眠りについた。太陽だけが眩しく、あつく、そこにあった。
起きた時には太陽は真上にあり、正午を察する。もう眠ることも叶わないので、体を起こし、その足で街へ戻った。することがない。毎日こう過ごしていると、慣れも生じるものだが、本当にすることがないのである。無になって時間を潰すのにも、ベンチを占領する訳にはいかず、突っ立っているわけにもいかないので、どうしようもなく歩くしかない。知らない所へ向かう冒険心も、人へわざわざ話しかけるようなサービス心も持ち合わせていないため、商店街をただ往復するのである。アーケードのとある店の、決して若くない店主に声をかけられた。
「なあ、今日は特別にタダでゲームをやらせてやってもいいぞ。」
信じられないことを言われたので、即座にこう返した。
「なんの間違いです?守銭奴のあなたがそんなサービスをするなんて。天地がひっくり返ってもありえない。」
すると、店主はこう付け加えた。
「エイプリルフール、ってやつだよ。お坊ちゃん。」
そうして、今日、自分が16歳になったということを知る。この4月1日、誕生日は、毎年、音もなく訪れるのだ。同じクラスだった青年は、皆先にひとつ歳をとっている。春休みを迎えてようやく、同い年になる。早生まれである点について、違和感や嫌悪を持ったことはないが、こうして、歳をとったことに気が付かない年があるので、大変迷惑している。その日もまた、空はやたらと青かった。
コメント
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ああー、これすごく好きだわ。冒頭の「空がやたらと青かった。それだけで、十分に良い日だと思えた。」って一文で、もうこの作品の空気感にどっぷり浸かれた。特別なことは何も起きないけど、主人公の「することがない」っていう日常の重みと、そこに漂う春の匂いみたいなのが刺さる。誕生日をエイプリルフールで思い出すの、なんか切なくて、でもその「空はやたらと青かった」に戻ってくる構成がじわっとくる。16歳、おめでとう。