テラーノベル
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病室に入ると萌音は寝込んでいた。
「大丈夫?」
返事はなかった。
「おい、返事をしろ」
「ただ寝てるだけだよ」
後ろを見ると翔太が立っていた。
バン
翔太は僕の顔を殴ってきた。
「俺の彼女に手を出すなよ」
「今まで友達だったのに…」
「俺は萌音と一生一緒に生きていく。
自分は昔からずっと萌音のことが好きだった。
あの日、お前の気持ちを聞いて
びっくりしたけど、
お前なんか到底高嶺の花には近づけない」
何も言い返せなかった。
「主人公になれたからって調子乗るなよ。
俺の恋人だぞ。出て行け」
「すいません」
僕は悔しい気持ちだけを残しながら、
家に帰った。もう萌音のことは忘れよう。
ラインや萌音との写真を全て消した。
萌音は翔太のものなんだ。
次の日、いよいよクライマックスの
撮影に入った。
「よーーいスタート」
僕が向かった先はダークタワーと
呼ばれる狼のすみかだった。
全速力でダークタワーを駆け上った。
その途中、大量の小さい狼にあった。
『どうしたら良いんだ』
気がつくと周りを囲まれていた。
勇者になって魂を貰ったとはいえ、
本当に強いのか?
何が出来るかは分からなかった。
試しに剣を振ってみることにした。
ブン
『うわーー』
周りの狼は一瞬で倒れた。これが僕の力なのか。これならいけるぞ。屋上を目指して先を進んだ。あっという間に屋上に着いた。
『おい、萌音はどこだ?』
『ここだよ』
狼の大きさは桁違いだった。人の10倍はあった。その狼が指さす方に萌音がいた。
萌音は倒れていた。
『まさか、魂を食べたのか?』
『とても美味しかったよ』
魂を取られたものは記憶を失う。
この言葉が蘇る。僕は全力で剣を振った。
しかし、倒れなかった。
『そんなんで倒せるはずねぇだろ。
ダークテール』
狼は尻尾を振りまわし、
その風圧で倒れてしまった。
『まだ、まだだ』
反撃をしようとしたその時、勇者の格好が消えていった。剣も無くなってしまった。
『どうして?何で切れたの?』
『ガハガハ。魂と心は繋がっていて心が弱ると魂も弱くなる。そのせいで魔法が解けたんだろ。
まあ俺には勝てないけどな』
『くそ。どうしたらいいんだ』
まずは強気に立ち向かわないといけない。心を落ち着かせて。大丈夫だ。大丈夫だ。あんなやつ怖くない。僕は立ち上がった。
『おい、狼。取引をしようじゃないか?』
『取引って何だよ?』
『僕の魂と萌音を交換してくれ』
『自己犠牲をするとは。ガハガハ。なかなかなものだ。ただお前の魂なんて……』
僕は萌音を守るんだ。僕は萌音を愛してるから。その時、僕の体が光りはじめた。
『いったいこれは何だ?』
『こんな大きな魂を見たことがない……
良いだろ。モネは返してやろう。ほら』
萌音をおんぶして船まで行かせた。
船には鳩がいた。
『萌音をよろしく頼む』
『わかりました。あなたは?』
『僕もすぐに行くから』
『分かりました』
萌音は無事帰ることができた。
僕は再び狼の元に戻った。
『さあ、ここからがショータイムだ』
『良いだろ。僕の魂を食べるが良い』
『ああ。いただくぜ』
急に意識が無くなっていた。
気がつくと教室にいた。
『ここはどこ?僕は誰なんだ?』
僕は……。
起きあがろうとしても起き上がれなかった。
『もうここで死ぬのかな』
不安が横切った。
「カッーート。代役ナイス」
萌音がいないため、代役が入った。
代役は演技も上手かった。
でも、僕は楽しくなかった。
萌音がいないと……。
「おーい。元気出せよ」
空が肩を叩いてくれた。
「うん」
「よし。海に行こうぜ」
空に連れられて海に行くことになった。
次の日、空と合流して電車に乗ろうとしたが、
電車を間違えてしまった。
着いたのはあの時と同じ都会だった。
「あれ、海じゃないな」
空は残念そうな顔をしていた。あの日の記憶が蘇る。何度も削除しても蘇ってくる。
もう忘れたい。もう萌音とは………。
忘れようと思っても忘れることができない。
それが恋なのかもしれない。
「まあいいか。思いっきり遊ぼうぜ」
「う……ん」
そして、2時間はずっと遊びまくった。
ボウリングやカラオケなどに行った。
外は炎天下でとても暑かった。
「ちょっとかき氷食べに行こうぜ」
『ねえ、かき氷が食べたい』
また、あの時の言葉が蘇る。
「嫌だ」
「何でだよ。そんなこと言わずに」
「ここから歩いて30分かかるよ」
「良いよ。行こうぜ」
僕たちはあの日と同じように
かき氷屋へ向かった。
今回はちゃんと開いていた。
「かき氷2つ……いや3つお願いします」
「何で3つも頼んだんだよ!
俺とお前2つでいいだろ?」
「隣にもう1人いるよ」
僕には萌音が隣にいるように見えた。
翔太。ごめんね。
やっぱり諦めれない。かき氷が届いた。
「このかき氷めっちゃ美味しいな」
「う、うん」
プルルルプルルル
どこからか電話がなった。
周りを見渡しても人はいなかった。
「お前じゃないか?」
カバンの中を見るとスマホが振動していた。
電話の相手は萌音からだった。
僕がカバンの中にしまおうとした時、
空が強引に奪って出てしまった。
「もしもし。翔太だけど、
萌音がお前と電話したいらしいよ」
何で僕に?僕はドキドキしながら電話に出た。
「も、もしもし」
「もしもし。健くん?
さっきは私の彼氏がごめんね」
「いや。良いよ」
「それより、
ラストシーンを撮りたいんだけど今から良い?」
「今から?」
「うん」
「何で?」
「明日、手術をするんだ。
文化祭当日も手術をしないといけなくて……。
今日しかないんだよ」
その声は泣いているように見えた。
でも、僕には役をやり切る自信が無かった。
どうせ僕は初めから主人公でも無かったんだ。 映画を撮ると決まり、
役を決める日に僕は休んでしまった。
次の日、学校に行くと
主人公の下に僕の名前があった。
無理だよ。出来ないよ。
そうみんなに伝えたが、
みんな主人公をやろうとはしなかった。
すると、空が近づいてきて、
「ヒロインはお前の好きな萌音だぞ」
そう言われ、やる気を出したが、
結局ダメだった。萌音には彼氏がいる。
それも翔太という高嶺の花が。
それを知った以上、やる意味が無い。
僕が断ろうとした時、空がまたスマホを取って
「すぐに行かせます」
とだけ言い、僕の手を引っ張っていった。
「何でだよ。離せよ。僕はもうしたくないんだ」
「お前、そんなんで良いのか?
まだ気持ちも伝えて無いくせに」
病院に着くとラストシーンを撮ることになった。ラストシーンは萌音も健も死ぬという
バッドエンドだ。
最後に主人公が萌音の手を握り泣きまくる。
でも、僕は俳優じゃない以上、
泣くことは出来なかった。
いざ、始まるとテイク25まで行ってしまった。
「お前、どうしたんだよ!涙を流すだけだぞ」
と監督は言うが、
それが簡単に出来たら苦労しない。
「一旦休憩しよう」
と空が言ったため、1時間、休憩することにした。みんな、
店に行って食べ物を食べたりしていたが、
自分は萌音のところにいた。
「もう無理かもしれない」
「私、明日、手術なの。成功する確率は30%。
先生は成功するって言ってるけど……。
私、毎日不安なの。死んだらどうしようって。 ここまで映画を撮ってきたのに、
最後だけ撮れないなんて、
絶対後悔する。そう思って健くんを読んだんだ」
萌音が死ぬ?そんなことを考えたことも無かった。死んだら僕は何をすれば良いの?好きな人を失うってどんな感じなの?
「ごめん……。僕は………」
その目から涙がこぼれた。
「出るじゃん。涙」
萌音に想いを伝えないと。
「よーーいスタート」
「カッーート」
ラストシーンはバッドエンドで
終わるはずだったのに
ハッピーエンドに変わってしまった。
そして、文化祭当日。僕は学校を休んだ。
萌音と過ごしたい。萌音に死んでほしくない。
そんな思いで、萌音のところに向かった。
手術室の前には翔太がいた。
「俺、振られてしまったよ」
翔太が振られたと言った瞬間、
心のどこかで喜ぶ自分がいた。
「そうか。ドンマイ」
「どうせ、嬉しいんだろ?よかったな。おまえ、昔からずっと好きだったもんな」
「うん」
「あの日、お前を殴ってごめんな」
「そんなんで許されると思ってるの」
「…………」
「何てな。別にもう良いよ。
終わったことだから……。僕の恋も」
「ありがとう」
プルルル僕のスマホから鳴り響いた。
取り出すと空からだった。
「もしもし。お前、何やってるの?」
「萌音の手術を見守ってる」
「はあ?こっちは盛大に盛り上がってるよ。
映画、スマホで撮ったから送ってやるよ」
LINEで映画が届いた。時間は20分。
「ありがとう」
手術のランプが消え、
僕と翔太は萌音のところに向かった。
「大丈夫ですか?」
「手術は成功しました。命に問題はありません」
よかった。僕と翔太はハイタッチをした。
「でも…………」
「でも?」
「後遺症により記憶を失いました」
「え…………」
言葉が出なかった。
実際、萌音に会いに行くと萌音に
「あなた誰?」
と言われてしまった。何で?何でだよ!あんなに元気だったのに。翔太は手術が成功したと分かると何も言わずに帰っていった。
「萌音、本当に覚えてないの?」
「ごめんなさい」
僕は病院を後にした。泣きながら海に向かった。あの時の萌音に会いたい。
海の砂浜で1人で映画を見ながら
寝転がっていた。空はただ高く青かった。
現実逃避をしたい。
映画はクライマックスを迎えた。
気がつくと浜辺で倒れていた。
何があったのか?何でここにいるのか?
自分には好きな人がいたはず。
それは誰なのか?何もかも忘れていた。
ただ好きな人に会いたいために
僕は王国を回り始めた。
走る体力も無い中、家を訪問した。
きっと顔を見れば思い出す。
そう思い込んでいた。この王国は不思議だ。
住民が全員鳩だった。
1時間ぐらい経っただろうか。
もう歩く力も無くなっていた。
もう僕は無理かもしれない。
ポツン
頭の上に水が落ちた。
その瞬間、体力が回復し、記憶を取り戻した。
そうだ。あの時、狼に魂を取られて……。
周りを見ると鳩の住民が人間に戻っていた。
僕の好きな人は……萌音だ。
僕は走り出した。お願い。やめて。死なないで。
『萌音。大丈夫?』
そこには1人の少年がいた。
そして、少年は首を横に振った。
20分前の事だった。
『萌音様。大丈夫でしょうか?』
『私の魂はもう残り少ない。
ならみんなに配りたいです』
『何を言っているのですか?
私の魂をあげますよ』
『やめて。死んでほしくない。
死ぬのは私だけで充分なの。
みんなを人間に戻してあげたい』
萌音はベランダに出て魂を王国中に降らせた。
雨となって。
僕は萌音の元に行き、手を握り涙を流した。
本当はここで終わる予定だった。
しかし、監督はカットと言わなかった。
僕は続けることにした。
『萌音。ごめんね。
僕のせいでこんなことに……。
もっと僕が強ければ。もっと早く助けてれば』
出てくる言葉はどれも後悔ばかりだった。
『萌音は高嶺の花だ。
僕は萌音に追いつきたくて、
勉強も頑張って……。
苦手な体育にも取り組んだ。
でも、僕は枯れた花だったのかもしれない』
涙が溢れ出た。その時だった。
萌音は目を覚ましてしまった。
『ありがとう』
『萌音に会えて良かったよ。大好きだよ』
『私も健くんのこと、ずっと好きだったよ。
もし、私が死んでも泣かないでね』
『無理だよ。そんなの。一生このままが良い』
『ありがとう。健くんなら私がどこにいても
必ず探してくれそうだね。
そして、私を笑顔にしてくれる。
あの時も確か私を助けてくれたよね』
『あの時って?
萌音と出会ったのは高校からじゃ…』
『私が小学生の時だった。
家族で海に行っていた時、
海に夢中になっていた私は
迷子になってしまった。
そんな私に1人の少年は笑顔でかき氷を渡して、食べる?とだけ言ってくれた。
私はそれが嬉しくて……。
それからかき氷は私の好きな食べ物になったの』
現実と劇が重なり合ってしまった。
こんな設定はどこにも無かったのに。
ふと監督を見たが、黙っていた。
『そうだったんだ』
『健くんは枯れた花なんかじゃ無いよ。私を助けて、笑顔にしてくれた。
私の胸の中でずっと咲いてるよ。
健くんの笑顔が。また逢おうね。約束だよ』
『うん』
萌音と僕は抱き合った。萌音の心臓の鼓動が伝わってきた。それから10分後、萌音は眠りについた。僕は『ありがとう』とだけ言って病院を後にした。
END
萌音がアドリブで言った『大好きだよ』
これは本当だったのか。
映画のセリフとして言ったのか。
よく分からなかった。
でも、僕と萌音が釣り合うはずが無い。
あれは全部嘘だったのかもしれない。
いや、絶対嘘だ。
元々、萌音とは生きている次元が違った。
でも……脳裏に萌音の声が響き渡る。
『また逢おうね。約束だよ』
そうだ。あの日、
劇の中で僕は萌音と約束をしたんだ。
僕の足は病院へと向かった。
頭では無理って分かってるのに。
記憶を失った萌音にどうしてあげたら良いのか?どうやったら記憶を取り戻してくれるか?
分からないことだらけだ。
でも、今は萌音に逢いたい。
その一心で走り続けた。
病室に着き、萌音と出会った。
萌音は不思議そうに僕の顔を見ていた。
これから何が起こるか分からない。
記憶が戻るかも分からない。
それでも、
僕は萌音と一緒にいることを決意した。
「初めまして。僕は主人公を演じた健です。
よろしく」
もう赤点を取るのもやめる。運動も頑張るから。どうか見てて。
高嶺の花に少しでも追いつけるように。
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