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あめ猫@サボり魔
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#見捨てられた
リコりす@アナログタノピイ
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スポーン・カルトの集落を囲む森に、陽光が差し込んでいた。
湿った土。
薬草の匂い。
風に揺れる木々の葉擦れ。
アズールは籠を胸に抱き、小道を急いでいた。
摘みたてのハーブが揺れるたび、柔らかな香りが漂う。
この薬草なら熱を下げられる。
この葉なら傷口の痛みも和らぐ。
そんなことばかり考えていた。
植物は決して裏切らない。
必要な手順を踏めば、必ず応えてくれる。
だから好きだった。
そして、その知識を誰より使ってあげたい相手がいた。
ツータイム。
集落ではいつも浮いた存在だった。
儀式には呼ばれない。
重い薪を運ばされ、誰より遅くまで働かされる。
笑っていても、どこか寂しそうな横顔。
その姿を見るたび、アズールは放っておけなかった。
傷があれば薬を塗り。
熱があれば薬草を煎じ。
疲れれば森で摘んだ花を一輪だけ渡す。
そんな小さな時間が、アズールにとって何より大切だった。
だからこそ。
今日耳にした噂が、胸の奥をざわつかせていた。
「アマラ様がツータイムを呼んだらしい。」
その一言だけで嫌な予感がした。
アマラ。
幹部の一人。
誰も逆らえない存在。
彼が直々にツータイムを呼ぶ理由など、一つも思いつかなかった。
礼拝堂へ近付く。
古びた扉は少しだけ開いていた。
中から漏れる蝋燭の明かり。
アズールは息を潜め、そっと隙間を覗く。
そして。
時間が止まった。
礼拝堂の中央。
跪くツータイム。
その黒い髪へ、白い手が伸びていた。
アマラだった。
ゆっくりと髪を梳く。
頬へ触れる。
肩へ手を置く。
「お前は神に選ばれる器だ。」
静かな声が礼拝堂へ響く。
「もっと祈りなさい。」
その言葉よりも。
その指先の方が、アズールには耐えられなかった。
(……触るな。)
胸が締め付けられる。
(そこへ触るな。)
あの白い頬へ。
あの肩へ。
自分が薬を塗った場所へ。
他人の手が触れている。
その事実だけで、息ができなくなる。
ツータイムは静かに頷いていた。
瞳は少しだけ熱を帯び、どこか夢を見るように揺れている。
その表情が、アズールには遠く感じられた。
誰かに連れていかれる。
誰かへ奪われる。
そんな恐怖だけが膨らんでいく。
やがて扉が開いた。
アマラは去り、礼拝堂にはツータイムだけが残る。
「……あれ?」
ツータイムが気付いた。
木陰に立ち尽くすアズールへ、小さく笑いかける。
「どうしたの?」
その笑顔を見た瞬間。
アズールの足が勝手に動いた。
抱えていた籠が地面へ落ちる。
乾いた音を立てて薬草が散らばる。
そのままツータイムの肩を掴み、礼拝堂の壁へ押し当てた。
「わっ……!」
驚いた声。
「アズール?」
息が荒い。
胸が苦しい。
頭が熱い。
「……誰に。」
震える声。
「誰に触られていたの。」
普段の穏やかな植物学者はいなかった。
そこにいたのは。
大切なものを失うことだけを恐れる、一人の青年だった。
ツータイムはきょとんとする。
「アマラ様?」
何でもないことのように答える。
その一言が胸へ突き刺さる。
アズールは震える手でツータイムの肩へ触れた。
何度も。
何度も。
服を払う。
頬を優しく擦る。
そこに残る見えない痕跡を消そうとするように。
「アズール、痛いよ。」
小さく笑う声。
けれどアズールの手は止まらない。
「アマラ様がね。」
Two Timeは嬉しそうに話し始める。
「僕は神に選ばれるって。」
少し照れたように笑う。
「短剣もくれるんだって。」
未来を語るような口調。
その一言一言が、アズールには恐ろしく聞こえた。
神。
選ばれる。
短剣。
そのすべてが、自分からツータイムを奪う言葉に思えた。
「もう……。」
声が震える。
「聞きたくない。」
思わず抱き締める。
強く。
逃がさないように。
「僕だけを見て。」
肩へ顔を埋める。
「神なんて見なくていい。」
涙が滲む。
「アマラもいらない。」
震える声で続ける。
「君を救けられるのは僕だけだ。」
薬草の香りが二人を包む。
「君の傷を癒やせるのも。」
腕へ力が入る。
「君を守れるのも。」
囁くように。
「僕だけでいい。」
ツータイムは驚いたまま黙っていた。
少しだけ身体を強張らせる。
けれど。
やがて小さく息を吐き、そっとアズールの背中へ腕を回した。
その手は温かかった。
「うん。」
穏やかな声。
「分かった。」
黒髪を優しく撫でる。
「僕にはアズールしかいない。」
柔らかな笑み。
「アズールが、僕の一番大切な友達で。」
少し照れながら。
「恋人だから。」
その言葉を聞いた瞬間、アズールは静かに目を閉じた。
ようやく胸の痛みが和らぐ。
安心した。
奪われていない。
まだ自分の隣にいてくれる。
そう信じられたから。
けれど、この抱擁の奥で芽生えた「失うことへの恐怖」は、まだ誰にも名前を付けられていなかった。
その小さな嫉妬の種は、やがて裏切りと死を経て歪み、主人を独占しようと願う狂信へと姿を変えていく。