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スタジオまで元貴が追ってきてくれるんじゃないか、なんてこの期に及んで僕はまだ傲慢でその期待は外れた。
夜になり、元貴が少し遅めにスタジオに入った。
目と目が合う。
「涼ちゃん、練習してたの?偉いね」
それを聞いて若井が言う。
「それなら俺だって、君たちが外出てる間ずっとギター弾いてたよ!」
「うん、わかってる。黙ってて。今日は涼ちゃんを褒めたいの」
「黙っててって、ひどすぎだろw」
さっきの気まずい空気はなかったかのように、僕を甘やかしてくる。
その優しさが逆に怖い。。
プライベートと仕事は分けるよね。
貴方はプロだもん、それに比べて僕は…
そんな事ばかり考えて、 多分、練習に身が入ってなかったんだろう。
音合わせの途中で
「涼ちゃん!」
元貴の呼ぶ声でふと我に返った。
「そこのAメロのところ…」
と言って、僕の後ろから元貴が鍵盤を触る。
「こんな感じで優しめに弾ける?」
と見本を示す。
元貴の顔が僕の肩に触れるか触れないか位の距離で。
「こう?」と言って、少し柔らかめに弾くと
「うん、そんな感じ!あと次…」と元貴がまた鍵盤に触ると、僕の指に触れそうになった。
「あ、ごめん」
元貴が体を離すと、「た・ららら〜っみたいな感じで」と説明を続けた。
ごめん?
いつも指先が触れるくらい普通なのに。
友達の時でさえ、腕組んだり抱きついたりなんて当たり前だったのに
なんで謝るの?
さっきキスを拒否したから?
自分の身勝手さに嫌気が差して、その後はひたすらピアノの音に集中した。
元貴が作るこの曲みたいに優しくなりたい…
気が付くと練習は終わり、元貴の姿はそこにはなかった。
そして、ふと昼間見た女の子のことを思い出すと
「あっ!!」とつい大声を出してしまった。
若井が「何!?びっくりした、涼ちゃん?」と驚く。
そう、思い出した!多分あの子…
「若井、先に帰るね!お疲れ様です!」
と急いで荷物をまとめると、僕は元貴の家に向かった。