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「はい。私の今の力では悔しいことに、土蜘蛛の全てを焼き尽くすことは出来ません。一点集中で炎を操って吸収された人達を助けても、ここにはたくさんの人がいる──土蜘蛛は鷹夜様を警戒している。鷹夜様が動けないように、また新たな人質を取る可能性が高い」
私が淡々と話すと梔子様は「そうやな」と真面目に頷いてくれた。安心してその先を話す。
「だから私が土蜘蛛を、人払いをしている皇宮まで引きつけます。今の私なら──五分程で皇宮まで辿り着ける」
ここまで来た道のりは覚えている。
大丈夫だと拳を握る。
「そこで、吸収された人を一気に救助します。命さえあれば私が瞬時に回復させることが出来る。その後は私が土蜘蛛を、他の人を吸収させないように抑え込みます。鷹夜様が追い付くまで頑張るから……」
そこまで言ってから、鷹夜様を見て微笑んだ。
「私ごと黒洞を打って下さい」
私の発言に鷹夜様と梔子様がさすがに息を呑んだ。鷹夜様が梔子様の戒めを乱暴に振りほどいて私に厳しく問い質した。
「環、何を言っている!?」
鷹夜様にしては珍しく、焦りの表情を剥き出しにしていた。いつも冷静な紫の瞳が酷く揺れている。
「鷹夜様。私にはこれしか思いつきません。土蜘蛛が誰も人質を取らず、倒す方法が思いつかないのです」
炎で抑え込んでいても鷹夜様が来て、黒洞を打つその刹那。私が一瞬で離れた隙に、土蜘蛛は土に潜って逃げる可能性もある。
土蜘蛛を倒す方法はその場に足止めをして、一気に葬り去ること。
足止めをしていたという結界も、土蜘蛛がその気になれば動けたのだろう。
土蜘蛛はただ、鷹夜様を追い詰める機を見ていた可能性が高いと思った。
それがわからない鷹夜様じゃない。
だから──これしかない。
私は鷹夜様に殺されるなら本望だ。何も怖くない。
だから微笑んだ。
これは杜若環が杜若鷹夜の妻として、人として選んだこと。人を愛しているから選んだ結末。
私はこの選択に胸を張って誇れる。
「これ以上は土蜘蛛に吸収された人たちの命が危ない。もう、炎が消えてしまう。早くしないと……!」
鷹夜様と土蜘蛛を見比べて焦ってしまう。
土蜘蛛を包み込む炎はもう消えそうだ。時間があまりないと思った。その焦りに答えてくれたのは梔子様だった。
「分かった。それでいこ。エエ女の言うことは聞かんとな。鷹夜、良かったな。五人から一人になった」
「真守お前……ッ!!」
鷹夜様が梔子様に向かって拳を高く上げたが、その拳は宙でピタリと止まり。
振り上げた拳はなんと、鷹夜様自身の額にがッと当たった。ごつっと鈍い音に驚いて、ビクッとなる。
梔子様は静かに鷹夜様を見つめている。
そんな中、鷹夜様は大きく深呼吸したあと、いつものように私を冷静に見つめた。
「……っ、痛みで、頭がすっきりした。環。分かった。皇宮まで土蜘蛛を引きつけて、そこで五人の救出を頼む」
「はいっ!」
「そして、そのあとは何としてでも環を土蜘蛛から引き離して黒洞を打つ。土蜘蛛だけを倒す方法は今から考える。俺は絶対に環を犠牲にしないから、皇宮で待っていてくれ」
そう言って鷹夜様は私の頬に触れた。
そして笑ってくれた。
「環、その姿はとても美しい。また惚れてしまった」
「!」
梔子様が「ここで惚気るか」と言った。
そんな風に言われて、恥ずかしくもあったけど鷹夜様のその言葉が嬉しいと思うと──背後にある九本の尻尾がざわざわと大きく揺れてしまった。金色の毛が私の喜びに反応してふわっと大きくなる。
ついでに頭から生えた耳まで、ぴこぴこと動くのが分かった。