◻︎恋愛小説
ひとしきり弥生の話を聞いて、電話を切った。
『ありがとう、電話してくれて。誰かに話したかったんだけど、なかなかそんな友達もいなくてね…』
と最後に言われた。
「やっぱりさぁ、誰かに聞いて欲しかったんだよね、弥生さんも。女は話したがりで誰かに話しを聞いて欲しい生きものなんだよ」
「そうだね、私もそんな時ある。でもまさかサイトで知り合った人のところに行くなんてね」
「ありのままの私でいいって言ってくれたからって言ってたけど…ありのままってなんだ?ありのぉーままのー♪」
礼子がふざけて、歌い出した。
「もう、妻でも母でも嫁でもない、自分自身でいいと言ってくれたってことかな?」
「あ、つまり、私と美和子が脱皮するって言ってるのと同じかな?」
_____恋?自分自身?
礼子の話を聞きながら、私は頭の中で別なことをぐるぐる考えてた。
「あのさ、礼子、私、恋したい」
「それ、こないだ聞いたぁ!」
「なんていうか、理想の男とか理想の恋ってわからないけど。それを目指して何か書いてみたい」
「へ?何を?」
「携帯小説とか…」
「美和子が?」
「うん、どうかな?まえから思ってたんだけど、私らくらいの世代向けのラブストーリーって見ないよね?でも、今の弥生さんの話を聞いてたらさ、若い頃とは違う、50代だからこその恋愛ってあるんじゃないかなぁって思って」
「おいおい、弥生さんの話を書くの?」
「ヒントにはする、礼子の恋バナも」
「いいと思うけど。私の恋バナは私が恋してからにしてちょうだいね」
カラン!とグラスの氷が溶けた。
「おかわり!」
「酎ハイでいい?」
「うん」
私は、当面のやりたいことを“恋愛小説を書くこと”にした。
それも紙ではなく、電子媒体で。
主人公になりそうな女と、相手の男を思い浮かべてみる…。
「ねぇ礼子、女の賞味期限って言うけどさ、それ、男にもあるよね?」
「なんで?」
「女ばかり不公平じゃん?」
「だね。とりあえずはさぁ、いい男でも探してみたら?で、実際に恋して、それを小説にしてみたら?書きやすそう!」
「そりゃそうだけど、無理」
「なんで?」
「恋はするものじゃない、堕ちるものだから」
私は真面目に答えた。
「頑張って!未来の小説家さん」
礼子がグラスをカツン!と当てた。
恋は堕ちるもの…
まさか自分が堕ちてしまうとは、その時は予想もしなかった。
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