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神澤大の学祭は週末土日、二日間に渡って行われるが、初日のその日、柚乃は準備があるからと言って早々と出かけて行った。
そして私は、予告通りの時間ぴったりに迎えに来た碧斗と一緒に、神澤大へと向かう。
実は今朝まで、行かずに済む理由を考えていた。けれど、柚乃たちの軽喫茶に入ったとして、長時間そこにいるようなことはないだろうし、柚乃だって何かと忙しいはずで、私たちだけに構ってもいられないはずだ。それに、私は気持ちを隠すのが上手になっているはずで、だから大丈夫と気を取り直したのだった。
大学の正門に近づくにつれて、人の姿が増えていった。その流れに乗って、私は碧斗と共に構内へと進む。通り沿いに並んだ模擬店からの賑やかな呼び込みの声を聞きながら、私たちはぶらぶらと歩いていたが、店が途切れた所で碧斗が口を開く。
「さて、学校の中に入ってみるか。詩乃はうちの大学の建物内に入るのは初めてだっけ?」
「大学一年の時に来たことがあるよ。友達と学祭を見に」
「あぁ、そうだったな。あの時は柚乃のサークル、軽喫茶じゃないことやったんだったな。なんだっけ。焼き菓子を売ってたんだっけ?」
「うん。碧斗はカメラ部の展示で写真を出したんだよね。今年は展示してるの?」
碧斗の趣味は写真を撮ることだ。高校生の時から父親の影響で始め、今ではコンテストで賞をもらうほどの腕前だ。
「あぁ、やってるよ」
「そっちの方の手伝いとか、大丈夫だった?」
「展示中の手伝いっていう意味なら、今回は特にないんだ。中心になって動いてるのは一、二年生だからね。俺ら三、四年生は、ちょこっと顔を出すか、明日の撤収の手伝いに行くらいかな」
「そっか。ねぇ、碧斗の写真も飾ってあるの?一昨年見に来た時は、なかったような気がするんだけど」
「あの年は、これだって言えるような写真がなかったんだ。でも、今年はそれなりに撮れたから、端っこに飾らせてもらった。ちょっと覗いて行くか」
碧斗は私を促して建物の中に入った。途中で階段を登って二階へ行き、ある教室に足を踏み入れる。そこが、写真部の作品を展示している場所のようだった。
私は碧斗の後に続いて、おずおずと教室の中に入った。辺りを見回して、入り口すぐの所に「杉本碧斗」の名前を見つけた。
「この星空って、天の川?綺麗に撮れてるね」
「この時は結構粘ったからな」
ひと通り他の写真を眺めた後、そろそろ次へ行こうと私たちは出口に足を向ける。
ちょうどその時、反対側の出入り口から入って来た男子学生が、碧斗を見て嬉しそうに近寄って来た。
「杉本さん?俺たちがちゃんとやってるか、心配で様子を見に来たんですか?」
「おう、高田。お疲れ様。別にそういうんじゃないよ。他のみんなは?」
「学祭が始まったばかりで、ここにもそんなに人が来ることもないだろうからって、順番に店とか見て回ってます」
「そっか」
互いの口ぶりからして、高田と呼ばれた男性は碧斗の後輩だろう。私は碧斗の陰からそっと顔をのぞかせるようにして、小さく会釈した。
高田は驚いたように瞬きをした後、目を丸くした。
「可愛い人と一緒なんですね。杉本さんの彼女さんですか?」
「いえ、私は」
私が彼の言葉を訂正しようとする前に、碧斗は言う。
「俺の幼なじみだよ」
「へぇ、そうなんだ。てっきり彼女さんかと思っちゃいました。だって、杉本さん、すっごくにこにこしてるから。そんな顔、俺たちの前で見せたことないですよね」
「俺はいつだって、にこにこしてるだろ。そう見えないのは、高田が俺に対して、何かやましさを抱えているからじゃないのか」
「まさか。そんなのないですよ」
高田はあははと笑い、私ににこりと笑いかける。
「学祭、楽しんで行って下さい。じゃ、杉本さん、明日の撤収、よろしくお願いします」
「あぁ、了解」
碧斗は高田に軽く頷いて、その教室を出た。廊下の窓辺に寄り、外に目を向ける。
彼の隣に立ち、その視線をたどった先は、中庭らしき場所だった。そこでは大道芸のようなパフォーマンスが行われていた。
「さて、次はどこに行く?ここに行きたいっていうのが特になければ、柚乃の軽喫茶に行ってみようか」
軽喫茶と聞いて、躊躇する。
「ちょこっと顔出すだけでもいいんじゃない?」
「せっかく来たんだから、店に入ってみようぜ。そこってさ、昼飯になるような物はないんだよな。柚乃んとこで軽くお茶して、その後昼飯用に適当に何か買って、中庭で食べるとするか」
「それならやっぱり、時間的に中途半端だし、顔を出すだけでも……」
碧斗が私に目線を合わせるように、腰を折る。
「なぁ、詩乃。柚乃と喧嘩でもしたのか?柚乃の方は全然普通だったけど」
「喧嘩、は別に……」
「ふぅん……?」
碧斗は腑に落ちないという顔つきで鼻を鳴らし、姿勢を戻す。
「柚乃も詩乃が来てくれるのを待っているみたいだったし、ここまで来たんだ。まずは行ってみよう」
「……うん」
もじもじぐずぐすしている私を見て、碧斗はため息をついた。呆れて先に行ってしまうのかと思っていたら、突然手を繋がれた。
「ちょ、ちょっと、何なの」
慌てる私に碧斗はにやりと笑う。
「こうでもしないと、いつまでも詩乃がここから動かなさそうだから」
私たちの様子を見て、人々が不思議な顔をして通り過ぎていく。
「わ、分かったわよ。行くから、手を離して」
「はいはい」
碧斗はくすっと笑い、繋いだ手を離した。
「じゃあ行くぞ。いつの間にか一人で帰ったとかなしだからな」
「分かったってば」
私は大きなため息をつき、碧斗と並んで歩き出した。
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芙月みひろ
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