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父親が亡くなって悲しむ息子に対して、名医の先生達に挨拶をさせて自分を売り込めって母親ってどうなんだろうね。 挨拶も大事だけれど、悲しみを共有して欲しいなぁ。
腕に抱えたままで、今にも頽れそうになる身体を支えていると、
「……一臣さん、どこにいるんですか?」
ふいに彼の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
咄嗟に彼が、私から身体を離し、
「ここに……すいません……」
メディアなどではよく見かけたことのある、政宗医師の母親──外岐子《ときこ》先生へ、視線を移した。
そうして、その姿を捉えるや、胸ポケットから抜いたハンカチで涙を拭い、
「……すいません、すぐに戻りますから」
彼は、いつにないか細い声で話した。
「こんな所で何をしているんですか? その方は?」
「クリニックのスタッフと会って……、」
問いかけに答えようとする彼の言葉に、言い被せるようにもして、
「そんな人と会っていないで、医師会の方々とでも顔合わせをなさい。名医の方たちに顔を知ってもらうせっかくの機会なのですから」
外岐子先生はそうまくし立てると、彼を一切ねぎらうようなこともなく、さっさと先に戻って行ってしまった。
独り取り残され、
「すいません……」
三度目の同じ言葉をくり返して、私に謝ると、
「……父が亡くなったばかりなのに、あんなことを言うなど……」
どこか寂しげにも見える表情で、政宗医師はポツリと呟いた……。