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モーリー兄弟をもっとみたいです
続きがあったら見たいです!
続きがある感じ…ですか??
撮影の入りが早かった俺と楓弥は、みんなよりも一足先に撮影が終わり、移動まで控え室で休憩していた。
ソファでのんびりしていると、楓弥がスナック菓子の袋を持って隣にどさっと座り込んだ。
「しゅーとくん、暇そうだね」
「お前こそ、何その姿勢。だらけすぎだろ」
「一仕事終わったら、これが正しい休憩スタイルでしょ~?」
楓弥は袋からポテトチップスを取り出し、口に放り込む。その無防備で無邪気な様子に、つい笑ってしまう。
「ふみや、お前ほんとガキみたい」
「え?」
「いや、お菓子ばっか食べてさ。ほら、服に塩落ちてるぞ」
「うわ、ほんとだ!」
慌てて塩を払おうとする楓弥に、更にからかうような声をかける。
「そんなんじゃ、好きな子にも相手されないぞ」
「はぁ!?何言ってんの!」
「だってさ、お前のそのだらけた姿見てみろよ。ほら、ポテチのかす、ここにも付いてる」
そう言いながら、楓弥の肩を軽く叩いて払うふりをする。
「ちょっと~!しゅーとくんのいじわる!」
「いじわるじゃないだろ。面倒見てやってんだから感謝しろよ」
「面倒見てって……お兄ちゃんぶるなよ!」
楓弥がむくれた表情を浮かべる。その様子があまりにも可愛くて、俺は笑いをこらえ切れなかった。
「お兄ちゃんぶるって、事実じゃん?俺から見たら、ふみやなんてまだまだ子どもだよ」
「……子ども?」
楓弥の声が少し小さくなったので、からかい過ぎたかと思い、すぐに笑って誤魔化そうとした。
「そうだろ?お菓子食べてボロボロにしてさ。ほんと、可愛い最年少だよ」
しかし次の瞬間、楓弥がスナック菓子の袋をテーブルに置き、いきなり俺の腕を掴んだ。
「え、何?」
驚く間もなく、そのままソファに優しく押し倒された。
「しゅーとくん、俺もう20歳なんだけど」
落ち着いた低い声が耳元で響いた。その言葉に、心臓が飛び跳ねる。
「な、何だよ。ふざけんなって、」
「ふざけてるように見える?」
顔を近づけてくる楓弥の瞳は、いつもの無邪気さとは違っていた。まっすぐで、強い意志を感じさせる。
楓弥の言葉が真剣なものだと気づきながらも、どうしたら良いか分からず、笑い飛ばそうとしてしまう。
「はいはい、もう分かったから。ほら、誰か来るかもしれないから離れろって」
そう言いながら、無理に腕を振りほどこうとするが、楓弥はまったく動こうとしない。
「誰か来たら困るんだ、しゅーとくんが」
その言葉に、動きを止めた。一瞬の静寂が訪れる。
「……俺も困るけど、お前も困るだろ」
「困らないよ」
軽く笑みを浮かべながらそう言い切る、 楓弥の香水の香りが鼻を掠めて息が詰まる。
至近距離にあるその表情がなんだかいつもと違う雰囲気を漂わせていて、視線をそらした。
(なんだよ、これ……)
楓弥なんかより、身長も力も自分の方がある。力ずくで振りほどくことなんか簡単なのに、何故かそれが出来ない。
俺が困って動かない様子を見かねたのか、楓弥は少し間を置いてからようやく手を離してくれた。
「……まぁ、いいや。今日はこれくらいにしとく」
冗談っぽく言い残し、立ち上がって部屋を出て行く楓弥。
その後ろ姿を見送りながら、自分の心臓の音がやけに大きく響いているのを感じた。
(……何なんだよ、もう…)
頭の中が混乱したまま、ソファに座り込んだまましばらく動けなかった。
数日後――
俺は、あの日以来、楓弥とまともに目を合わせられなくなっていた。撮影中やリハーサル中、楓弥が近づいてくるたびに、思わず視線をそらしてしまう。
何かを言いたそうな楓弥の視線を感じながら、どうしてもその瞳を正面から受け止められない。それどころか、楓弥がそばに来るだけで、胸がざわついてしまう。
「しゅーとくん?どうしたの?」
楓弥の無邪気な声が背後から聞こえると、思わず一歩距離を取ってしまう。
「……なんもないけど」
「なんもない割には、最近ずっと避けられてる気がするんだけど」
「…気のせいだろ」
そう返事をしながらも、また目を合わせることができなかった。その様子を、周りのメンバーたちもなんとなく察しているようだったが、深く突っ込む者はいなかった。1人を覗いて。
ふみくんだけが、俺たちの様子をじっと見つめ、タイミングを見計らったように声をかけてくる。
「しゅーと」
「……何ですか?」
「最近、元気ない感じがするけど。ふみやと何かあった?」
その問いかけに、ふみくんの表情をうかがう。相変わらずの柔らかい口調と穏やかな表情を浮かべているが、その視線には、仕事に持ち込むなと釘を刺されるような感覚があった。
「……大丈夫ですよ」
「まぁ、しゅーとがそう言うなら信じるけど」
ふみくんは笑顔のままそう言うと、それ以上、踏み込んで来ることはなかった。
楓弥に対するモヤモヤした感情が消えるどころか、日々強くなっていくのを感じながら、俺はどうすればいいのか分からずにいた。