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やっと来やがった、増援だ。オレンジスパークル。企業のエリートパイロットにして、圧倒的エース。オペレータを名乗るななもりとやらの真面目さに比べ、本人は声から随分と戦闘狂の匂いがする。
ズシン、とオレンジの機体が俺の真横に着陸する。
『赤い猟犬の力、是非とも見せてもらおう。』
圧がすっごい。何で俺そんな期待されてるの?
ただしこれで2対2。ジェルが来た以上、こちらの方が上と言ってもいいだろう。ただ、手は抜けない。何よりなんか期待されてるし。
『行くぞ、猟犬』
互いに真っ直ぐ突っ込む形で、戦闘が始まる。
『猟犬、こっちは赤いのを片付ける。そっちはもう片方を頼むぞ』
「了解」
向かって右側、白い機体…エンジェル、と言ったか?そいつに照準を合わせる。俺は引き撃ちでライフルとレールガンを着実に当てるが…
嘘だろ?オレンジの機体、真っ直ぐ敵に突っ込んでレーザーダガー振り回しやがった…!?
『お前の実力を示す機会だ、莉犬』
「分かってるさ、ただ…話には聞いてたがあの戦い方、正気じゃない。」
『あぁ…。』
『クソ、ジェルが相手じゃやはり厳しいか…?』
『弱音吐いてる場合か!!赤い雑魚から片付ける、さっさと撃て!!』
2機が同時に俺の方を狙ってくる。望むところだ。
できるだけ距離を取り、着実に相手の耐久値を減らす。
『猟犬、奴らは俺を無視してお前に向かってる。人気者だな、羨ましいよ』
「何言ってるんです、かッ!!!」
一気に距離を詰められ、白い機体のショットガンが刺さる。エンジェルなんて機体名のくせに可愛くねぇ武装積みやがって…!
敵がプラズマキャノンを発射し一瞬隙を見せたところに、上からグレネードをぶち込む。
『システム負荷限界…っ!?』
敵機体が負荷限界を迎え、硬直する。
「そこだぁっ!!!」
チャージし出力を引き上げた右手のレールガンを撃ち込む。肉眼で目視できるほどのソニックブームで、徹甲弾が白い装甲に突き刺さった。
『馬鹿な!?これが俺の最後というか!?』
一方のジェルはといえば、相もかわらず超近距離でショットガンとグレネードをぶち込み、赤い敵機体を一方的にいじめている。
『オレンジ野郎がァァっ!!舐めやがってぇェェェっ!!!』
ちらっとそちらに目をやると、もう敵の耐久度は2割も残っていない。
『猟犬、巻き込まれるなよ…!』
オレンジの機体はレーザータガーを大きく広げ。二回転ぶん回した!?
「チャージショットか!?あんなことが…」
『こッの、こんのォ、グァあああああァァァァっ!!!!!__』
一気に削られた赤い機体は、そのまま撃破されたようだった。
『敵機体、1機撃破』
『猟犬、やれそうか?』
「えぇ、何とか…」
『なるほど、そういう動きもあるのか…』
観察してないで加勢してくれジェル。こっちもかなり削られてるんだよ。
<<耐久値、残り30%>>
敵の耐久値はもう雀の涙といったところか。ミサイルをばら撒き、ライフルを確実に差し込み…。
『避け損なったか…!?傭兵ごときがっ…__』
ミサイルの1発が命中しフィニッシュ。ジェネレータから光が逆流し、プリズム特有の青白い光が溢れ爆発した。
『全敵機体の撃破を確認。』
『二人組と聞いて期待したが…つまらんな』
『さとみの猟犬の力、しかと拝見した。面白いな…』
ジェルとかいうの、絶対敵が“弱くて”落ち込んでるだろ。自分を超える存在を望んでいる、そんな雰囲気だ。そいつとやり合って死ねるのが本望…かどうかはともかく。
『ミッションは完了だ、帰投しろ。』
『こちらオペレータ ななもり。傭兵“莉犬”、共闘に感謝しよう』
『俺たちがまたいつか、こうして再び機体を並べられることを祈ろう』
「こちらこそ…。そちらの技量には追いつけそうもないが。」
作戦参謀室。真っ暗な部屋に、ディスプレイの明かりが眩しい。
「ななもりから参謀本部、聞こえてる?」
交戦を終えた“オレンジスパークル”のオペレータが通信をかけてくる。
「あ〜、聞こえてるよ?なーくん♪」
「今回の共同交戦記録を送信しておく。こっちでも解析して見たけど…かなり興味深い値が出てるね…。」
戦闘ログがターミナルに送信され、ゆっくりとロードされる。
「これは…!?」
先に口を開いたのは、補佐役るぅとだった。
「ふーむ…面白いな」
「莉犬って言ったっけ?彼」
「はい。」
「彼一種の天才肌みたいなやつだよ、自分で気づいてないけど…」
ころんが普段と違う神妙な声でぼそっとそう呟いた。
ディスプレイに映し出される、さまざまな情報。
「プリズム同期率」。機体と身体の同調具合を示す数字が、グラフ最高点で平均の3倍近くあった。
「もう少し訓練を重ねれば、おそらく彼の潜在能力はより…」
「あれ、るぅちゃんが褒めるの珍しいねぇ〜?♪」
「…事実を述べたまでです。」
「アッハハハハww!!クールだよねぇ、いつも…」
「何なんだ?アイツ」
ジェルがおもむろに口を開く。彼の興味関心は、すでに「莉犬」にしかないようであった。
『プリズム同期率は常時平均以上、高い場合は平均の3倍近い値が出ている。』
『ジェルが興味持つと思ったよ…やっぱりね』
「惹かれるが…哀れだな」
『…というと?』
「プリズムの同期率が高いやつは総じて…”灰被り”だ。大厄災で酷い目にあった人間…。戦闘技能は高いが、基地の自室じゃ放射能の後遺症で血でも吐いてるんだろう…」
アドバンストのパイロットは、本人とそのオペレータ以外ほとんどアクセスできない隔離環境に置かれる。強化手術を受けた彼らは、外部刺激に非常に敏感だからだ。
『……』
「争いに巻き込まれてもなお、戦場に身を置くか…。」
「…アドバンストにはもう乗らんのか?”独立傭兵ななもり”」
『何だよ突然…もう傭兵はやめたんだよ』
「いや…何でもねぇ」
「これより我々は、アークの侵攻阻止作戦を開始します。」
暗いブリーフィング室に、るぅとの冷静な声が響いた。相変わらず主任こところんはバナナを食いながらふんぞり返っている。
「彼らは最後の抵抗として、マレー半島及びインドシナ半島に対する揚陸作戦を計画しているとの情報を得ました。おそらくこれが、彼らがユーラシア大陸に上陸する最後のチャンスです。」
「当該地方は何度か彼らに占領されましたが、貴方のようなアドバンストの働きもありすでに取り返しています。すでに沿岸には企業の防衛部隊が配置されていますが、彼らを完全に壊滅させるにはアドバンストの力が必要です。」
「なお当作戦完遂後、我々はアークに対する殲滅戦、”ノー・リミット作戦”を開始します。」
殲滅戦、ねぇ…。
「一次作戦として、海上を進行する海軍部隊及び洋上戦闘プラットフォームの破壊を行います。相手はあのアークとはいえ、彼らは相当数の戦力を揃えています。一挙に押しかけられては、勝ち目はありません。」
「説明は以上です。よろしくお願いします。」
さっきから主任がチラチラ見てきて落ち着かないんですけど。噂によれば一本80万円するバナナは、もう3本目だ。
「これ、一本140万^^」
「はぁっ!?!?」
俺の思考を読んだかのように、主任が俺に見せつけてくる。まぁ、俺も1ミッションごとに2000万〜1億円ほどもらってるからまぁ食べれないことはないんだけどさ。
…どれだけ金をもらっても、身体は一向に良くならない。それどころか、俺の身体はどんどんと蝕まれて行った。
「ゲホッ…あ”ぁ”…また耳鳴りが……」
格納庫へ向かう途中で血を吐き倒れ込んでしまう。
「莉犬…無理させてるか…?」
さとみが俺の背中をさすりながら俺の心配をする。大丈夫と言いたいところだけど…どう見たって大丈夫じゃない。
「出撃まで猶予はある、部屋で休息を…」
「い、い”…機体の…調整を…っ、」
道中で倒れた莉犬を部屋に運ぶ。
「…やっぱりな」
ひょっこりと顔を表したのは”隊長”こと、ジェルだった。
「やっぱりとはなんだ…」
「同期率の高さから何となく察したんだよ」
「はぁ…相変わらずの詮索癖だな、お前は」
無機質で真っ白な壁を伝って進む。いわゆるまさにSF基地、という感じ。
「本人には伝えてあるのか?同期率の話、プリズムの有害性…」
「いや…伝えてはない。日々の生活にも精神的に影響が出かねん」
「灰を被ってもなお、プリズムに身を委ねるか…。」
アドバンスト機体を駆動するエネルギー物質、プリズム。しかし何も、メリットだけではない。アドバンストを動かすこと自体が周辺環境に甚大なダメージを与えており、機体と同期するパイロット自身も、機体を動かすごとに身体が蝕まれている。
「…深いことは話せん。」
「まぁ、そうだろうな。なかなか面白そうなやつだからな、死なせんなよ」
「はぁ…」
死なせんなよ、とは言われたものの。
同期率から見るにコイツの寿命は…
保って数年。
莉犬を肩に担ぎながら、そんなことを思案する。こんなこと、本人の前で言える訳ないんだが。同期率が高いというのはすなわち、蝕まれる速度も速いということである。それを阻止する方法は、今のところ無い。
その上莉犬は「大厄災」の後遺症を抱えっぱなしだ。要するに…あと数年もてば良い方。
「部屋入っていいか?」
「まぁ、いいが」
しゅーっと無機質にドアが開き、莉犬の自室の中へ入り込む。ドアを隔てた向こう側は、まるで空気が凍りついたかのようだった。
皆ある程度自室内では自由を許され、オシャレに紙飾りと電飾で飾りつける手先の器用な者、好きなアイドルのグッズで壁一面埋め尽くす者…。だが、壁に適当に打ち付けられたカレンダー以外、彼の部屋は変化もなかった。
莉犬をベッドに寝かせ、ジェルを横目に部屋の片付けを始める。綺麗に折り畳まれゴミ箱に捨てられたレーションの箱、栄養ドリンクの空きパックの類。全部俺に任せれば良いものを律儀なやつだ…とつくづく思う。
「身の回りの世話は全部お前が?」
「んやまぁ…そんな二人羽織ってほどじゃないが。最低限のことはあいつ1人でも出来るさ」
綺麗に整えられた食後の皿を一瞥し、なるほど、とジェルがつぶやく。
「…バイタル値はすべて概ね正常、一過性の発作的な奴だろうな。時々起こる。」
「そうか、よかった」
オレンジ髪の彼は、面白そうなおもちゃが壊れずに済んだ、とでも言いたげな声だ。
停滞した空気の中から窓の外を見やる。今日も灰色の空に、灰色の雨。
2085年8月12日 午後3時41分