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リョウコの声を聴いて、それまで黙っていたリエがコユキに歩み寄り、バッとゴン太(ぶと)な腕を掴むと、その先に握られていた柿ピーの袋に向かって言うのであった。
「ねぇ、フンババ君、青柿って何? 若しかしてカルキノス君のこのタネ、これを植えて育った柿の木になった、幻影の青柿が必要なんじゃないの? どう?」
賞味期限表示が変わる。
『能力譲渡済み、蟹、分別足らず』
リエは言った。
「やっぱりっ! ねえ、ユキ姉! カルキノス君が誰かにあげちゃった能力、植物を成長させる力が巡り巡ってリョウちゃんのギリースーツなんじゃないの? その種、リョウちゃんにはだしになって貰っておっきくしてみようよ、ね、ねっ! そうしようよっ!」
言い終えると、さっさと転んでいる杉の大木に歩み寄り、先ほどコユキが投擲したカサカサの種を拾い上げている。
コユキは末の妹の頑張っている顔をぼうっとしながら見つめ面倒くさそうに言うのであった。
「アンタがそうしたいならすれば良いんじゃないのん? リエ、アンタ本当に可愛いわねぇ~」
「分かったわ、馬鹿姉、ううん、ユキ姉! んじゃリョウちゃん、こっち来て靴脱いでぇ、靴下脱いでぇ! 早くするのよ、このカサカサのヤツ、柿のタネを成長させるのよおぅ!」
私観察者は思ったのである、見た目は真逆ではあるが、コユキおばあちゃんとリエ大叔母さんって、根底というか、魂の種類が似てるんだなぁ、と。
「なにをぉ? リエちゃん? こんなカサカサしたタネ発芽しないわよぉ~あんたぁ~……」
「でしょうね、幾ら姉より優れた妹など存在しないとはいえ、嘆かわしい事この上ないわね」
「いいから試してみてリョウちゃん! ユキ姉! 今からリョウちゃんがこのタネを成長させてくれるから、しっかり見ててよ! んで未熟な実が結実したら、その成果をフンババさんに渡してあげてよぉ! 間違いは無し! むううん、いっけぇえ!」
ということらしい、ふぅ、やれやれ……
これがコユキの偽らざる気持であったが、ガッツあふれるリエの呼びかけに答えて、リョウコは早々と靴と靴下を脱いで大地にその素足を着けていたのだから仕方ない、故にコユキは妹達の悪ふざけに付き合ってあげている優しい長女の責任を果たすかのように、号令を告げたのであった。
「リョウコぉ! 今だよぉ! 目一杯やってやれ! ギギギぎりりりりリリィ! スゥーツゥゥ! いっけぇー!」
リョウコは言った、珍しく渋めの低い声で、
「え、ええ? 分かったわよぉ! んと、大地よ、答えて、ギリースーツ!」
シ――――ン…… カサカサカサ…………
リエは言った。
「あれ? 何にも起きないわ、ね…… おっかしぃなあ?」
コユキはまず阿呆な末妹(まつまい)に付き合ってあげた優しいリョウコに、続けて嘆かわしい事この上ないリエへ声を掛けるのであった。
「リョウコお疲れ様だったわね、アンタは本当に優しい自慢の妹だわん、そしてリエ…… 世の中にはね、自分の我を通そうとしても通用しない場面が多々ある事、今回の事で学びなさいよ、これからは優れた姉の広い見識と深い洞察力に基づくアドヴァイスにしっかりと耳を貸す事ね、まずは一日の摂取カロリーを一万迄引き上げようね、ね?」
コユキの親切な助言も耳に入っていないのか、リエはカサカサのタネを手に取ってなにやら考え込みながら独り言を言っている。
「おかしい…… 話の流れ的にもここで青柿が手に入らないなんて事は…… まさか猿と蟹はこんな風に取り上げるべきキャラクターじゃなかったとか? そんな馬鹿な! 結構長く引っ張ってるわけだし…… はっ! となるとこの世界の運営神的な存在がポンコツだとしか思えない、シナリオ作りに於(お)いて複数の布石を回収し一つの物語として昇華させるアルペジオ、分散和音を理解していない運営なんていたとしたらゴミ、いいえクソよクソ、クソ運営としかいえないわよ!」
「り、リエ! それはダメよ! そこだけは責めてはいけないタブーなのよっ! ああ、お許しください神様! お許しを――――」
コユキは自分が被っていたキャップを脱ぐと、そこに縫い付けられたアライグマに向かって何度も叩頭(こうとう)し許しを請う言葉を言い続けるのであった。