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#ゾンビ
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自分の行いを恥じて俯く佳蓮に、セリオスは人差し指を折り曲げて口元を隠しながら、しばらくの間クスクス笑いを止められなかった。
でも面白いからじゃない、ついさっきの佳蓮の謝罪に困惑しているのだ。
佳蓮は初対面だと思い込んでいるが、実はセリオスと佳蓮が顔を合わせるのは今日で3度目。
一度目は佳蓮が召喚された時。セリオスは召喚の儀式に立ち会っていた。
2度目は佳蓮が神殿に足を向けた後、逃亡しようとした時に逃げる佳蓮を取り押さえたのは他でもないセリオスで、脛に何度も蹴りを入れられた。そうして今日が3度目。
流石に顔ぐらいは覚えてくれているとセリオスは思っていたけれど、佳蓮は全然覚えていなかった。
「そんなに委縮しないでください。女性の失礼な態度は、総じて可愛いものです」
「……はぁ」
笑い声が消えたと思ったら今度は歯の浮くような台詞を言われ、佳蓮は曖昧な表情を浮かべた。
途端にセリオスは困ったように眉を下げる。
「はぁって……それはちょっと男性としては寂しいですね。こういう時は笑って”あら失礼”って言うくらいで十分なんですよ。貴女はとても可愛らしいですし」
「はっ」
佳蓮は、思わず鼻で笑ってしまった。歯の浮く台詞もここまでくれば滑稽だ。
「私、可愛くなんかないです」
「そうですか?私にはそうは見えません。とても愛らしいですよ」
佳蓮の言葉を遮ったセリオスの言葉は、思わず口にしてしまったといった感じの自然なものだった。不思議そうに首をかしげる仕草にも嫌味はない。
そんな態度を取られると佳蓮のほうが戸惑ってしまい、元の世界で散々言われてきた言葉を思い出してしまう。
『佳蓮はさぁ、名前は可愛いのに、性格は全然っ可愛げがないよなぁ』
事あるごとにそんな憎ったらしいことを言っていたのは、佳蓮にとって血の通った兄弟ではないけれど、もっとも近い存在の異性だった。
年下で生意気で。でも佳蓮が心から大切に思うかけがえのない男の子。今、この状況を目にしたら、無条件で助け出してくれると信じきれる唯一無二の存在。
突風のように思い出してしまった彼の姿に佳蓮は状況を忘れ、ぽつりとこんなことを呟いてしまった。
「冬馬はさ……私の事、可愛いげがないって言ってたな」
ただの独り言のはずだったのに、やけに大きく響いてしまった。
間違いなくセリオスにも聞こえたし、騎士の耳にも届いてしまった。アルビスにも、きっと。
どの世界にも人間には名前があり、聞いただけでは性別が判別できないものもごまんとある。
冬馬という名は、佳蓮がいた世界では大体の者が男性だと判断する。
けれど異世界にいるアルビス達にとったら、わかるはずもない。なのにアルビスは瞬時に悟ってしまった。冬馬は、男性だと。
だからなのだろうか。ずっと優雅な音楽を奏でていた楽団の指揮者が急に手を止め、続いて演奏も止んでしまった。