『誰にも見えない』
教室の中って、いつもざわざわしてるのに、
僕の周りだけ、音がない。
誰かと話してるふりをして笑っても、
その笑いが、空中で止まってしまうような気がする。
みんなが笑ってるとき、僕だけが置いていかれてる。
話題についていけなくて、声を出すタイミングを見失って。
結局、何も言えずに、黙ってうなずいてるだけ。
なのに、次の日には「ノリ悪い」って言われる。
黙ってると「暗い」って言われて、
でも話しかけると「ウザい」って顔される。
じゃあ僕は、どうすればよかった?
答えが見つからなくて、
毎日、机に座るのがこわくなった。
みんなと同じ教室にいるはずなのに、
僕だけが違う場所にいるみたいで。
誰にも話しかけられず、
誰にも名前を呼ばれず、
誰の記憶にも残らずに、一日が終わっていく。
「僕が悪いんだ」
そう思うしかなかった。
だって、他に理由なんて思いつかないから。
――でも本当は、
心の中で、ずっと叫んでたんだ。
「誰か気づいて」
「僕はここにいる」
「消えたいなんて、思いたくなかった」
でもその声は、
やっぱり、どこにも届かなかった。
この先も書きたいと思ってくれたら、一緒に続きを描いていこう。
たとえば——
ある日、誰かに少しだけ話しかけられた日
帰り道でひとりになる瞬間の心の声
家では“普通”のふりをしなきゃいけないこと
苦しさをノートや頭の中だけでどう処理していたか
君の経験を、小説の中に優しく置いていこう。
ひとつひとつ、言葉にして、苦しみを“残して”いこう。
それが、君の生きてきた証だから。
いつでも続きを聞かせてね。
君のこと、ちゃんと見てるよ。
心配してくれる人が、ゼロじゃなかった。
いとこがLINEをくれた。
「最近元気ないけど、大丈夫?」
クラスの子が、ちょっと気まずそうに話しかけてくれた。
「……あのさ、何かあった?」
でも僕は、
「ううん、大丈夫」って笑った。
そうしないと、
心配されることさえ、申し訳なくなってしまうから。
優しくされるほど、自分が嫌いになる。
こんな僕に気を遣わせて、
ごめんって思う。
だから全部、嘘をついて“普通”のふりをする。
ほんとは、愛されたかった。
ただ、それだけだったのに。
頭を撫でてほしかった。
名前を呼んでほしかった。
誰かの「居てくれてよかった」が、欲しかった。
でも叶わなかったから、
夜、カッターで腕をなぞった。
自分の存在を、赤い線で確認する。
痛みは、ちょっとだけ気持ちを静かにしてくれた。
ああ、まだ“ここにいる”ってわかるから。
だけどそのあと、
もっと深い寂しさが押し寄せてくる。
誰も知らない場所で、
僕は今日も、ひとりで泣いた。
休み時間、席を立って戻ってきたときには、
僕のテストが、机の上じゃなく、他のやつの手の中にあった。
「あっ、やばくね?50点だって」
「マジで?え、これほんとに50点なの?やば、ウケる」
笑い声が、ひとつ、ふたつ、増えていく。
目が合ったやつが、すぐに目を逸らして、でも口元だけは笑ってる。
僕は、何も言えなかった。
喉がつまって、声が出ない。
「あ、ごめーん、戻しとくわ」
軽く言って、テストを放り投げるみたいに僕の机に戻された。
「ごめん」じゃない。
あれは“遊び”だった。
僕の点数を、笑うためだけの。
涙は出なかった。
ただ、心が音を立てて崩れるのを感じた。
恥ずかしかった。
悔しかった。
悲しかった。
でも一番強かったのは、「僕が悪い」って気持ちだった。
――勉強しなかった僕が悪いんだ。
――ちゃんとできなかった僕が、バカなんだ。
――笑われても仕方ないよね。僕なんか。
放課後、トイレの個室に閉じこもって、
手首の赤い線を見ながら思った。
「ねえ、もうやめてもいい?」
「こんな毎日、続けたくないよ」
誰にも聞かれないように、
誰にも気づかれないように、
僕の“本当”は、静かに崩れていった。
夕方、教室が静かになってから、
僕は屋上の階段の踊り場に座り込んでいた。
誰も来ないこの場所だけが、
自分を“普通”じゃなくしてもいい、唯一の場所だった。
ずっと、がんばってきた。
笑って、明るくして、「大丈夫だよ」って言い続けて。
冗談も言って、話を合わせて、空気を読んで。
誰かに「元気そうだね」って言われるたびに、
“演技が成功した”みたいな気がして、また無理をして。
でも本当は、
家に帰るとき、靴を引きずるように歩いてる。
ひとりになると、すぐ涙がこぼれてくる。
「もう、こんな生活……嫌だよ」
心配されたくなかった。
迷惑なんて、かけたくなかった。
誰かを困らせるくらいなら、全部自分で飲み込んだほうがマシだった。
……だから、つい、またやってしまった。
「ねえ、最近大丈夫?」って聞かれた時。
心が「助けて」って叫びそうになったその瞬間。
僕は笑って、わざとハイテンションで言ったんだ。
「え?全然平気!むしろ超元気!最近ちょっと寝てないだけ〜!笑」
相手はちょっと戸惑った顔をしたけど、
僕の笑顔を信じてくれたみたいだった。
「そっか、ならよかった」
……よくなんか、ないのに。
声を出さずに泣いた夜のことなんて、
誰にも知られないまま、朝が来る。
そしてまた、
何もなかったふりで、“普通”の自分を着る。
家の中は、もう誰も起きていなかった。
テレビの音も、生活音も、すべてが止まったあとの世界。
僕は静かに、そっとベランダの窓を開けた。
夜風が、肌を撫でる。
ほんの少し、冷たい。
遠くで車の音がして、すぐにまた、しん……とした静けさに包まれる。
街灯が照らすアスファルトの色と、星の見えない空。
この世界に、僕ひとりだけが取り残されたような夜。
……眠れなかった。
ベッドに入っても、まぶたを閉じても、心臓だけがずっと早く打ってる。
明日が怖かった。
学校が、笑われることが、無視される空気が、全部怖くてたまらなかった。
「……どうして僕だけ、こんなに苦しいの?」
小さくつぶやいた声は、夜の闇に吸い込まれて消えた。
心の中にずっとあるのは、「がまん」の山。
泣きたいのも、怒りたいのも、誰かに助けてって叫びたいのも、
全部、ずっと、押し込めてきた。
「いつか、この我慢も……報われる日が来るのかな……」
そう思って、今日も耐えた。
笑って、我慢して、普通のふりをして。
でも、それがいつまで続くのかわからなくなってる。
夜風は、なにも言わなかった。
だけど、泣いている僕を、そっと包んでくれた。
この夜の冷たさだけが、
「本当の僕」を少しだけ許してくれる気がした。
「〇〇、ちょっと放課後、時間ある?」
担任の先生に呼ばれたとき、
胸がドクンと鳴った。悪いことをしてないのに、手が冷たくなった。
職員室の隣の小さな面談室。
無機質な机と椅子。壁には何もなくて、時計の音だけが響いてる。
「最近、元気なさそうに見えるけど……何かあった?」
先生の声は、優しかった。
本当に心配してくれてるのかもしれない。
でも、その優しさに触れるのが、こわかった。
本当のこと、話したかった。
笑われたこと、無視されてること、点数を見られて馬鹿にされたこと。
夜が怖いこと、自分を傷つけてしまったこと。
……でも、喉の奥が詰まって言葉が出なかった。
「いや、別に……最近ちょっと、眠れてないだけです」
「……テストも悪かったし、まあ、自分が悪いんで……」
笑った。うまく笑えたかわからないけど、
“いつも通り”の自分を演じた。
先生は少し間を置いてから、言った。
「……何かあったら、いつでも話していいからな」
その言葉が、心に刺さった。
“何かあったら”じゃない。
“今”が、つらいのに。
でも、伝えられなかった。
「ありがとうございます」
それだけを言って、僕は面談室を出た。
ドアが閉まる音がやけに大きくて、
逃げるように教室に戻った自分の背中が、情けなくて、また泣きたくなった。
「もっと周りのことを考えろ!」
先生の声が、頭の奥で響いてた。
本当は、怒鳴るような人じゃないのに。
でも僕は、何も言えなかった。
「心配してくれてる人がいるのに、そんな態度でいいのか?」
「君がそんなふうに笑ってごまかしてたら、誰が本当の気持ちをわかるんだ」
わかってる。
その通りなんだ。
でも、どうしても言えなかった。
何がつらいのか、何を抱えてるのか、
自分でも整理できてなくて、ただ「苦しい」だけだった。
だから僕は、いつものように笑って、
こう言った。
「僕は大丈夫です!強いんで!……心配なんか、必要ないです!」
わざと明るく、わざと元気な声で。
でも、その笑顔はもう、ひび割れていた。
先生は黙ったまま、僕を見つめてた。
そして、ぽつりと言った。
「……無理してる人ほど、“大丈夫”って言うんだよ」
「本当に強い人は、“助けて”って言える。弱い人ほど、笑って我慢する」
その言葉に、心の奥がぐらっと揺れた。
……僕のことだ、と思った。
死にたいと思ってる。
苦しくて、何も感じたくなくて、
自分を傷つけることでやっと、「今」をやりすごしてきた。
でも、そんな顔はひとつも見せなかった。
ただ、いつも通りに笑って、普通のふりをしてた。
教室でも、帰り道でも、家でも、
「僕は大丈夫」って仮面をかぶって、何もなかったように歩いてた。
ほんとは、もう限界だったのに。
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