テラーノベル
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放課後の体育館。
女子の黄色い声と、ため息まじりの歓声。
「え、マジ? 付き合ってくれんの? やった!」
軽い。
あまりにも軽い声。
岩泉はサーブを床に叩きつけた。
「おい及川、アップ中だろ」
「え〜? 岩ちゃん怖〜。ちゃんとやるってば」
笑いながら、さっき告白してきた女子に「じゃああとで連絡するね」と手を振る及川。
――またかよ。
岩泉は知っている。
及川が告白を断らないこと。
そして、振られても何も思わないこと。
「好き」と言われれば「いいよ」と言う。
「やっぱ無理」と言われれば「そっか」と笑う。
本気にならない。
誰にも。
練習が終わった帰り道。
「で? 何人目だよ」
「え? なにが?」
「今日の彼女」
及川は少し考えてから、肩をすくめる。
「数えてないなぁ」
岩泉の拳がわずかに震える。
「お前さ」
言いかけて、飲み込む。
何を言う。
“やめろ”?
“本気になれ”?
それとも――“俺を見ろ”?
「……別れたら、また慰めてね。岩ちゃん」
冗談めかした声。
岩泉は立ち止まる。
「お前、誰のことも好きになんねぇのかよ」
その瞬間、及川の表情が一瞬だけ消える。
ほんの一瞬。
無表情。
でもすぐに笑った。
「なにそれ。俺、みんなのこと好きだよ?」
違う。
それは“好き”じゃない。
「岩ちゃんこそ、誰か好きな人いないの?」
心臓が跳ねる。
言えない。
言えるわけがない。
お前だよ、なんて。
「……いるわけねぇだろ」
「ふーん」
及川はそれ以上踏み込まない。
踏み込まないくせに、距離だけは近い。
肩が触れる。
「岩ちゃんはさ、俺のこと嫌いにならないよね?」
試すみたいな目。
岩泉は舌打ちする。
「嫌いになるほど興味ねぇよ」
嘘だ。
本当は、嫌いになれないから苦しい。
及川は満足そうに笑う。
「よかった」
その“よかった”の意味が、岩泉にはわからない。
でもきっと、
“岩ちゃんだけは離れない”
って確認だ。
――屑だ。
分かってる。
それでも隣にいるのをやめられない自分も、同じくらい屑だ。
家の前で別れるとき、及川がふと振り返る。
「ねぇ岩ちゃん」
「なんだよ」
「もし俺が、本気で好きになったらさ」
心臓が止まりそうになる。
「岩ちゃん、応援してくれる?」
岩泉は一瞬も迷わなかった。
「……するわけねぇだろ」
及川は目を見開いて、そして笑う。
「そっか」
その笑顔が、少しだけ寂しそうに見えたのは、
岩泉の願望だったのかもしれない。
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