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「フローラ様」
「なんだ?」
「……テラ様が死亡されたとの事です」
「テラ殿が? 死因は?」
「何者かに殺害されたようです」
「成程、_英雄殺し……これは国を揺るがす大事件だ。即座に犯人を捕らえろ」
「それが……その犯人は、どうやら、憂憤の鬼神なんだと」
「_____何?」
「あの鬼神は封印された筈だろう!! 何故テラ殿を殺せた!?」
「調べた所、何やら、世界に”歪み”が出来てしまったそう」
「歪み……?」
「はい。私共もあまり把握出来ていませんが」
「……なんと」
「___テラ殿の存在は、どれ程までに……」
「そうだ、ヴィーナスは?」
「…………」
「…ふむ。そうか」
「あの子にとってのテラ殿は、人生であったからな」
「羽白、このお菓子は?」
「あぁ、それはあそこの棚よ」
「ありがとう」
段々とこの仕事にも慣れてきたと思ったが、
やはりどの仕事も難しいものだ。
決して、舐めてかかっていた訳では無いのだが。
「……ねぇ、テラって、ヴィーナスの事、好き?」
「? はい……」
「そっか」
「____ _」
羽白は薄っぺらい笑みを浮かべた。
なんだか、違和感がある。
何時もの羽白じゃない。
「……あなた、誰ですか?」
「えっ? 誰って、羽白よ? 安曇羽白」
「……? _____ごめん、勘違いだったみたい」
確かに、違った。
のに、
一瞬で元に戻った。確かに、今の羽白は、本物だ。
では、本当に気のせいだったのだろうか。
「なんだか今のテラ、ちょっと変よ? 休む?」
「_うん」
変だ。
今の、俺は。
■△■△■△
「大丈夫? 落ち着いた?」
「うん、落ち着いた。ありがとう。仕事に戻るよ」
「そう……」
あ、
これだ。
また。これだ。
違う。羽白じゃない。
お前は、いや。
君は、誰?
「次は無理しちゃダメよ?」
「____ _」
戻っ、た?
何、分からないよ。
_____君が、分からない。
「さ、仕事に戻りましょう!」
「わかった」
分からない。なら、
_____分からないままで、いいや。
「ねぇ、テラは今日、初任給が出るの! だから、お仕事が終わった後、一緒にお買い物しない?」
「うん、いいよ」
「やったぁ! 私、ずっとテラとお出かけしたいと思ってたの!」
嬉しい、を全身で表現している。
ぴょんぴょんと跳ね、まるで小鳥のようだ。
愛らしい。
「……羽白は、俺の事、好き?」
「へっ?」
一瞬固まってしまったが、言葉の意味を理解したのか、
ボッと顔が真っ赤になった。なんだかタコみたいだ。
「す、好きよ?」
凄く恥ずかしそう。
ちょっといじめてみたい。
「そう、ありがとう、大好きなんだね」
「そんな事言った!?」
「さぁ?」
「とぼけちゃダメよ!!!」
いつもやられっぱなしだったからな。
仕返しだ。
……あれ、そんなにやられっぱなしだったかな?
やられっぱなしだったか。
じゃあいいや。
「なんだかすごーく心外な事思われてる様な気がするんだけど!!」
「はは、バレてる」
「なんだか生き生きしてるわね!? もう、怒ったんだから!」
この後仕事増加された。
■△■△■△
「初任給……案外少ない」
「こら、文句言わないの」
いや、確かに、多くを望むのはダメか。
これくらいで十分だよな。
「さ、お買い物行きましょう?」
「うん、と言っても、何を買えばいいんだろう?」
「そうだなぁ〜、備品とか、服とかかな」
「服欲しいかも」
「じゃあ行こう! おいで!」
羽白が俺の手を取り、
タッタと走り始めた。思ったより早い。
夕焼けが登る。橙色の光が眩しいくらい輝いて、
_____あれ、この光景、見た事がある。
長い白金の髪をさらりと靡かせ、
パッと振り返り、こちらを真っ赤な瞳で見つめて、
俺はそんな瞳にドキリとして。
_____あれ。
_____________
_______________
_________________。
君は、誰?
「着いたよ!」
「あ、ここが服屋?」
「そう! 私の行きつけなの!」
「綺麗なところだね」
「でしょう? さ、お洋服買いましょう?」
「うん」
さっきの子、誰なんだろう。
羽白と似ているけど。
でも、長髪だったし、雰囲気も違ったし、別人だろう。
じゃあ、あの記憶は。
そもそも、あれは記憶、なのか?
「あ、店長さん、こんにちは〜!」
「あら、羽白ちゃん、来てくれたの?」
「はい! 今日は、この子の洋服を買いに来ました!」
「あら、別嬪さんねぇ」
「でしょう?」
「別嬪……」
なんだか嬉しいのか嬉しくないのか分からないな。
ここは嬉しがるべきなのか?
「よぉし、お姉さん、久々に頑張っちゃおうかな?」
「え、」
「テラに似合う洋服、見繕ってあげるね!」
「……ぁー」
これは、長期戦になりそうだ。
■△■△■△
「よし、これで洋服は買えたね!」
「もう散々だ……」
何やらあの服屋の店長は着せ替え人形が好きらしい。
見事に俺は着せ替え人形にされてしまった。
「これはヴィーナスちゃんも惚れる、かも?」
「____ _」
「こんな素敵な子に好かれてるなんて、ヴィーナスちゃん、やるなぁ〜」
「_____羽白」
「ん? なに?」
「あの……ヴィーナスって、」
__________誰?
「_____。」
「……え? な、んで……?」
「なんで、なんで……そんな……事……」
オドオドと困惑したように言う。
何故だろう。俺はただ疑問をぶつけただけなのに。
「ほんとに、覚えてないの……?」
「? うん」
「____ _」
「嘘……」
正直、羽白が何故ここまで困惑しているのか分からない。
だって、ヴィーナス、なんて名前の人、聞いた事無いから。
羽白は一体、誰の話をしているのだろう。
「……嗚呼、そっ、かぁ」
「_____私の」
羽白が何かを呟いた気がした。
小さすぎて聞こえなかったけれど。
ただ、一つ分かるのは、
今の羽白は、羽白じゃない。
別人だ。別人なのだ。
見た目は同じでも、全然違う。
ねぇ、
君は、誰?
「……あはは、ごめんね、ヴィーナスのお話してなかったや」
「ヴィーナスちゃんは、私の友達なの」
「そうなんだ」
「よし、服は買ったし、もう帰ろっか」
寂しい声で言った。
とても、とても寂しい声で。
目を細めて、苦しそうに。
「さ、明日も早いから、帰ろう」
「……うん」
分からない、分からないよ。
ヴィーナスって誰なの?
“君”ってなんなの?
この世界は一体なんなの?
どうして俺は死んでいないの?
どうして君はそんな顔をするの?
どうして?
君は、
君は、誰なの?