十五番街。
黄昏の町で数日に渡り『暁』と『血塗られた戦旗』の激突が発生し激闘が繰り広げられている最中。『血塗られた戦旗』の本拠地である十五番街でも小規模ではあるが双方の熾烈な戦いが行われていた。
『暁』はラメル率いる情報部とマナミア率いる工作部隊が破壊工作等の諜報活動を活発に行い、『血塗られた戦旗』系統の施設やシノギである店等を積極的に攻撃していた。
対する『血塗られた戦旗』は聖奈を中心とした討伐部隊を結成。猟犬は無関係な人間を派手に巻き込みながらも聖奈独特の嗅覚により諜報員に少なからず被害を与えていた。
これに対してシャーリィは妹のレイミにエーリカ、アスカを付けて派遣した。
三人は先ず十六番街にある『黄昏商会』支店にある拠点へと赴く。
「まさか妹さん達を派遣してくれるたぁなぁ。ボスも本気ってことか」
「そう判断してください。なによりお姉さまは、これ以上の被害拡大を防ぎたいと言う想いがあります」
「それは有り難いわね。これまでの被害も洒落にならなかったし」
「状況はどうなってるんですか?」
三人を出迎えたラメル、マナミアとレイミ、エーリカが語らう。アスカはいつものように屋根の上に登った。
「ここ数日は破壊工作に専念しているわ。アイツらのシノギ削りが主だけれど、傭兵集団だけあって直営店はそこまで多くないわ」
エーリカの質問にマナミアが応える。
『血塗られた戦旗』は傭兵集団と言う側面から、店舗などを支配するよりも魔物討伐などの報酬によって組織の利益を挙げている。
『血塗られた戦旗』という看板には信頼があり、ギルドからも報酬の高い依頼が優先して回されていた。
「店を支配するより討伐報酬ですか。それなら、悪評を流してやれば手痛い打撃を与えることが出来るかもしれません」
「ギルドにか?それは無理だ。『血塗られた戦旗』のブランドは有名でな、簡単には泥を塗る事が出来ない」
「ですが、抗争となれば彼らは依頼を受ける余裕など無いでしょう。緊急性の高い、高額な依頼を私達が引き受ければ、その分彼らの収入を落とせますが……いや、忘れてください。今の私達にもそんな余裕はありませんね」
「三者連合とスタンピードさえなければ、それも考えたんだがなぁ」
三者連合、スタンピードと立て続けに発生した戦いは『血塗られた戦旗』に対する最も有効な工作を不可能にしてしまった。
「過ぎたことを悔やんでも仕方ありませんね。現在黄昏の町は『血塗られた戦旗』の襲撃を度々受けています。個人の練度では警備隊を上回るので、苦戦しているのが現状です」
「それなら、奴らの武器庫を狙うのが一番か。連中、随分と羽振りが良くてな。『ライデン社』からどんどん武器を買い漁ってる」
「『ライデン社』っ!お嬢様と言う大切な取引相手が居るのに!」
その名を聞いてエーリカが苦々しく吐き捨てる。
『ライデン社』は石油の獲得により急激な技術革新を促すため大量の資金を必要としており、営業部はこれまで以上に幅広く取引を行っている。
そこには抗争中の相手などの配慮は一切含まれていなかった。それによって生じる怨嗟などは考慮していない。
「『血塗られた戦旗』を葬った後、私はライデン会長と会うつもりです」
「何をするの?妹様」
「ライデン会長とは個人的な付き合いがありますので、警告するつもりです。もちろん、一度きりですが」
「警告か、それは良いな。『ライデン社』の武器には随分助けられてるが、俺達は連中が望んでる品を納めてる。つまりは上客だ。それなのに、敵対組織にも売り払うんだ。仁義も糞もないな」
「スタンピードの際も、彼等が過ぎた欲を出さねば被害を抑えられました。『ライデン社』についてはお任せを。武器庫について心当たりは?」
「幾つか候補はある。そいつを襲撃したいが、用心棒が厄介でな」
「攻撃する際は、私達も同行します。その用心棒とやらは、私達が抑えますから」
「ありがとう、助かるわ」
簡単な打ち合わせを済ませたレイミ達は、早速その日から活動を開始する。
マナミア率いる工作部隊に同行して、破壊工作を行う際の護衛を務めるためである。
意気揚々と迎えた襲撃初日の夜。レイミ、エーリカ、アスカの三名はマナミアが派遣した破壊工作員二人と共に夜の十五番街を進む。ローブで身を隠しては居るが、幸い十五番街も治安は悪く無法者達は時に姿を隠すため似たような服装をするため、街中に紛れ込むことに成功する。
「『エルダス・ファミリー』程とは言いませんが、ここの治安も悪そうですね」
無法者が行き交う裏道を歩きながらレイミが呟く。
「むしろ積極的に治安維持に動いている組織が珍しいんだと思いますよ?レイミお嬢様。ここは暗黒街、内政に力を入れるより奪うことを選ぶような連中の巣窟なのですから」
レイミの呟きにエーリカが反応を示す。
現にシェルドハーフェンでは内政に力を注ぐ組織は極めて希で、縄張りの奪い合いと搾取が日常茶飯事である。
しばらく裏道を歩くと、繁華街から外れた場所に小さな小屋が建っていた。朽ち果てた外装は興味を引くものでは無かったが、それ故に隠し倉庫として最適な場所に思えた。
三人は意を決して、レイミを先頭に小屋へ突入。するとそこには。
「これはこれは」
「情報通りですね。そこまで数は多くありませんが」
「運び出された後。そう考えるべきでしょうね」
倉庫内には剣、槍、弓、矢、鎧等の古典的なものから、ボルトアクションライフルと弾薬類を詰め込んだ箱が乱雑に置かれていた。
ただ、空いたスペースも多く床には物を動かしたような痕跡があり、ここが使用されながらも備蓄された武器類が運び出されたことを物語っていた。
「今はこの分だけでも破壊しましょう。お願いします」
三人は小屋から離れて、破壊工作員が爆薬を設置していく。
そとで周囲を警戒していると、アスカが落ち着きのはない様子で周囲を頻りに見回しているのに気づいたエーリカが声をかける。
「アスカ?」
「エーリカ、どうしました?」
「いえ、アスカが落ち着かないみたいで」
レイミも落ち着かないアスカを見る。
「……なんか、嫌」
「ふむ、長居はしない方が良さそうですね」
「設置完了しました!」
「ご苦労様、直ぐに離れますよ」
工作員が戻ると、三人はすぐにその場を離れた。
次の瞬間轟音と共に小屋が大爆発を起こして周囲を騒然とさせる。野次馬が集まる中、その群衆に紛れるように佇む少女が、燃え盛る小屋を見て呟く。
「……やるねぇ。次は間に合わせて見せるから、楽しみにしててね?」
少女、聖奈は愉しげに呟きながら踵を返して人混みに紛れ込む。
レイミと聖奈の初戦はレイミが不戦勝を勝ち取るが、それは以後の熾烈な戦いの序章にすぎなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!