『お前はな、きっと立派な雨の子供になれるぞ。だからな、今からたくさん勉強して、たくさん運動して元気になればいい。そうしたらこの雨も止むんだ。村のみんなが喜ぶんだ。嬉しいだろ?だから早く10歳になるんだ。早く育つんだぞ。』
そんなことを言われ続け育った。確かに何とも言われれば煩わしかったけれど『雨の子供』は煩わしく思っていない。むしろ誇らしいくらいだ。
私の中で1番古い記憶には今でも鮮明に思い出せるような強い憧れがあった。だって村の役目に立てるのだ。私を愛して育ててくれた人が苦しまずに生きられるのだ。そんなの、なるしかなかった。
昔から雨は嫌いだった。漁に出る時も、作物を育てる時も、いつだって雨が邪魔してきた。それ以外にも外で遊ぶことだってままならなかった。村の人たちは『ごめんね』と謝るけれど、悪いのは村の人たちじゃなかった。雨が悪いのだ。雨を降らせる神様が、神が悪いのだ。寂しいからとか、そんな身勝手な理由で人を苦しめていいはずがないのだ。人生の中で1番強い怒りを抱いた。
だからこそ私は誰よりもすごい雨の子供になって、神様に会いに行って、雨を止ませてもらうついでに文句を言おうと思った。そんなことを親や村の人に話したら『そうか、それは心強いな』と笑顔で言ってくれたのだ。いっそう決意が固まった。誰よりも強く、早く育てと願った。それはそれとして言われ続けるのは煩わしかったが。
この時を、ずっと待っていたのだ。
10歳の誕生日、誰よりも早く飛び起きて儀式の日はいつか聞いた。準備に時間がかかるから一週間後ぐらいだと言われた。すぐにはできないのかと少し落ち込んだが、それはそれとして誕生日を満喫した。みんなが喜んで笑ってくれた。祝う時もずっとずっとずっと笑顔だった。
少し気味が悪く感じるほどには。
でも気づかないふりをした。気づきたくなかった。さんざんあんなことを言って今更怖気付いてやめたいとは言えないから。
この違和感は全て終わった後に向き合うことにした。どうせ、今向き合ったって、答えなんかでないのだから。
とうとう、儀式の日がやってきた。村のはずれにある大きめの池に沈む時がやってきた。そのために村の人に手伝ってもらいながら身を清め、白装束を着て、足に錘をつけた。
やっと夢を叶えられるのだ。嬉しい、嬉しいはずなのに。村の人が薄気味悪くて、儀式をやりたくなくて、死にたくなくて、怖い。怖い。
にげたい。しにたくない。
「そろそろ行きましょうか、楓ちゃん。足に錘がついているけれど、安心してね!力持ちの人が運んでくれるから。
あと目隠ししなくちゃ。決まり事なのよ、ごめんねぇ。怖いだろうけど、ちょっとだけだから大丈夫!」
あと少し、あと少しで役に立てるのだ。大丈夫、これは嬉しいこと。怖くなんてない。
「雨の子供を運びにきたぞ。早くしてくれ、時間が押している」
「あら、それは大変。じゃ、楓ちゃん、頑張ってね!」
「はい、いってきます」
「えぇ、いってらっしゃい!」
最後まで着替えを手伝ってくれた村の人は気味の悪い笑顔だった。
「神よ、悲しむ神よ。子を亡くし悲しむ神よ。今からあなたさまから零れ落ちた子を、神の子供を、雨の子供をつかわせます。どうかその涙がやみますように」
ぽちゃん
沈む。静かにできるだけもがかないよう沈む。苦しい、けれどこれが役目なのだから。
息が苦しくなって、出来なくなって、私は意識を手放した。
けれど私は意識を戻した。目を開けた時、いたのは、
化け物と、称するのが正しい、なにか、がいた。
怖い、怖い、たすけて。
沈む前よりもずっとずっと怖かった。
その化け物が口を開いた。
「ゆるさない、ゆるさない、かえせ、かえせ。あのひとをわたしのこどもをだいじなひとを
かえせ、かえせ。おろかなものどもよ。おまえはわたしのこどもなどではない。こぼれおちたものなどではない。まただますのか。ゆるさないゆるさないゆるさない」
もう、恐怖で聞くところではなかった。
その化け物はこっちに向かってきてて、きて、ちかづいて、
そのまま、おおきくくちをあけて、おおいかぶさって、
わたしを
わたしを
くちにいれた
雨の子供は雨の子供
雨の子供は神の子供
神の子供はもういない
ずっとまえに騙されて死んじゃった
今いる神の子供は身代わりで
村の神様は神ではなく
憎悪でしねない哀れな化け物
今度もだまされ食べちゃった
でも復讐はできたと思ったから
またちょっとだけいなくなる
コメント
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この話の細かいとことか若干の裏話とかの説明入りますか? いるんだったら書きます。 この部分が意味わからなかった等あれば返信にて質問してください。