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二年C組は、静かなクラスだった。別に優等生クラスというわけじゃない。
授業中はスマホを触る音が響き、
後ろの席ではイヤホンを隠しながら動画を見る生徒もいる。
教師もそれを見て見ぬふりだった。
「おい、授業中だぞー」
気の抜けた注意。
だが本気で怒ることはない。
生徒たちも、 怒られ慣れているから適当に流す。
教室には、 “本気”が存在しなかった。
窓際の女子グループでは、 TikTokの動画を見ながら笑い声が上がっている。
前の席では、 男子たちがスマホゲームで小声で対戦をしていた。
教室はうるさい。
なのに、 どこか冷たかった。
誰も誰かに興味がない。
それが二年C組だった。
教壇に立つ担任の大西は、 疲れた顔で出席簿を閉じた。
「……来月の文化祭の話、そろそろ決めるぞ」
一気に空気が重くなる。
誰も顔を上げない。
「実行委員、誰かやってくれ」
沈黙。
時計の音だけが響く。
こういう時、 誰も目立ちたくない。
責任を持ちたくない。
“面倒なことには関わらない”。
それがこのクラスの暗黙のルールだった。
「いねぇなら適当に決めるぞー」
その瞬間。
ガンッ、と後ろで椅子を蹴る音がした。
「どうせ誰も本気でやんねぇのに?」
教室の後ろ。
窓際の席で、 神崎瀬凪が笑っていた。
少し長めの黒髪。
乱れたネクタイ。
開けっぱなしのシャツ。
教師に何度注意されても直さない。
クラスで一番有名な問題児だった。
「神崎、お前な……」
担任が呆れたように言う。
だが神崎は気にしない。
「文化祭とか毎年同じじゃん」
「どうせ“青春っぽいこと”やって満足したいだけだろ」
数人が苦笑する。
「また始まった」 みたいな空気。
でも、 誰も反論しなかった。
神崎の言葉は、 時々嫌なくらい本質を突いてくるからだ。
その時だった。
教室の中央で、 小さく椅子が引かれる音がした。
「……私、やります」
全員の視線が集まる。
立ち上がっていたのは白石ひかりだった。
真面目そうな姿。
綺麗な黒髪。
整った制服。
いつも誰にでも笑顔で話す女子。
クラスの中では、 比較的“ちゃんとしている側”の人間。
「おー、助かる」
担任は露骨に安心した顔をする。
白石は少し緊張したように笑った。
「最後くらい、ちゃんとしたクラスにしたいので」
その言葉に、 教室の空気が一瞬だけ静かになる。
だが次の瞬間には、 誰かがだるそうに呟く。
「意識高……」
小さな笑い。
白石は聞こえないふりをした。
神崎だけが、 そんな白石をじっと見ていた。
まるで、 何かを見透かすみたいな目で。
放課後。
ほとんどの生徒が帰った教室で、 白石は一人、文化祭のプリントを整理していた。
黒板には、 適当に決められた出し物候補。
・お化け屋敷
・メイド喫茶
・映画上映
どれも、 やる気のない字で書かれている。
「はぁ……」
小さくため息が漏れる。
その時。
「まだいたんだ」
後ろから声がした。
振り向くと、 神崎が教室の入口に立っていた。
白石は少し驚く。
「神崎くんこそ」
「忘れ物」
神崎は短く答えると、 自分の席へ向かう。
しかし途中で立ち止まり、 黒板を見て笑った。
「ひでぇな」
「……え?」
「このクラス」
白石は黙る。
神崎は窓際にもたれながら続けた。
「誰も文化祭とか興味ねぇじゃん」
「なのに“楽しみー”とか言ってんの、気持ち悪くね?」
白石は少し眉をひそめる。
「そんな言い方しなくても……」
「じゃあ違うの?」
神崎の言葉に詰まる。
確かに、 皆どこか冷めていた。
でも白石は、 それを認めたくなかった。
「……私はちゃんとやりたいよ」
神崎は少しだけ目を細めた。
「なんで?」
「え?」
「なんでそんな必死なの」
白石はすぐに答えられなかった。
神崎は笑う。
「“青春したいから”とか?」
その言葉に、 白石の表情が少し揺れる。
図星だった。
神崎はその反応を見て、 小さく鼻で笑った。
「大変だな、優等生は」
そう言って、 教室を出ていく。
一人残された白石は、 静かな教室を見渡した。
夕日で赤く染まった机。
誰もいない空間。
その景色は、 なぜか少しだけ寂しく見えた。
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