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Episode 6『距離の中で、近づく温度』
日帝は、廊下を歩きながらもずっとアメリカの言葉を思い出していた。
「全部、可愛いと思ってる」
……ばか。
そんなこと、軽々しく言うな。
でも――言われて、嫌じゃなかった。
猫耳が見えてしまった時点で、もう嫌われてもおかしくないと思ってた。
なのに、アメリカは離れるどころか、もっと近づいてきた。
「……あいつ、ほんとにバカかも」
小さく呟いたとき、ちょうど廊下の角を曲がってきたのは、ナチスだった。
「おや、ひとりか」
「……ああ、ナチスか」
ナチスは日帝の隣に並ぶと、何の前触れもなく口を開いた。
「君が抱えてる“秘密”は、あの男に預けてもいいのか?」
「……何が言いたい」
「まだ“あれ”だけで済むと思うな。君の過去にはもっと“重い”ものがあるはずだ。
私はそれを知っている」
一瞬、日帝の足が止まる。
「……全部を見透かしてるつもりか」
「いいや。見えているのは、ほんの断片だけだ。
でもね――ソ連に恋をしたとき、私もそうだった。
過去も痛みも、どうでもよくなるくらいに、誰かを愛したことがある」
日帝の朱色の瞳が揺れる。
ナチスが少しだけ微笑んだ。
「……だから、迷うなら抱えていけ。
選ぶのはいつも、自分だ」
そう言ってナチスは去っていった。
残された日帝は、拳を握りしめる。
「……選ぶのは、俺」
胸の中に、アメリカの言葉がまた浮かぶ。
『もっと守りたくなった』
『一緒に抱えていきたい』
……本当に、そう思ってくれているのなら。
**
その夜、寮部屋。
アメリカは、静かに本を読んでいた――ふりをして、ずっと日帝の方を気にしていた。
そんな中、不意に日帝が口を開く。
「アメリカ」
「っ! な、なに、日帝ちゃん」
「……隣、来てくれ」
「えっ……今?」
「今じゃなきゃ、もう言わない」
アメリカは何も言わず、すぐに立ち上がり、日帝のベッドに腰かけた。
「……あのな、俺」
言葉を探して、日帝が視線を伏せる。
猫耳が、少し震えていた。
「お前にだけ、全部見せてやる。……過去も、秘密も、全部」
アメリカは、そっと手を伸ばして、その震える耳に触れた。
「ありがとう、日帝ちゃん。
全部、受け止める。約束する」
ほんの一瞬、日帝がアメリカの肩にもたれかかった。
「少しだけ、こうしてていいか」
「……ずっとでもいい」
温もりが、そっと重なる。
心の距離が、少しずつ、縮まっていく夜だった――。
次回:
Episode 7『君を守れるこの手で』
アメリカがついに、日帝の過去を知るとき。
そして二人の関係に、再び試練が訪れる――。
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