何度目かになる君との同行任務
今回も9Sが私に起動セットアップをするはずだった
なのに違った
ポッド042「おはようございます2B」
ポッドの相変わらずの無機質な声が聞こえて私は身体を起こした
2B「…9Sは?」
ポッド042「本任務過程では随行支援ユニットであるポッド042当機が起動セットアップを行う手筈となっている」
ポッド042「推奨、速やかな任務確認と監視対象であるヨルハ機体9Sとの接触」
嫌というほど聞いて来た任務を告げられ“私が”また始まる
いつもとからわぬ様に任務を確認し彼との接触を図る
私室を出て白黒の廊下を一人で歩く
司令部に行くといつもなら居るはずの彼の姿がなかった
仕方なく司令官に声をかけた
2B「司令官」
司令官「あぁ、2Bか。起動は出来たんだな」
いつもと同じだ、司令官は私の機体名を知っているから気をかけてくれてはいるがそれでも任務は任務だ
2B「はい」
司令官「任務内容は確認したか?」
2B「…はい」
司令官「対象との接触についてだが、今頃なら部屋に戻っているはずだ」
司令官「くれぐれも遅れを取らぬよう任務を遂行せよ」
対象…というのは彼のことだろう
2B「……」
司令官「人類に栄光あれ」
司令官と同じ様に左手を胸に当て敬礼をする
2B「人類に栄光あれ」
司令部を後にして彼の部屋前までくる
呼吸を整えているとポッドが頭上で任務を…と口煩く言ってくる
私だってわかっている
それでも…私は……
このままでいいのだろうか、と考えてしまう
ポッド042「推奨…」
2B「わかってる」
私は彼の部屋へ踏み入った
彼は机の前の椅子に座りデータを眺めて何かをボソボソと呟いていた
9S「訳があって前任者は調査が不可能になった…ってことは少なくとも任務放棄じゃない…」
9S「じゃあどうしてここのデータだけ抜けが……」
彼の悪い癖だ
何事も好奇心旺盛すぎる特性と彼が賢すぎるからこそ要らぬことに注意を置いてしまう
だから彼は何度も……
私は心に秘めた想いを隠しながら彼に声をかけた
感情を押し殺し
”いつものように“
2B「9S」
彼が振り返り私を見る
9S「はい…そうですけど……」
9S「僕に何か用ですか?」
データを消して私の方へ体ごと向ける
“初対面なはずなのに”どうして彼はいつも私を真正面から見るのだろうか
他の人にはしないのに…
私には君が何を考えているのかわからない
それでも…
2B「私は…」
2B「2号B型、2B」
2B「9Sと次の任務で同行することになったから…任務の詳細な情報を貰いにきた」
彼は表情を一切変えず「そうでしたか」と言った
9S「じゃあデータの共有を……」
彼をずっとサポートしている彼のポッドが言った
ポッド153「地図データのバックアップを当機が所持しているため当機体が2号B型への共有を開始する」
そう言い終えると君は少し不貞腐れながら顔を逸らした
9S「あぁ…そう」
彼はそのまま机へ向き返りデータを見てまた何かしている
真面目な君のことだからきっと任務に関係のある事をしているのだろう
ポッドからの情報共有を保留して少しだけ覗いてみる事にしよう
私が見てもよくわからないものかもしれないけれど
彼の背後に立ちデータを覗く
地形データだった
しかも私のよく知る場所
2B「森林地帯…」
彼が驚いた様に顔だけを私の方へ向けた
私は彼がまとめているデータを見て少し怖くなってしまった
機械は心がないはず、怖いなんて感情はない
ましてや私たち兵士はそのような感情を持つ事を禁止されている
だからこんな感情は持つべきじゃない
”君“との約束を守るためにも
すると彼が言った
9S「調査する範囲は廃墟都市全域ですけどデータを見たところ森林地帯のデータ収集が未完了みたいですから森林地帯を中心的に調査したいと思うんですけど……2Bさんはどう思いますか?」
そういう彼はいつでも表情を崩さない
2B「…そうだね、私はあまり難しい事を考えるのは向いていないから9Sに任せるよ」
9S「そう…ですか」
彼は顎に手を当てて何かを考え始めている
私は彼の思考を遮る様に彼の名を呼んだ
2B「9S」
9S「は…はい!どうしました?」
どうして私にそんな笑顔を見せるのだろうか
私は”永遠に“赦されない罪を犯しているというのに
2B「任務にはいつ行く予定?」
そうだとしても私は君と同じ時を過ごしたい
だからせめてもの償いに…
違う、私が君を失いたくないんだ
9S「データはまとめたので任務に行きましょうか」
彼はそんな私を置いて椅子から立ち上がりドアの方へと歩き出す
2B「…そうだね」
私は彼の小さな背中を見て震える
この任務できっと私はまた君を失う事になる
そうならないためにも私は……
彼が振り返り私を驚いた様な顔で見つめてきた
2B「なに」
私は声を少し強張らせて彼を見た
9S「いえ、なんでもないです」
ニコっと笑い彼はドアを出て行った
私も彼の後を追うように部屋を後にした
そうして私達はバンカーの格納庫へと歩き出した
格納庫で飛行ユニットに乗り彼と共に“君”が眠る私の戒めの地へと降り立つ
私の専属オペレーターである6Oから指示を受け森林地帯の捜索へと足を進める
廃墟都市中央の機械生命体達には敵意がないようですんなりと森林地帯まで進んで来れた
このまま何も起こらなければよかったのに
私の視界にノイズが走った
彼を気づかせない様フラつく足取りをなんとか保とうとするが呼吸が浅くなる
赤一色に世界が染まり
私は目の前の君を
殺そうとした
いつもの様に足音を消す
白の契約を手に君へと振り降ろす
彼は咄嗟の判断で私の攻撃を回避したようだった
更に浅くなってく呼吸と君を殺すという殺害欲求だけが私を満たしていく
どうしてだろう
君ともっと一緒にいれたらいいと思う自分がいるのに君を殺したいと思う私がいる
君を何度も何度も殺したのは私だというのに
どうして、?君をもう殺したくないのは本音だ
それなのにこの体はいう事をきいてはくれない
私は意識と体を乖離させたように考えていた
ふと風が吹きゴーグルが風に攫われてしまった
私は初めて“君”を見た
彼が何かを呟いている
ノイズが走っている音声は聞き取ることができなくて
それでもどうにか君を見失わないように視界に捉える
彼は黒の誓約を手に私にその鋭い切先向けた
あぁ、結局こうなってしまうんだ
君は何かをまた呟いた
君がなんていっているのか聞き取リたいのにきけない
呼吸が浅くナる
くるしい
考えるこトさえままならなくなってクる
私ハ無意識に動く身体を止めようトもがく
でも止まることはナい
身体ガ動ク度に節々が軋ミ思考が弾け飛びそうニなる
くルしイ
いたイ
君ヲ傷つけタくナイのニ
橋ガ揺れ、私ノ心が揺レ、君ノ髪が靡ク
私ノかたナが君ヲ捉エてしまッタ
君ハ私ノしカイかラ外れテ遠クへいっテしまッタ
わたシは君ヲ失イたクナイ
動カなイト
君ノ元へ
軋ミひメイをアゲル身体ヲ無理ヤり動かシ
商業シせつ後チへと私ハあルイてイッタ
どれダけ時間ガかカッタのカはワカラなイガ
ようやク君のもトへこレタ
エレベーター前でうずくマる君ハ赤クそマッテいテ
苦しソウに掠れタ声ヲあゲテイた
黒イ君ノ制服が赤ク染まっテいル
白銀ノ短イ髪
私ト同じハズなノニ君ハ私トは全ク違う思考回路
私ガ何度も殺シタ“君”と同ジ
わたシハ君ノその細イ首へ白ノ契約ヲ向けル
ソノ時、突如私ノしカイはブラックアウトシた
気がつくと私は商業施設跡地のエレベーター前で倒れていた
身体を起こして状況を確認する
真っ赤なオイルが近くに散乱していた
私のものじゃない
だったら……
彼の姿がなく私の焦りはより一層高まっていく
私がオイルの続く森林地帯へと向かっている痕跡を走って辿ろうとした時だった
?「遂行支援対象2Bを発見」
機械的な声が聞こえて振り返るとそこにはポッドがふよふよと浮いていた
2B「ポッド…」
ポッド042「対象が捕捉不可能状態、ポッド153と通信不可能」
ポッド042「一度バンカーへの帰還を推奨」
2B「…帰還はしない、このまま9Sの捜索をする」
私がそう言い終え走り出そうとした時またしても別の機械的な声が聞こえてきた
?「同行任務者である2Bを発見」
声が聞こえた方向を見ると彼のポッドが私に近づいていてきた
ポッド153「遂行支援対象9Sの補足が不可能状態」
ポッド153「当機は2Bとの情報共有を所望する」
ポッド042「当機から今までの簡易的なデータ共有を実行」
ポッド153「ポッド042のデータ共有受諾」
頭上でポッド達が会話をしたかと思えば急に黙った
そのまま動きのないポッド達を見ているような時間はない
私はポッド達を抱えて森林地帯の奥へと走り出して行った
機械生命体の残骸が転がっている
彼がやったものだろうか
私は目覚めた時周囲に散乱していた尋常じゃない量の液体を思い出した
あれほどの出血量じゃまともに戦闘なんてできるはずがない
なら……誰が…………
私の知りたいと望む答えはすぐに知ることができた
王城に入りひたすらに走る
彼の遺した痕跡を辿って
すると目の前に私と同じ顔立ちのアンドロイドが現れた
何度も私と出会った彼女はヨルハ計画のプロトタイプ
アタッカーモデル二号機、A2
今では裏切り者の脱走兵として機械生命体と単独で戦っている
彼女は私を見つめて何も言わない
でもその瞳からは私と同じモデルとは思えない心境が垣間見える
私と君とも何度も出会った彼女だからこそなのだろうか
そうこう考えているうちに彼の遺した痕跡の方向から歩いて現れた彼女ならば彼の行方を知っているのではと思った
だから私は彼女との距離を一歩詰めようとしたその時だった
A2「9Sは…」
いきなり発せられた彼女の声に耳を傾ける
A2「死んだ」
……
私は抱き抱えていたポッドを落とした
そしてそのままその場に座り込み顔を伏せる
私はまた”君“を失ってしまったのか
私はどうすればよかったのだろうか
どこで間違えてしまったのだろうか
君を殺したくなくて一緒にいたくて
君が機密事項に触れない様に
君と少しでも長く生きられる様に
そう、してきたはずなのに……
ぐるぐると嫌なほど回る思考に苛まれながら私は……
A2「私が…殺した」
彼女から発せられた言葉だと数秒経ってから理解した
私は顔を上げ彼女を見る
A2「9Sは最期に2Bへの伝言を頼んでいたよ」
A2「”次はちゃんと僕を殺してほしい“」
A2「そう…彼は言っていた」
私の中で前の君の声と重なった
9S『ははっ…2Bは優しいなぁ……』
そう言いながら自我データを崩壊させていく君は儚げに私に抱かれていた
9S『2B…最期に……僕の我儘を聞いてくれますか…?』
私は震える唇を噛み締めながら君を見ていた
9S『次は…ちゃんと……僕を…』
9S『殺して…くださいね』
それが君の最期の言葉だった
彼女が私に近づいてくる
あぁ、
私は一体どこで間違えてしまったのだr__________
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