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ぬいぬい
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昼休みのチャイムが鳴る前に、廊下を歩いていた。丁度鳴海さんたちの教室にたどり着いたと同時に、チャイムが空気を振動させる。とたんに、椅子を引く音、教師が教室を出る音、机が動く音、生徒の話声、足音、足音、足音。
鳴海さんたちの教室からも、生徒たちが飛び出してきた。俺はそれを避けながら女子生徒の黄色い声も聞こえず、ただこちらを振り向く彼の元へ歩み寄る。
「鳴海さん、飯喰いに行こう」
「お前、早すぎ……」
「離れてるのが、耐えられなかったからね」
「……冗談、止めろ」
「もう、冗談じゃないって知ってるでしょ?」
俺が笑いかければ、鳴海さんは照れたように机の横に賭けていたリュックを持とうとした。が、それを俺が先に奪って肩にかける。力づくで奪おうとするが、うまく固定して肩から外されないようにする。
そうして小さな攻防戦が繰り広げられようとしたとき、俺たちの頭が軽く叩かれる。メロンパンを口に喰わえて咀嚼し始めている星野さんだ。
「ラブラブしてんなよ、目に毒だ」
呆れたようなため息を残して、先に屋上へと歩き出す。
「な……まだ、付き合ってねぇし!」
「まだってことは、付き合う前提でいいんだね?」
「え、いや、その……」
もじもじと顔を赤らめる彼に、俺は急ごうと声をかけながらその手を取った。
「俺のこと好き?」
その手を恋人握りに持ち直して、二人の目の高さに掲げてみせる。鳴海さんがその手を見て、さらに顔を朱に染めるもその手は握られたまま。
「……わからん!」
「じゃ、またアタックさせてもらうよ」
そういって笑いかければ、彼もつられてあの日と同じ笑顔で笑い返してくれた。二人で肩を並べ、手を取り合って星野さんを追いかけた。
これが、俺と鳴海さんの最近の日常。
「鳴海さん、バニー姿になるって本当?」
渉が切羽詰まった様子で金槌とノコギリの音が響き渡る俺のクラスにやってきたのは、丁度文化祭の前日のこと。
俺たちの高校では、文化祭は土曜日の一日だけ開催されるという仕組みになっており、そのため今日金曜日の夕方はどこのクラスもラストスパートでにぎわっていた。
例に違えず、「バニー喫茶」をやる俺たち三年A組も大道具を組み立てたり最終チェックをしたりと、作業は佳境に立たされていた。皆連日の多忙に、顔色と形相が限界を超えようとしていた。
そんな矢先に渉の出現となれば、鬱屈した空気に一陣の爽やかな空気がなだれ込んできたようなもの。女子の黄色い声に男子の好奇の眼差しを集める彼だが、いつものように気にする素振りもみせず、ノコギリ片手にベニヤ板と悪戦苦闘していた俺と大翔のところに歩いてくる。
「で、どうなの?するの?しないの?」
「あぁ、するけど……て、いってなかったっけ?」
「聞いてない!」
「そうだっけ……?」
「なんでそういう重要なことを、一週間前から言わないの!」
時々見せる不機嫌そうな顔で、俺の手を取ってきた。怒るというより叱るという感じで怖くはないが、教師に怒られているようで俺は視線を泳がせる。
なおも渉が俺をなじろうとする様子を見かねて、ベニヤ板をおさえていた大翔が、俺たち二人によく見せる呆れた表情でため息をつく。
「鳴海、お前休憩いってこいよ」
「え、いいよ。だって、これ作らないと」
「いいから!俺がやるから、お前は渉と休憩して来い!」
なかば無理やり教室を追い出され、仕方なく自動販売機のある購買前へ向かった。もう下校時間間際のため購買はしまっており、そこにたどり着くと人影は見られなかった。
「さて、どれにするかな……」
言いながらポケットの小銭を掌に出せば、50円玉一枚と10円玉四枚という悲惨な現実に俺は眉尻をふるわせた。そんな様子を察した渉が、同様にポケットを探って一万円を取り出し機械に挿入しようとする。だが千円札が上限だったらしく、仕方なくもう一度ポケットを探って今度は千円札を取り出すと再びいれた。
赤く光るボタンのなか、紙パックのコーヒー牛乳を選んでボタンを押す。落下する音がして、彼はそれをしゃがんで取り出した。俺が常日頃から飲んでいるのを知っていてのチョイスかと思い、礼を述べて手を差し出したが、そんな俺を尻目に渉がストローを外して刺すと、飲み始める。
「俺にくれねぇのかよ!」
「一口くらいいいでしょ」
本当に一口だけ飲んで、紙パックを俺に差し出した。それをぶすくれながら受取り疲弊した体に糖分を補充しようと、ストローに口をつけた。そのとき、渉がひと言。
「間接キス……」
あやうく口に含んだ分を、盛大に吐き出しそうになった。かわりに激しく咳込み、その場で膝を屈める。そんな苦しむ俺の背中を、悪びれもせずに撫でてくる。
「おま……ちょ、ゲホッ……死ぬ……ゲホッ」
「間接キスだね」
「二回いうな……バカッ!」
二三度深呼吸を繰り返して、ようやく息苦しさが胸を去った。よかったねという彼に対して、持っていた残りのコーヒー牛乳を突き返す。
「いらないの?」
「あんなこといわれて、飲めるかよ!」
「あ、そう。でも、鳴海さんが飲んでたのを俺が飲んだら今度は俺が鳴海さんと間接キスだね」
いわれて気付いたが、もう遅い。とっさに紙パックを引き戻そうとしたが、半瞬速い渉の白い手が、紙パックを取り上げてまたもストローを咥えてしまう。
「残念でした」
「な、なんで間接キスとか言うんだよ!」
「好きだからに決まってるでしょ。意識してくれるんでしょ、俺のこと?」
「しない!」
「はやく俺のこと好きっていえばいいのに」
怪しく笑う渉に、俺は首を横にふってうつむく。
コメント
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柚木さん、第14話読みました!文化祭目前のバタバタした空気の中での、鳴海くんと渉くんの距離感が絶妙でしたね。「間接キス」のやりとり、渉くんのしたたかさと鳴海くんの純粋な反応が可愛くて、思わず笑顔になりました。まだ付き合ってないけどお互いを意識し合ってる感じが、青春だなあと。星野さんのツッコミも絶妙で、3人の関係性がいい塩梅ですね。続きが気になります!