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ぬいぬい
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彼と俺の駆け引きは、一ヶ月前にこの男、坂崎渉に告白されたことで始まった。それからこいつのやることなすこと、全てが俺の感情へと結びつく。つまり、好きかどうかという問答だ。
告白された時に俺がまだ分からないという返答をしたせいで、こうして一日に平均三回は感情の矛先を訊ねてくる。そのたびに、こう答えるのだ。
「まだ……わからねぇ」
蟻のように消え入りそうな声に、渉が苦笑をもらした。この言葉でいつも浮かべる、少し悲しそうな笑顔を見るのが嫌いだ。だからといって恋愛としての好きを示そうにも、まだ分からないのだ。胸の中にふたがされ、漫然としない気持ちになる。
だからこそ嘘をつきたくはないし、嘘をついたとしても彼のことだから見抜かれることは必至。だから、常に正直に答えるしかない。
渉が一気にコーヒー牛乳をすすり、ゴミになった紙パックを近くにあったゴミ箱へ放る。すると、見事な半円を描いてゴミは穴に吸いこまれていった。
「俺明日文化祭来るよ」
「お前面倒くさいから、来ないとかいってたじゃん」
「鳴海さんのバニー姿が見られるんだから、来ないわけないでしょ」
「見て嬉しいか、そんなの?」
「嬉しい以外、なにがあるのさ。だいたい、そんな格好を俺以外の奴らの前でしないでほしいんだよね、本心としてはさ……」
「お前…………俺のこと本当好きだよな」
「それ、今さら」
良い顔で笑うから、赤くなる顔を窓からさす夕陽のせいにしようと西を向いた。すると、すぐ近くの時計に目がいく。時間をみれば、休憩としてはいい時間がたっていた。渉を急かすようにして教室に戻ろうとすれば、一年生教室がある二階で立ち止まる。
「渉?」
「鳴海さん、今日は一緒に帰れないんでしょ?」
「あ、そうだな。たぶん遅くまでかかると思うし。それに、帰りはクラスの奴らと帰るかも……一緒に帰るか?」
「いいよ、今日は先に帰ってる。明日の準備とかいろいろしたいし。まぁ、バニー姿の鳴海さんを楽しみに、我慢してあげる」
聞き分けがいいでしょと顔を近づけながら聞いてきたので、俺はその顔を手で押し返しながらそんなことあるかと反論した。このまま一緒にいると何をされるか分からないので、早々に渉へ背を向けて四階の三年教室へ急ぐ。
階段を四段ほど上がってから振り返れば、まだこちらを見て手を振ってくれた。そういえばという風に、彼の口が動く。
「ところでなんで文化祭に参加したの?面倒くさいっていってたでしょ?」
「え……き、気まぐれ!」
ごまかすように手を精一杯ふって、階段を逃げるように駆け上がった。
一人教室に戻ろうと歩きながら、俺は今回の文化祭に参加している理由を悟られなくてよかったと一人安心していた。
俺だって三年になるまで文化祭はさぼる行事のひとつでもあったが、今回は少し事情が違った。
文化祭一週間前の放課後のこと。大翔と二人で渉が来るのを下駄箱で待っているときだった。俺が偶然文化祭の話題をふると、彼がある伝説を思い出し話して聞かせてくれた。
「知らないのか?ほら、文化祭終了のときにあげる花火あるだろ。あれってパラシュートがふってくる仕掛け花火になってるんだけど、あれを一番に取ることができたら願い事がひとつ叶うらしいぜ。毎年どこで上がるのかわかんないんだけど、噂だと校庭でやってる出し物の一番人気の近くであげるとか、生徒会が密会して決めるとからしい。だから、その下で待っていればいいってわけ。まぁ、花火をあげることはともかく、そんなのとったくらいで願い事叶うとか迷信だろうけどな」
それを聞いた直後は、誰がそんなモノを取るのだと馬鹿にしていた。だが遠くからかけてくる渉の姿をみて、俺は笑うことを止めてひとつの可能性を考えていた。
それを手に入れられたら、渉への気持ちがわかるだろうか……と。
そう考えたら、自然に文化祭で盛り上がるクラスの出し物から逃げることもせず、大翔も誘っての文化祭参加となったわけだ。
親友へのいいわけとしては、最後だからという単純な説得でごまかすことが出来た。しかし、嘘の通じない彼にはきっとばれてしまう。ばれてどうするということもないが、やはりなんだか照れくさい。それにこれは俺の問題であって、渉には関係ないことだ。そう考えながら、彼の顔を思い出す。
好きといわれると嬉しいかもしれないし、いつもはポーカーフェイスの表情が柔らかい笑顔になるのが好きかもしれないし、体に触れられると熱くなるような気がするし……。
「好きなのかなぁ……」
「何がだ?」
教室前に突っ立っていた俺の背後に、いつの間にか大翔が立っていて大声をあげ心臓を抑えた。
「ちょ、びっくりさせんなよ!」
「お前こそそんなとこに立ってないで、これ切るの手伝え。新しく板貰って来たから」
取りに行ったベニヤ板を俺に差し出す。はいはいと生返事をして、近くに落ちていたノコギリを手にした。今度は口に出さずに先ほどの自問を唱えた。
好きなのかなぁ……。
しかしその気持ちに何かが蓋をして、言葉にすることが苦しいのだ。遠くで誰かのさよならと、トンカチの音が響いた。
コメント
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うわ、もう駆け引き始まってる……! 鳴海が「まだわからねぇ」って言いながら、坂崎のこと気にしてる描写がすごくリアルで、じれったいけど可愛いなと思いました。特に文化祭の伝説を聞いて「これで気持ちがわかるかも」って動き出すところ、伏線として効いてるし、ラストの自問「好きなのかなぁ」で蓋をされてる感じが切なかったです。二人のやり取り、もっと読みたくなります!