恐る恐る寝室の扉を開けると、期待に反して宗親さんはガッツリ起きていらして。
ばかりか、「おいで」とベッド縁に大股開きで男らしく腰掛けたまま、私に手招きするの。
宗親さんが、見慣れないハーフパンツを履いているせいで、膝下にのぞく生足が見えてしまっているのも何だかやたらと恥ずかしくて。
その姿があまりに艶かしく感じられた私は、思わず立ち止まってうっとりそんな彼に見惚れてしまった。
綺麗すぎる人って何やっても様になって、ズルイ。
「あ、あのっ」
寝室内、天井のシーリングライトはオフになっていて、一応ベッドサイドの間接照明だけにしてくださっているのは、いわゆる私に対する配慮かな?
それにしたって真っ暗闇じゃないのがしんどくて。
そもそもベッド傍に灯りがあるってことは、そこに近付けばあれもこれも結構しっかり見えてしまうってことで。
「で、んき……」
って言ったら「ああ、暗過ぎました? シーリングライトもオンにしましょうか?」って……逆です、宗親さん!
「あ、明る、すぎ!なんですが……」
しどろもどろになりながら言ったら、薄暗がりの中、宗親さんが嬉しそうに目を眇めたのが分かった。
「春凪が無事に僕のそばまでたどり着けたら、ね?」
私がちゃんとベッドまで行けるように真っ暗闇にしていないんだよ?って言われているんだと気が付いた私は、現状から逃れたい一心でベッドまで足早に近付いて。
「もう大丈夫ですので――」
照明を落としてくださいって言おうとしたら、まるで罠に掛かった羽虫を待ち構えていた蜘蛛みたいな宗親さんに、素早くグイッと手を引っ張られてベッドに縫い止められていた。
手を引かれた拍子に抱えていたタンクトップとトランクスがベッドサイドに落ちたけれど、それを気にしていられるゆとりなんてなくて。
あまりのことに驚きで言葉を紡げないままに目を白黒させて口をパクパクする私に、「結局僕はここで1分以上待たされたんですけど」って咎めるように宗親さんが追い討ちをかけていらっしゃる。
「ごめ、なさ……」
考えてみたら謝る必要なんて微塵もなかったはずなのに、その場の雰囲気と美形の迫力って怖い。
思わず謝罪の言葉を口走ってしまった私に、宗親さんがニヤリと笑う。
「春凪、いい子だからそのまま口を閉じないで?」
言われて、「え……?」とつぶやいた私は、そのせいで宗親さんの口中への侵入を、いとも簡単に許してしまった。
「ふ、……ぁっ」
いきなりこんな舌を絡めるような口付けをされるとは思っていなかった私は、宗親さんに組み敷かれたまま、何が起こっているのかイマイチ把握できていなくて。
チュク……、っと舌先を吸い上げられた感触に、ゾクリと身体を震わせてからやっと……。
とっても淫らなキスをされているんだと頭が追いついた。
唇を開放されてすぐ、約束が違います、という意思表示を込めて「……宗親さ、電、気っ」って言ったら「僕は切るなんて一言も言ってませんよ?」ってクスッと笑われた。
そういえばさっき、宗親さんは「春凪が無事に僕のそばまでたどり着けたら、ね?」って言った。
たどり着けたらどうするか、巧みに誤魔化されていたことに気付けなかった自分の馬鹿さ加減にほとほと嫌気がさす。
「抗議は明かりに対してだけ? キスに関してはお咎めなしだと思って構いませんね?」
意地悪く宗親さんが微笑むのが見えて、そっちの方が大問題だった!と気が付いた時は後の祭り。
「春凪がしっかり僕との夫婦生活に対する覚悟を固めてきて下さったみたいでホッとしました」
言葉とは裏腹。
両手を、頭上で逃げられないよう宗親さんに片手でベッドに軽く縫い止められた私は、抗議の言葉をにこやかなその言葉に封じられたことを知る。
「宗親さんの腹黒ドSっ!」
仕方なくそう憎まれ口を叩いたら、「お褒め頂けて光栄です」とか……。
褒めてません!
「ねぇ、春凪、目を閉じて?」
再度そう請われた私は、言うことなんて聞いてやるもんか!と思ったけれど、目を閉じないと好みのお顔がすぐ近くに迫ってきてまずいと言うことを失念していた。
「ひゃわわわっ」
私が目を閉じようと閉じまいとキスをするのをやめるつもりはないみたいで、容赦なく迫ってくる宗親さんのお顔に、私は悲鳴をあげてギュッと目を閉じた。
と、柔らかな感触が唇を覆って。
宗親さんと唇を合わせるのも、確かこれでもう5回目。
初めてではないのに私の唇よりもはるかに柔らかくてきめ細かい、でも体温だけは私よりも若干低く感じられるその感触に毎回毎回ドキドキさせられてしまう。
「ふ、っ、ぁ……」
声なんて微塵も出したくないのに、宗親さんが口付けの角度を変えるたび、口の端を割って甘い吐息が漏れてしまう。
なんでこの人のキスはこんなに気持ちいいんだろう。
私、元カレとのキスでこんなに蕩かされたこと、ないのに。
宗親さんからの口付けにうっとりと翻弄されていたら、不意に胸元に手を乗せられて、私はビクッと身体を強張らせた。
「あ、ダメっ、待っ……」
服越しで胸に触れらることは事前に打診済みで、実際に見なければOKですよね?と言質だって取られたのに。
私はまだ覚悟が足りていなかったみたいです……。
「ダメ? 却下ですね、春凪。先に申し上げた通り、僕は先程1分以上キミのことを何も言わずに待って差し上げました。なので、残念ながらそんな余裕はもう、微塵も持ち合わせていません」
そこでフッと意地悪く口角を上げる宗親さんを見て、余裕がないとか嘘だって確信した。
なのに、彼の大きな手でやんわりと左の乳房を包み込むように押しつぶされた私は、逆に宗親さんに抗議するゆとりを奪われてしまう。
「んっ、やぁ……」
――胸なんて、触らないで。
コンプレックスのかたまりでしたかない、胸のふくらみは、だけど大きさだけはEカップとそこそこにボリュームがあって。
私の忌まわしい〝陥没乳首〟を知らない男の子たちは、しばしばその大きさに騙されて吸い寄せられる。
だけど脱いだら残念がられることを誰よりも知っている私は、異性がそこに興味を持つことに強い抵抗があって。
生まれて初めてのエッチのとき、元カレにその見た目で明らかにガッカリされたのを思い出した私は、思わずギュッと身体を固くした。
コウちゃんにだって、エッチの前に、胸のことを話していなかったわけじゃない。
なのに触れてもらっても勃ち上がらなかった乳首に、愛想を尽かされてしまった。
きっと、宗親さんだって……。
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