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私が3体のガルルンと一緒に待っていると、10分ほどしてからようやく、ガルルンたちの行列がやってきた。
列の真ん中くらいにいる2体のガルルンは偉そうで、片方は頭にキノコが生えている。
「おおぅ、あれはガルルン茸……」
こうして見ると、まるで王冠のようにも見える。……ということはあのガルルンは王様か。
そうするとその横にいる、やたら豪華なドレスを着ているのが女王様になるのだろう。
「「「ははーっ!!」」」
王様と女王様が近付くと、一緒にいた3体のガルルンは地面にひれ伏して声を上げた。
いつの間にひれ伏していたんだろう。私だけひれ伏していないから、凄く目立っちゃうんだけど……。
そんなことを思った瞬間、案の定、王様から声を掛けられてしまった。
「お主、見ない顔だの。何者だ?」
「はい、私はアイナと申します。ここには偶然通り掛かりまして」
「ほう……」
「セキュリティ意識が足りぬわ! 全員の首をはねよ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
女王様が発した言葉に、その場にいる全員が凍り付いた。
「――いやいや、女王よ。
さすがに全員は……。今の無しー。無しな、赦してつかわす」
「ならばその3体の首をはねよ!
その上で王の減俸50%、3か月じゃ!」
「なんと……!?
むぅ、仕方あるまい。これで儂の月給は97%減か……」
「「「女王様! 王様はともかく、首はねはご勘弁をぉーっ!!」」」
ひれ伏している3体のガルルンは、赦しを懇願する。
……王様は良いんだ? ああ、減俸だから死ぬわけじゃないもんね。
「そうだぞ、女王。
この者たちは庭園の世話をしてくれておる。そう簡単に首をはねることは無い」
『王様はともかく』という部分は華麗にスルーして、3体のガルルンを守ろうとする王様。
うーん、女王様に比べて人が出来ているというか、そんな感じがする。
「それならば裁判で決めようではないか。
よし、首をはねるぞ! 有罪じゃ! 開廷するぞ!!」
「先に刑が決まってるけどっ!?」
私が思わずツッコミを入れると、女王様がジロッと睨んできた。
睨む……とは言っても、女王様もガルルンなわけで、別に怖くはないんだけど。
「――ほぅ、この私にツッコミを入れるとは……。
さぞかし名のある芸人なのじゃろう」
「そう言われたのは人生で初めてです」
「気に入ったぞ。これから、私主催の『白ウサギ殲滅戦』があるのだ。
それに参加してもらおう。もちろん拒否すれば首をはねる」
「えぇ……。っていうか、白ウサギって『あばばばば!』って走ってくるアレですか?」
「うむ。あやつはこの世界に仇なす存在じゃ。
私の毒入りタルトもぺろりと平らげ、裁判もよく邪魔をするでのう」
「な、何で毒入りタルトなんかを作るんですか……?」
「それは保険金目当てゆえに」
「儂を殺す気か!?」
「王様、ナイスツッコミです」
女王様に鋭くツッコミを入れる王様に、私はついつい称賛を送ってしまった。
「……ふむ。
それならば王とアイナが、コンビを組むと良いだろう」
「両方ツッコミになるので、ボケが不在ですね」
「そうだそうだ。儂にはボケの女王がいないとな」
「私をボケと仰るか。王の減俸20%、3か月じゃ!」
「なんと!? すると儂の月給はマイナス17%に……ッ!?」
「王様、首をはねるのを取り消せるくらいなら、減俸も取り消せば良いんじゃないですか?」
「む! それは良い案だ! 赦すぞ! 儂は自分を赦すぞー!!
ふはははは、何とも聡明な少女だ! これからは儂の参謀になるが良い!」
「お断りします」
このあと1時間くらい、こんな感じの会話がグダグダと続いてしまった。
何だかんだで面白くはあったんだけど、最初に会った3体のガルルンはずっとひれ伏したままだった。
首はねの件は、話している間にうやむやになったから、それはひとまず良かったかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ようやく場所を移動すると、そこは大きな法廷だった。
王様と女王様が裁判官席に着き、他のガルルンたちは傍聴席に着いている。
「……あれ?
女王様、ここで『白ウサギ殲滅戦』を行うんですか?」
「うむ。ほれ、そこに私の作った毒入りタルトがあるじゃろ?」
「はぁ。毒が入っているかは分かりませんが」
「ここに例の白ウサギがやって来るのじゃ。
タルトを盗み食った瞬間に、即座に首はね決定よ」
「さっき外で、何回も首はね決定してませんでした?」
「ここは法治国家ゆえにな、できるだけは体裁を繕おう」
「法治国家だったんですか、ここ……」
どう見ても独裁国家にしか見えなかったんだけど。
女王様が日々暴走しそうなところを、王様がうやむやに誤魔化す……そんな不思議な独裁国家、みたいな。
――ズガアアアアアアアァンッ!!!!
しばらく白ウサギを全員で待っていると、突然、法廷の天井から轟音が響いた。
崩れ落ちる天井。煙や埃が舞う中、その向こう側には青空が見える。
そしてそこから――
「あばばばば! あーばばば!!」
……白ウサギが現れた!!
「現れたな、白ウサギ!
さぁ、そこのタルトを盗み食らうが良いッ!!」
女王様は立ち上がり、白ウサギに向かってビシッと指を差す。
「あばば? あーばば」
「……な、何!? 『女王のタルトは不味いからもう要らない』じゃと!?
何と無礼な、首をはねよ!!」
タルトを盗まなくても、結局は首をはねる。
うーん。女王様、ブレないね……!
女王様の命令に、剣を持ったガルルンたちが白ウサギに攻撃する――
……のだが、あっさりとやられてしまった。
「えぇい、皆の者! 総攻撃じゃ!
何としてでも白ウサギの首をはねよ!!」
女王様の再度の命令に、傍聴席のガルルンたちは一斉に立ち上がり、白ウサギに向かっていく。
しかし、全員が次々に倒されていった。
「王よ! 王も行くのじゃ!」
「え? 儂も……?」
女王様の言葉に、王様もしぶしぶと攻撃に参加したが、あっさりと一撃でやられてしまった。
「……くぅ、さすが『力の化身』。
さすがというべきか……」
「え? あの、『力の化身』って何ですか?」
「うむ。この世界の強い力を持つ『力の番人』の成れの果てじゃ。
その力を自らのために使い、この世界に混乱を巻き起こしておる」
「『番人』の成れの果て……?
それならもしかして、これが使えるかも!」
そう言いながら、ポケットから『透色の瞳』を取り出す。
この中には『調和の番人』と『自由意志の番人』が入っているのだ。
もしかしたら――
私は『透色の瞳』を、白ウサギに向かって掲げてみた。
「あばば!? ……あーばばば!!!!!?」
白ウサギは突然、苦しみ出した。
しばらくは何かに抵抗しているようだったが、身体が徐々に光となり、最後には『透色の瞳』に吸い込まれていく――
そして、その場にはようやく静寂が訪れた。
「……倒した。倒しましたよ!!」
実際に倒したかどうかは分からないけど、この場から消すことは出来た。
これはつまり、『倒した』といっても過言では無いだろう。
「むむむ……。あの白ウサギをこうも容易く……?
貴様、何者じゃ!! 私たちを欺くことが目的かッ!?」
女王様は声を荒げ、張り上げながら叫んだ。
えぇ……!? 何でそうなっちゃうの!?
「え、いや、だって――」
「聞く耳なぞ持たぬわ! こやつの首を即刻はねよ!!」
女王様の声に、周囲のガルルンたちはようやく起き上がり、刑の執行に同調する。
「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」
えぇ!? ちょ、ちょっと待って!?
「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」
……むぅう、私の愛したガルルンたちが!
「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」
こんなことを言うだなんて!!
「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」
ああもう、信じられない!!!
「「「「「「くーびっはね! くーびっはね!」」」」」」
「うるさあああああぁいっ!!!!
あなたたちなんか、ただのガルルンのくせに!!」
私が大きく叫んだ瞬間、周囲のガルルンたちは突然、宙に舞い上がった。
それはまるで紙吹雪がつむじ風に飲まれていくような、重さをまったく感じられない光景。
舞い上がったガルルンたちが凄まじい速度で飛んでいる中、法廷の建物が積み木のように崩れ出し、そして空にヒビが入り始めた。
ヒビの入った空が欠け始めると、そこからは眩しい光が溢れ出す。
欠けた空はどんどん広がり、そして私の周囲を光で満たしていく……。
――世界の終わりというのは、もしかしたらこんなものなのかもしれない。
そこにはすでに、女王様も王様も、ガルルンたちの姿も無かった。
風景も無く、ただただ光に満ち溢れている。
「これで、この夢も、終わり……?」
私が誰とも無しに言うと、完全に想定外ではあったが、それに返事をする声が在った。
「――そう、ここは夢の終わり。そして、ひとつの英知の終着点。
……よくぞ、ここまで辿り着きました――」
驚きながら声の方を見てみれば、そこには見慣れたような、見慣れてないような……そんな姿があった。
「え、えぇ……? あなたは一体……。
っていうか、あなたは――」