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十五番街で発生した一連の暴動で、『血塗られた戦旗』は少なからずの損害を受けた。そのケジメを三者連合に強く要求。その結果、三者連合はシダ・ファミリーのボスであるシダを引き渡すことで事態の沈静化を図った。
既にシダ・ファミリーは主力が行方不明となっており、連合内部で問題ばかり起こすシダ・ファミリーを追放することで組織の健全化を目指したのである。
だがそれは三者連合の弱体化を意味していた。
「分かった。二度とこんなことを起こさねぇように気を付けろ。次は皆殺しにしてやるからな」
「はい、今後はより一層組織の引き締めを行いますので、どうかこの件は平にご容赦を」
『血塗られた戦旗』の代表であるリューガとはヤンが交渉を担当。シダと残りの構成員の身柄を引き渡し、更に上納金を納めることで穏便に済ませたのである。
そして情報収集と『暁』の出方を伺うためにしばらく身を潜めようと画策していたが。
「分かってる。今後はどうするんだ?」
「しばらくは身を潜めようと思います。『暁』の動向を注視しなければなりませんし」
「いいや、それは許さねぇ」
ヤンの目論みはリューガによって潰えた。
「何ですと!?」
「先日うちの馬鹿が揉め事を起こしてな、『オータムリゾート』に目を付けられる羽目になった。お前らを匿うのも限界がある」
「『オータムリゾート』と!?」
「そうだ。だから『暁』なんて新顔にこれ以上付き合えねぇんだ。一日も早く奴らを潰せ。お前らには『オータムリゾート』との抗争で働いて貰わねぇと困るからな」
「そんな!リンドバーグ・ファミリーはまだしも私達は堅気ですよ!?」
「堅気が裏の事情に首突っ込むからだ。やるからには、裏のルールに従って貰う。慈善事業じゃねぇんだからな」
「そんなっ!」
「リンドバーグにも伝えとけ。一ヶ月以内に『暁』を仕留めねぇと、俺達がお前らを皆殺しにするとな」
一方シャーリィはレイミから『血塗られた戦旗』の殺し屋に襲撃を受けたこと、それについて『オータムリゾート』が『血塗られた戦旗』へ多額の賠償金を支払わせたことを伝えられる。
「レイミを狙った人物は必ず始末するとして、賠償金の支払いは良い援護になりますね」
「どうしてだ?」
ルイスが首をかしげる。
「今回は賠償金で済みましたが、『オータムリゾート』と揉め事を起こしたのは事実。これで終わりだとは『血塗られた戦旗』も考えていないでしょう。『オータムリゾート』との本格的な激突を覚悟している筈。となれば、傘下の三者連合がいつまでも『暁』と争っているのを静観している余裕はない筈です」
「こっちの罠に引っ掛かった奴らか」
「ええ。既にシダ・ファミリーの粛清が行われたとの情報を掴みました」
「へぇ。どっから仕入れたんだよ?」
「ネズミを潜り込ませるのはリンドバーグ・ファミリーの専売特許ではありませんよ?ましてや、荒波の歌声は労働者の集まり。本来は堅気の人々です。こんな抗争に巻き込まれて迷惑している人もたくさん居るんですよ」
「あー、うちが第三桟橋を手に入れたら仕事が無くなるからってやつだったかな?」
「その通りです。確かにうちだけで完結しますから、彼らの仕事を奪うことになります。でも、それなら私達が直接雇うと勧誘すれば?賃金を高く出せば……」
笑みを浮かべるシャーリィ。
「あっさり寝返るわけだな?」
「元が一般人ですからね。うちも人材を常に求めていますから、引き抜きも順調ですよ」
「相手に情報が漏れたりしないか?」
「別に漏れても構いませんよ?いや、むしろその辺りは雑にやるようラメルさんに指示を出していますから」
「何でだ?」
「『暁』が引き抜き工作を行ってると周知されれば、彼らは疑心暗鬼に陥ります。誰が味方で誰が寝返っているのか分からないのですから」
楽しそうに語るシャーリィ。
『暁』は次なる標的を荒波の歌声に定めて工作を進めていた。
「怖い怖い」
「怖くはありませんよ?先に手を出したのはあちらです。破壊工作、謀略で挑むなら同じ手で相手をするだけです」
事実シャーリィは三者連合との抗争を新設した情報部の試験運用と位置付けており、様々な工作を試み経験とデータを蓄積させていった。
一方帰還した海賊衆はそのままシェルドハーフェンに留まり、次なる一手を打ち込んでいた。
「使わせて貰うよ!文句があるなら掛かってきな!」
アークロイヤル号で直接第三桟橋に乗り付け、リンドバーグ・ファミリーの見張り達を蹴散らして強引に占拠したのだ。
「ここは俺達の物だ!邪魔する奴には容赦するな!」
エレノア、リンデマンの二人が海賊衆を率いて上陸。周辺の倉庫群も占拠してしまう。
これに慌てたのが三者連合である。そもそも第三桟橋の利権を巡った争いであり、一時は奪い取れたものを再び奪われて強い焦りを感じていた。
「これではまた振り出しに戻っただけではありませんかっ!」
「海賊衆と言ったか。我々は独自に動いたと見ているが」
アジトにてヤンとリンドバーグが緊急の会合を開いていた。
「この際真意は二の次です。桟橋を再び奪われては、決起した意味がない!速やかに奪還していただきたい」
「我々だけで、かね?」
「なっ!?私達は堅気なのですよ!?あなた方のように争う力などありませんっ!」
「堅気、ね。ヤン、君たちも暁からの強奪品で良い思いをしたではないか。既に強盗を犯しているのだ。今さら堅気面など無意味だよ」
「あの件に私達は直接関与していません!」
「物資を運び出したのは君達だ。まあ、この件は速やかに対処する。腹を決めたまえ。既に君達は裏社会に関わったのだ」
それだけ言い残すとリンドバーグは退室した。
「ヤンさん、俺達どうなるんだ……?」
「人殺しなんて出来ねぇよ…!」
周りの労働者達が不安げに代表を見つめる。
「大丈夫、私達は堅気だ。何の犯罪にも手を染めていない。むしろ巻き込まれた被害者だ。『暁』からの誘いがあるんだろう?」
「ああ、もう何人かは抜けて『黄昏』に逃げ込んだぞ」
「そうか。彼らの誘いこそ、我々を堅気として害する意思がない証拠だ。いざとなれば、リンドバーグを引き渡して恭順を示せば良い。誠意を見せれば、大丈夫だ。絶対に、早まった真似はしないでくれよ?」
「ああ、分かった。抜けた奴らはどうする?」
「繋がりはそのまま保ってくれ。いざとなった時は彼らに助けを請わなくなればいけないからね」
「ああ、皆にも伝えておくよ」
「火遊びなんてするもんじゃねぇな」
「そうだな、今回は肝が冷えたよ。交渉は任せてくれ。いまはゆっくりな」
ヤンを含め荒波の歌声メンバーは大きな勘違いをしていた。三者連合に加わりながら自分達が堅気であると頑なに主張して、分が悪くなれば保護を求めようとする。
この時点で降伏すればまた違っただろうが、彼らはリンドバーグ・ファミリーの行動の結果を見定めてから判断するように決めてしまった。ヤンが欲を出した結果である。
その決断が『暁』に敵意ありと判断される結果となり、何より彼らは知らなかった。
シャーリィと言う少女が敵対者に対して一切の容赦がないと言うことを。