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「ここが……」
明の先には、広い空間が広がっていた。そこには、沢山のテーブルが置かれていて、大勢の人がオークションに参加していた。
その人達は皆仮面をつけており、誰が誰だかわかったものじゃない。だが、そんなことは気にしていられない。
仮面をつけていないのは私達だけか。これでは怪しまれると思い、何か顔を覆えるものがないかと探していれば、アルバがこれを。と白い仮面を差し出した。
「これは?」
「多分ですが、この会場にいる人間がつけているものと同じ魔法の仮面です。かれで、目元を隠せば、顔の認識が曖昧になるんですよ」
と、アルバは説明をする。
曰く、魔道具らしい。
私はそれをアルバから受け取って実際につけてみることにした。視野が狭まったがこれと言って何の変哲もない仮面だった。ただ少しだけ魔力を感じるぐらいか。
「これで、本当に大丈夫なの?」
「はい。エトワール様は、髪色も換えていますし、いつもの服とは違うので目立たないかと」
「凄い……準備してくれてありがとう」
「念のために持ってきたんですが、正解でしたね」
そうアルバは言って微笑んだ。彼女も仮面をつけているからか、あまり表情がよく分からない。これが、仮面の効果かと驚くしかなかった。
「ルフレはどう?」
「ふーん」
と、私が言えば、ルフレが興味なさげな返事をした。
だが、彼も仮面をつけていて素顔を隠していた。それを見た私は安心しつつ、会場の他の人の反応を見てみる。
皆知り合いなのか仲良そうに話しているが、顔がやはりよく分からない。奴隷、人を競り落とすということに全くの罪悪感がない感じだった。それどころか、どんな奴隷がいるのだろうとあちこちから聞え、いい気はしなかった。
(同じ人間とは思えない……)
この国が、奴隷の売買を禁止していると言うことは表むきではそういう人権がない行為を固く禁じているのだろうが、こうやって秘密裏に行われているところを見ると、人間は汚いと思ってしまう。
潜入は出来たが、ステージに出る前にルクスを探そうと私達はこっそりと人の間を縫って歩き始めた。すると、途中で何人かの男達が近寄ってきた。
「何処へ行かれるんですか?」
「え、えっと……」
男達は私達の行く手を阻むように立ちふさがる。
後ろでグランツとアルバが腰に下げた剣の柄を握っていたが、ここで騒ぎを起こせばつまみ出されてしまうと、私は彼らに待ってと目で合図を送る。
ただ、この状況をどう乗り切るか。
「もしかして、オークションの参加、初めてですか?」
「え、ええ……まあ」
私は、彼らの質問に答えつつ、なんとか誤魔化せないかと考える。
すると、彼らは嬉しそうな声を上げながら私達に話しかけてきた。
「そうですか。今日はいい奴隷が揃っているそうで。お嬢さんも奴隷をお捜しで?」
「は、えと……はい」
なわけない。と答えれるはずもなく私は仕方なく首を縦に振る。したからくるルフレの視線が痛かった。
(もう、絡んでこないでよ……)
もしかして、私達は浮いているのではないかと周りを見るが皆、私達には興味がないようでどの金額を提示するか、権力は……などと話しているようだった。だから、たんにこの人達が喋りかけてきただけらしい。何故だか分からないが。
「もしよろしければご案内しますよ? ここのルールとか オークションに参加するのは初めてなんでしょう?」
「そ、それは……」
私は断ろうとしたが、「いえ、お願いいたします」と私の横から出てきたのはアルバだった。
「おや、貴女も参加するので……?」
「ええ、オークションに興味がありまして……」
彼女は、にっこりと笑う。それに、男はそうですか。と呟くと私とアルバを交互に見た後、私の腰にギュッと捕まっているルフレとグランツを見た。
「この子供は?」
「え、えっと、私の弟です」
苦し紛れの言い訳だったが、男はさほど気にしていない様子だった。
「ちょっと、聖女さま」
「何よ」
「弟って」
「大丈夫よ。同じ髪色にしたんだから」
魔法で同じ髪色にしておいたが、さすがに弟は言い過ぎたかと、ルフレを見た。完全に怒っている表情をしていたくせに、ルフレの好感度はピコンと音を立てて上がっていた。どういうことなんだと、私は思ったが、男の視線が私を貫いたままだったため、私は咳払いした。
「家で待たせるのはあれかと思って連れてきたんです。色々と経験させておいた方がいいでしょ?」
と、私は無理矢理笑顔を作って言う。まあ目元が隠れているから男に笑っているかどうかは伝わらないかもだけれど。
「そうですか、ならその後ろの男性は?」
そう、男はグランツを指さした。さすがに、グランツの設定までは決めておらず、どう誤魔化せば良いか分からなかった。
とりあえず、何か言おうと口を開きかけた時だった。グランツが先に口を開き、頭を下げる。
「俺は彼女の付き添いできました。護衛と言うべきでしょうか。彼女一人では危険だと思い」
「ほう」
そうグランツが言えば、男の視線は私へと向けられた。仮面越しでもまじまじ見られているのが分かる。きっと、お金持ちの令嬢と勘違いしているのだろう。だが、残念聖女だと思いつつ、私はにこりともう一度微笑んだ。
グランツのナイスアシストによって私達は何とかその場を乗り切った。男は、納得したようにそうでしたか。と呟いて、早めに席を取っといた方がいいと教えてくれた。親切なのは嬉しいが、彼も奴隷を買いに来たんだと思うといい人とは思えなかった。
私達は取り敢えず、空いている席を探し腰を下ろすことにする。あまり目だった行動をすると、また声をかけられるのではないかと思ったからだ。それに、ルフレ、ダズリング伯爵家の右に出るものはいないだろうから、ルクスがオークションにかけられても競り落とせるはずだと。本当はそんなことしなくていいならしたくはないけれど。
「珍しい客だね」
と、いきなり隣に座っていた人に声をかけられた。声からして男だと分かったが少し聞き覚えのある声に私は首を傾げる。
隣を見れば、目深にフードを被った同じく仮面で目元を隠した男が座っていた。薄い笑みを浮べ、私の顔をのぞき込んでいた。私は、仮面がズレていないか確認し、男の顔をじっと見る。仮面にフードまで、随分と自分の姿をさらしたくないように思え、私は警戒する。
「め、珍しい客って。顔、分かるんですか?」
「うん? まあ、皆魔道具である仮面をつけているけど大体はね。見知った顔ばかりだ」
その言葉に私は周りを見渡す。やはり、顔は分からない。
男の発言から、彼はずっとこのオークションに参加しているようで、参加しているメンバーも同じらしい。だから私達は見慣れない顔……雰囲気の客だと不思議がられたんだろう。秘密裏にやっているからこそ、新規メンバーには警戒心を持つに違いない。
私は、男の発言に眉をひそめながら、まだ何か言いたげな男を睨み付ける。
「そう、睨まないでよ」
「睨んでいるかどうか何て分からないと思うけど? 仮面をつけているし」
「そうかな、俺には見えるよ。君の夕焼けの瞳が」
と、男は言う。
私はその一言を聞いてゾゾッと背筋に嫌なものが走った。顔が分からないはずなのに、目なんてしっかり隠しているはずなのに、男は私の瞳の色を当てた。
髪色は魔法で換えたし服も変えた。だが、瞳の色まで換えなくていいだろうとそのままできた。そうして、その変えなかった瞳の色を男は当てたのだ。
(ううん、別にこれぐらい分かったところで私が誰かなんて分からないと思う……)
偽物聖女だし、私なんか目に入れたくないだろうし。と理由をつけつつ、焦っていることを悟られまいと私は必死に冷静さを装った。
「…………」
黙り込んだ私に男は「ふーん、やっぱり当たりか」と呟く。
そして、ニヤリと口角を上げた。それはまるで獲物を見つけた獣のように見え、私は思わず息を飲む。だが、ここで押されたら不味いと私は取り繕って口を開く。
「別に瞳の色なんてどうでもイイじゃない……何か、関係あるの? それとも、知り合いにそういう人がいるとか?」
そう聞けば、男はキョトンと口を開いていたが、すぐに笑みを浮かべる。
何を考えているのか全く読めず、ただただ不気味な笑みに思えた。
そして、男は手を差し出してきた。握手を求めているようだが、素直に応じるべきか迷ったが、取り敢えず握ることにした。
「そうだね。俺の知り合いにも同じ瞳を持つ人がいるんだ。まあ、あっちが知りあい認定しているか分からないけどね」
「そ、そう……」
私は適当に相槌を打ちながら、男の手を見る。確かに綺麗な指をしているし、爪の形も良い。手袋越しだが、私よりは大きい。だが、それ以上に、何か違和感を感じた。
それが一体なんなのか分からなかったが、これ以上関わるのは不味い気がする。
助けを求めるためにアルバとグランツの方を見たが、私達の会話など全く聞えていないらしく、まるで私がそこにいない風に黙っていた。時々アルバがグランツに何か言っているようだったが上手く聞き取れない。
(どういうこと?)
違和感、そして、聞こえない二人の様子に私は不安になる。
そんな私を見て男はくすりと笑うと私の手を放した。
私はそれにホッとしつつ、男の方を向いた。
すると、男は何が面白かったのかクスクスと笑い出す。それに、ますます気味が悪くなった。
先ほどからずっと感じている違和感の正体は何なのだろうと、私は男を睨み付けた。どこかであった気がするが、顔も髪色も分からないのでは誰か特定は出来ない。
「ねえ、何でそんなに顔隠しているの?」
「皆バレたくないだろ? こんな所にいて、自分が欲しかった奴隷を競り落とせなかった場合、その競り落とした奴を殺す人間がいるかもだろ?だから、極力顔を隠しているんだ。まあ、ここにいる連中は常連客だからね。そういうのはないみたいだけれど、始まった頃はあったみたいでね」
と、ずっと参加してきたような口ぶりに私は益々不信感と警戒心を高めた。
それに気がついたのか男は、まあまあと。私を宥めるように笑う。
「俺はここにいる連中とは違うから」
「なら、信用出来るってそのフードでも脱いで見せてよ」
そう私が言えば、男はそれはできないね。と馬鹿にしたように笑った。
「君がその髪色を、魔法を解いてくれたら考えてもいいよ」
「……っ」
と、男の言った言葉に私は固まるしかなかった。何故、髪を魔法で変えているのが分かったのか。
「魔法の鑑定は得意なんだ。まあ、その魔法のレベルが低いって言うのもあるけれど……」
「分かった。なら、もういい」
私は、これ以上話していては危険だとそっぽを向く。
男は、「まだ話していていよ?」と言ってきたが、私は頑に口を開かなかった。だが、会場がしんと静まりかえりステージの灯がつけば、男はさすがに話しかけてこなくなった。
「さて、お集まりの皆様、今夜も始まりました。奴隷オークション。視界は私――――」
そうして、奇妙な仮面をつけた司会役の男が出てき、本格的にオークションが始まった。
私は手元の札を握りつつ、隣に座っていたルフレの手を握って唇を噛み締めた。