「良かったです」
こうやって美味しそうに食べてくれると、作り甲斐がある。
明日からも頑張らないと。
「ご馳走様。美味しかった」
食べた後、私に向かってありがとうと伝えてくれる。
私の方こそありがとうなのに。
食器を片付けて、彼の座っているソファーの端に私も座った。
「桜、ベッドのことなんだけど……?」
蒼さんが先に話しかけてくれた。
「ベッドは……」
必要ないですって答えようとしたが
「ベッドは要らないですって答えはなしで、ホームセンターに行ってきたんだけど、いまいち女の子ってどんなやつがいいのかわからなくて。今度の日曜日、一緒に見に行ってほしいんだ?」
要らないですって答えはなし……。
私の回答が先読みされている。
「でも……」
「もし今後まぁ、あんまり来ることもないと思うけど、誰かが泊まりに来た時にも使えるだろ?だから、一緒に選んでほしいんだ」
お客さん用ってことなのだろうか。
それだったら私も「私で良ければ一緒に行きます」と答えるしかない。
「良かった。じゃあ、よろしくな」
蒼さんの表情が柔らかくなったような気がした。
私に断られると思っていたのだろうか。
ベッドを見るだけなのに、お昼くらいから夜まで時間を空けておいてほしいと言われている。
他にどこか行くのかな。
「蒼さん、日曜日、他にどこか行くところあるんですか?」
気になり、彼に問いかける。
「あぁ。実は、蘭子さんから映画館のチケットを貰ったんだ。気分転換に楽しんで来て?って。良かったら一緒に観に行かない?」
えっ?蘭子ママさんが?
そんな贅沢してもいいのかな。
言葉に詰まっていると
「俺と一緒に行くの嫌?」
蒼さんに聞かれた。
嫌なわけない。嬉しい。
「嫌なわけじゃないです!嬉しいです!本当に皆さんに良くしていただいて。こんなに贅沢をしてしまっていいのかなって思って。あと、私じゃなくて蒼さんもお友達とか、他の方と行った方が楽しめるんじゃないかと思って」
私の本心を伝えた。
「俺は桜と行きたいんだけど?映画とか興味ない?」
桜と行きたいという言葉に反応してしまう。
顔はおそらく紅潮している。
映画なんて何年も行ってないけど、嫌いなわけじゃない。行きたい。
「蒼さんがそう言ってくれるのなら行きたいです」
彼はフッと笑って
「良かった。じゃあ、決まり。その日の予定、俺が考えてもいい?」
その日の予定?
「あっ、はい。蒼さん、夜はお仕事ですよね?」
「明後日の日曜日、休みなんだ。月曜日から仕事の人が多いから。お客さんが少ないし。日曜休みのことが多くて。都合合わせてもらったけど、ごめんな?」
そうなんだ。お休みだったんだ。
「桜。ちょっと相談したいから、端っこじゃなくてこっちに来て?」
ソファーの端っこに座っていた私を蒼さんは呼び寄せた。
「はい」
返事をしながら向かう。
彼の隣に座る。
椿さんの時はSTAR(店)で酔って手まで握ってしまっていたのに、二人きりでこんなに近いとなんか急にドキドキしちゃう。
お風呂上がりだから、蒼さんとっても良い匂いがするし。
相談ってなんだろう。
「映画なんだけど、何が見たいかなって思って。日曜日だし、混んでて満席だったら嫌だから予約しようと思ってる」
そんなことまでちゃんと考えてくれるんだ。
彼の携帯で一緒に上映スケジュールを見る。
蒼さんはいつもと変わらない顔しているけど、私の身体は硬直をしている。
「どんなの好き?」
好きな映画、好きな映画……。
最近の映画って何をやっているの?
蒼さんが画面を見せてくれるけど、頭が働かない。
何も言わない私に
「ん――。じゃあ、どんな映画は苦手?」
苦手な映画、苦手な映画……。
「恐いのは苦手かもです。ホラー系とか……」
その言葉を聞き、ハハっと彼は笑った。
どうしてそんなに笑うの?私、変なこと言った?
「なんか、桜っぽくて可愛い。お化け屋敷とかも嫌いなの?」
やっぱり子どもだと思われているのだろうか。
コクっと頷いた。
蒼さんは笑いながら
「ん、じゃあ、ホラー系はやめようか。これなんてどう?」
あっ、これ、すごく今話題になっている映画。
遥さんも見に行ったって言ってた気がする。
ラブシーンが少な目の純粋な恋愛映画。
「あっ、見たいです!遥さんも面白かったって言ってました。すごく今人気なんですよね」
「そうなんだ。姉ちゃんがこんな映画見るとか、イメージないけどな。じゃあ、これで予約する。席はこの辺で良い?」
「はいっ!」
明後日がすごく楽しみになってしまった私は、どこかで罰が当たるんだろうか。