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次の日。
出勤してすぐに日下を呼んだ。
「おはよう、日下さん。昨夜のこと説明してくれるかな?」
「あ、おはようございます…えっと、ここでは…」
周りを見て首を振る。みんながいるところでは話せないということは、やはり勘違いではなかったということか。
この時間だと、屋上なら誰もいないだろうと屋上に誘った。
「で?」
「すみませんでした。新田さんに誘われてお家まで行ってしまって。そしたら奥さんが帰ってきて」
「は?なんで家に行くかな?ってか、何しに家まで行ったの?」
「食事をして、そのあと、よかったら家に来ない?って誘われて。新田さん、奥さんはいるけど、急に日本に戻ることになったから先に新田さんだけ帰ってきてて。奥さんはあと一週間は日本に帰ってこないって言ったから…」
「何を言ってるの?論点がズレてる。私が訊いてるのは、家まで行く理由!奥さんがいるとかいないとかではなくて」
「えー、そこは察してく、だ、さ、い、よっ」
_____イラッとする
「新田さんと不倫関係ってことね」
「きゃっ!そんなハッキリ言わないでくださいよ、まだ何もしてないし言われてもないですよぉ。そうなるかも?みたいな」
水が入ったバケツがあったら、間違いなくぶっかけている。
「プライベートなことに口を挟むつもりはないけど。社内で不倫問題なんて起こしたら、あなたも新田さんも会社にはいづらくなるわよ」
なんでよりによってあの新田健介なんだ!と言いたいのは我慢した。
「そこなんですよぉ。なんだか新田さんの奥様って、会社の取引先の重役の娘なんだって言ってたんですよぉ。だから、バレたら会社クビになっちゃうって、新田さん焦ってて。だから昨日は慌ててチーフに電話しちゃいました」
まぁ、だいたいそんなことだろうとは思ったけど。
_____取引先の重役の娘?それで私をあっさり捨てたのか!
今頃になって違う怒りが湧いてきた。
「な、の、で。もう新田さんとは会いませんよ。奥様にビビる男って情けないし、かといってクビになってしまったら新田さんなんて、なんの魅力もないですからぁ」
話しながら、スマホを操作している日下。
「はい、削除してブロックしました」
あまりにもあっさりしていて、呆れる。でも、クビになってしまったら健介には何の魅力もないとスパッと切って捨てた日下を見ていたら、私までスッキリした。
「まぁ、それならいいけど」
「それにぃ、私、本命はちゃんといますからね」
その時、バタンとドアが開いて結城がやってきた。
「チーフ、探しましたよ、ここにいたんですね」
犬っコロ登場。
「おはようございますぅ、結城先輩!」
日下の目がハートだ。そういえば、結城を狙っているとか何とか言ってたことを思い出した。
「ちょっと日下さんと話をね」
「そうでしたか。あ、そんなことより来月、歩美ちゃんの誕生日があるみたいで。どんなイベントをしようか相談したくて」
「えっ!歩美って誰なんですか?先輩の友達ですか?」
日下が焦っているようだ。歩美は11才の誕生日を迎える小学生とは知らずに。
「そうね、花束と可愛いアクセサリーでも買ってあげたら?よろこぶわよ」
話を聞いている日下の頭の中に、勝手に女性の姿が浮かぶように話す。
「そうですね、じゃあ、チーフも一緒に選んでくださいよ、俺、そういうの自信ないから」
「えっ!ねぇ、誰なんですかぁ、その子、教えてくださいよ」
日下は、結城の腕を掴んでぶんぶん振っている。
「内緒よね?結城くん。私と結城君の」
日下に少し意地悪がしたくなって、わざと意味ありげに結城に言う。
「はっ、はい!俺とチーフの2人の秘密ですね。2人の内緒」
結城が、なんだかとってもうれしそうなのは、何故かわからなかった。
フロアに戻って仕事にかかる。新規プロジェクトは、いくつかのトラブルはあったものの、なんとか形になってきた。
タカギテクニカルのホームページから、プロジェクトのために立ち上げた専用のサイトへ飛べるようになる。
無機質で金属の冷たさと精密機械の硬さで彩られたホームページから、パステルカラーの柔らかでアットホームなイメージへと変わる。
今は試験段階で、お客様はまだ実際に見ることはできない。あとはここに、働くお母さんをメインにしたコメントを並べることになる。
結城が操作するパソコン画面を前にして、チームメンバーが意見を出し合っていた。
「コメントは、直筆がいいんじゃないか?その方があったかみもあるし、リアリティも感じられそうだけどな」
「でも本人直筆だと、なんていうか身バレしそうな気もしませんか?癖のある字だと恥ずかしいし」
「まぁ、それもそうだね。じゃあ、コメントを出す人とここに書く人は別人にしては?」
「なるほど、いいですね」
「あと、ここの機能なんだけど…」
みんなが画面に食い入るようにしていた時
「よー、みなさん、張り切ってますね」
いきなり話に割り込んできた人がいた。新田健介だった。昨夜のことで何か言い出すのではないかと、思わず身構えてしまう。なのに当の日下だけはまったく気にしていないようだった。
「新田さん、おはようございます。ご覧の通り、なんとか形になってきました。進捗状況はのちほどお伝えしますが。それとも今、見て行かれますか?」
できるだけ事務的に対応する。
「ん?あ、進捗は後でもいいけど…」
何か言いたそうに周りを見て、さりげなく日下を見たようだ。日下はまったく何の関心も動揺も示さず、資料のデータをパソコンに打ち込んでいる。
「森下チーフ、後で少し時間をとってもらえないかな?」
_____なんか、いやな予感がする
「プロジェクトのことなら、今ここで話を聞きますが」
「あ、いや、えっと、どうしようかな?」
「すみません、今日はちょっとスケジュールが空いてませんね」
話なんか聞かない、どうせ昨夜の日下と奥さんとのことだろう。それを私に話してどうしたいのだろうか。
「あの!俺でよければ、話を伺いますが?」
私の前に出たのは結城だった。俺に任せてとでも言いたげに綺麗なウィンクをして見せた。
_____昭和のアイドルか?
「あ、そうだ。これから少し休憩を取るので、そこのカフェコーナーでならいいですよ」
仕方なく話を聞くことにする。
「なら、俺も同席します」
「ううん、結城君はコーヒーをお願い」
ね?とウィンクしてみせた。話しには入ってこないでね、ややこしくなるからという意味で。
「コーヒーですね、わかりました。でも、チーフ、まつ毛でも目に入りましたか?痛いですか?」
「え?あはは、まぁね」
_____ウィンクって、どうやるんだっけ?