初戦闘から4日後。あれから毎日魔物の討伐を行った俺達は、ついにFランクになった。
当初懸念していた新月での翻訳の能力の有無だが、問題はなく普段通り話が出来た。
翻訳程度は俺達の内にある不思議パワーで賄えるのかもと、聖奈さんと結論付けた。
「今日もお疲れ様!私達最強ねっ!」
「セーナさん。油断は禁物ですよ」ふふっ。
いや…ミランさん。貴女もニヤケが止まっていないじゃないですか……
「聖奈。今日は帰るぞ」
「えー。まだまだ冒険したいなぁ」
いい加減一度戻らないと、バイトさん達に申し訳ない。
「でも仕方ないかぁ。ミランちゃん1日お休みだけど、いいかな?」
「勿論です。今日は実家に帰りますね」
13歳の方が聞き分けがいいとは……
かく言う俺も戦闘に慣れたからか、帰りたくない気持ちもわかる。
しかし、俺には試したいことが出来た。その為にも、今日は地球に帰りたい。
「じゃあ、行くぞ」
「うん」
俺達は地球に転移した。
「とりあえず私を会社に送ってくれないかな?聖くんはその後、買い出しをお願いね!」
「わかった。行こうか」
マンションに戻った俺たちは、車に乗って会社を目指した。
会社に聖奈さんを送った俺は、頼まれていた買い出しを済ませ、会社へと戻ってきた。
「ただいま。そっちはどうだ?」
「私の方も終わったよ。ネットで注文もしておいたから、受け取りを二階堂さん達にメールでお願いもしたし」
そろそろいいだろう。
「じゃあ、好きにしていいか?」
「えっ?遂に私…襲われるの?」
ちげーよ!
「実は考えていたことを試そうと思ってな」
「やっぱり私…」
しつけーよ!
「わかった。聖奈は魔法を覚えなくていいんだな。
じゃあ俺だけ覚えるわ!」
そう告げて会社を出ようとする。すると……
ガシッ
腕を掴まれた。
「ま、魔法…?何それ!?」
「実はな・・・・・」
俺は魔導書のことを聖奈さんに伝えた。
「えっ?そこまでして無理なら、封印を解くのは難しいんじゃないの?」
「それがな、一つだけ可能性があるんだ」
勿体つけてみた。
「何何っ!?わかんないんだけどっ!?」
「この世界に魔力が無いと仮定するのなら、こっちに魔導書を持ってきたらどうなると思う?」
暫く考えた聖奈さんは、考えを纏めるためか、口を開いて呟く。
「封印の力が、世界に溢れる魔力を使っているのなら、魔力がない所では封印が解ける?」
「そう!俺もそれに気付いて持ってきたんだ!」
俺は勢いよく魔導書を机に置いた。
「これが…」
「開けられるか試すぞ?」
聖奈さんが頷いたので、俺は魔導書を手に取り、開いた。
開いた…?
「やったぞ!これで中身が読める!」
「何何っ!?何が書いてあるの?」
中身は古代の文字で魔法のことが書かれていた。
「間違いないな!何何…。一定以上の魔力が無ければ魔法は発動しない」
これはミランに聞いた通りだな。
そのまま読み進めると魔法の使い方がわかった。
「こっちでも使えるのかな?」
「いや、やめておこう。もし使えたら生活は一変するが、使えなかった時は良いとしても、ここに書いてある『魔力が不安定な場所では、制御が難しく暴発する可能性がある』が怖すぎる」
「そうだね。ここまで頑張って来たんだもん。わざわざ危険を冒すのはやめよっか」
俺達は益々異世界に戻りたくなった。
翌日の夕方まで交代で魔導書を読み、完読した。
もちろんしっかり覚えていないと発動しないので、慣れるまで、覚えるまでは魔導書は手放せない。
向こうで再封印されたら困るので、封印を解く魔法だけは他の紙に書き写しておいた。
バイトさん達も帰ったので、マンションへと二人で帰ることに。
最近は異世界に長く居たから、帰るって表現が酷く微妙だ。
マンションにベッドとソファは戻したが、生活感が無くなっている気もするし。
「じゃあ転移しますか」
「うん!」
相変わらず聖奈さんは抱きついてくる…南無阿弥陀。俺は無心になり月にお願いをした。
戻った俺達が最初にするのは餌付けだ。
「美味しいですぅ!」
ミランへのな。
「じゃあ、魔導書が開けたのですね!」モグモグ
「そうだな。今は再封印されてるけど、一応封印を解く魔法は書き写している」
もちろんコピー機で。
「精巧な写しですね」
よし!騙されたな!
いや、そんなことで喜んでいる場合じゃない!
「ねえねえ。私がその魔法を試してもいい!?」
聖奈さんは興奮しすぎだ。鼻血出るぞ?
「構わない。でも書いてあったように失敗には気をつけてな」
魔力が足りてもちゃんと発動するわけではない。
しっかりと手順を踏むことが大切なようだ。
「じゃあ、裏庭でしない?そこなら何かあっても寝るとこを壊さなくてすみそうだし」
それは確かに。
俺達は裏庭に移動した。もちろんミランの食べるのを待ってからな。
「じゃあ始めるよ!」
聖奈さんがコピーした紙を片手に、もう一つの手は魔導書へ。
だいたい5分くらいの詠唱を終えた結果は……
「だめだぁ。発動する気配がないよぉ」
めちゃくちゃ凹んでた。
「この魔法は魔力が多く必要で、使える人はかなり少ないと書かれていたから仕方ないよ。
他の魔法が使えたらいいんじゃね?」
「…うん。そうだね!でも、転移者特有の巨大な魔力に憧れていたんだよねー。
転移したことが原因でって、よくある設定だし」
また話が長くなりそうだな……
仕方ない。ここは俺の出番だぜっ!
「俺がしてみよう」
「これで出来たら、セイくん殴るね」
な、なんで!?
「だって転移も出来て、魔力も豊富なんて、チート独り占めじゃん!」
なんだか不条理を感じるが、その時は甘んじて受け入れよう。
Mじゃないんだからねっ!
俺は深呼吸をして魔法の発動に集中した。
5分後。
身体から何かが出ていく感覚と共に、
本が光を放った。
「えっ?これでいいんだよな?」
ぺらっ
「おお!封印が解けたぞ!」
「…」
聖奈さんが冷たい目を向けてきた。
でも仕方なくない?
俺からしたら貴女達二人の方がチートだよ?
顔も良くて、頭も良くて、器用で…いくらでも出てくる。
「セーナさん。他の魔法を使ってみてください。もしかしたら出来るかもですよ!」
13歳に慰められてる…いや、俺もあったな……
「そうだね!ミランちゃんも一緒にしよ?」
「わ、私もですか?」
夜も更けて、さらには塀も高いから、よそ様の迷惑にはならんだろ。
二人は初級魔法と書かれたページの魔法から練習し出した。
ちなみに魔導書には、以下のことが記されている。
初級〜中級〜上級のいくつかの魔法が書いてある。これが全てではなく、無限に近いほどの数があるようだ。
詠唱の長いものが強力な魔法という認識で間違ってはいないが、中には詠唱を短くする研究も書かれていて奥が深そうだ。
封印の魔法は特別欄に書かれてある。
この魔導書を書いた魔法使いはかなり優秀なようで(本人談)、他の魔導書とは違い、オリジナルの魔法や特別欄には珍しい魔法が書いてある素晴らしいもの(本人談)らしい。
2時間くらい練習をして、漸く家へと入った。
「良かった!ちゃんと魔法が使えたよ!」
「そうか…良かったな…」
なんで俺は聖奈さんの頭を撫でさせられているんだ?
「私もまさか自分が魔法を使えるなんて、思いもしませんでした!」
こっちもまだまだ鼻息荒いな。
どうどう。
「良かったな。初級以外は明日何もないところで試そう」
俺の言葉に二人はすぐにベッドに入った。
いや、二人とも可愛いからいいんだけど……
俺が纏め役ってやばない?
俺だけが一抹の不安を抱えて眠りについた。
早く元に戻ってくれ!
翌日。以前スライムの討伐を見せた場所に、魔法の練習をするために三人で訪れていた。
「じゃあ、俺からな」
一番成功率の高い俺から試すことになった。
初級の魔法はいわゆる生活魔法だった。
中級からは本にも書いてある通り、危険を伴う。
俺は二人に十分離れてもらってから、詠唱に入る。
二行程の短い詠唱だ。これならすぐにでも覚えられる。
詠唱後、何もない場所に手をかざし、最後の言葉を紡いだ。
『アイスランス』
シュパッ
「おお!凄いな!遠くの地面に突き刺さったぞ!」
証拠が残ったり、環境破壊にならないようにアイスの魔法を選んだ。
「凄いね!これなら銃と威力が変わらないんじゃない!?」
「そうですね!ですが弾速は半分以下でしたね」
実況と冷静な解説ありがとう。
「次は私ね!」
どうやら年下に譲るとかは、まだこの子(21ちゃい)には早いようだ。
結果は聖奈さんに出来て、ミランは残念ながら出来なかった。
「残念でしたが、初級だけでも生活が変わるので嬉しいです」
大人だ……
「次は上級だね!」
子供だ……
「この魔導書の上級には、範囲魔法と巨大魔法しかないが、どうする?」
「うーん。この巨大魔法の『アイスブロック』って言う魔法なら影響は少なそうじゃない?
範囲魔法の『アイスバーン』とかは植物に影響がありそうだし」
なるほどな。名前からある程度予想したか。
「そうしようか」
俺は二人が離れたことを確認して詠唱に入る。
流石上級。封印を解く魔法程じゃないが、一度では覚えられそうにないな。
30秒程の詠唱を終えた俺は、両手を天から下に振り下ろした。
『アイスブロック』
・
・
「あれ?失敗か?」
何も起こらないことで失敗を悟り、二人がいる方へ振り返ると、ミランが上を指差して口を開けていた。
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