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プロローグ(志音 しおん)
夏の色
※この物語はフィクションです
夏の空は、いつも嘘みたいに青い。
この空を見ているとき、私は“色”が見えない。
青も、赤も、緑も、世界はすべて白と黒と灰色でできている。
声があるから私は色が見える。
だから、たぶん私は、夏が嫌いだ。
去年祖母に、手渡された切符を握りしめて、私は田舎の駅に降り立った。
蝉の声、草の揺れ、土の匂い。
その全部が、私には輪郭だけでしか伝わらなかった。
でも、その中で、ひとつだけ違うものがあった。
あの男の子の言葉だった。
初めて聞いたとき、その声には、色の代わりに“匂い”が混じっていた。
不思議だった。怖くなかった。ただ、強く残った。
まるで、透明な空気の中に溶けるような声だった。
そのときから、私の夏がすこしだけ変わり始めた。