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緑山 紫苑
ジャヌスの部屋の前で待っているフィニス。
ガチャっ
目を腫らしながら、ニティアが部屋から出てきた。
「……どうだった」
小さくこぼすフィニス。
「ちゃんと綺麗にしてあげた。目立った傷はどこにもなかったけど……」
目に涙を浮かべ、鼻を啜るニティア。
「胸元に小さな水ぶくれがあった」
「……水ぶくれ?」
ニティアは俯きながら答える。
「……感電した時とかにできるやつ」
「……魔法か」
フィニスの問いに首を小さく振るニティア。
「ありえない。ジャヌスさんのローブはかなりの魔法耐性がある。それに……例え普通の服を着ていたとしても……ジャヌスさん自身の魔法耐性が高すぎて、こんなピンポイント……しかも他の場所に一切損傷を与えずに電撃魔法で……無理だよ……」
力なく答えるニティアに、魔法のことが分からない自分にイラついたフィニスが、つい声を荒げる。
「じゃあなんで!」
「そんなの分からないよ!!」
フィニスの大声に反応し、ニティアも叫ぶように答えた。
「わからないよ……」
ポロポロと涙をこぼすニティア。
大声を出してしまった自分をぶん殴りたくなったフィニス。
大きく深呼吸をした。
怒りが収まらない。
リビングを見渡す。
争った形跡もない。いつものリビングのまま。
しかし……テーブルの上には空になったカップが2つ……
約束があって誰かに会うと言っていた……
そいつが先生を………?
分からない……
でも……もしそうだとしたら……
絶対に見つけ出して……
殺してやる……
力の入ったフィニスの握り拳からは血が出ていた。
その瞬間……
【魔族から王都を救った英雄】
【ニティアのこと、頼みますね】
英雄の記事が脳裏に浮かび、
賢者の声が聞こえた気がした。
手からは力が抜け、血だけが床に滴り落ちる。
身体の中に燻っていた黒い感情が薄れていったのが分かった。
血のついた手をズボンで拭き、フィニスは俯いたニティアの方に身体を向ける。
「ニティア。俺、この家出ようと思う」
その発言に大きく目を見開き、フィニスを見返すニティア。
「え……」
小さな声が漏れていた。
「多分……先生が今朝、約束で会うって言っていた人。先生を殺した人がその人かどうかは分からない。でもきっと、何かは知っているはず。その人を見つけて、先生を殺した人を見つけ出して……ぶっ殺してやりたい……。そういう気持ちもある……だけど……それは絶対に先生は望んでいないと思うんだ」
顔をあげているニティアを優しく見つめるフィニス。
「だから、俺は先生みたいに……世界を見てまわりたい」
ニティアの目からは涙がこぼれ落ちる。
「私……またひとりぼっ……」
「だから……」
ニティアの言葉にフィニスが言葉を重ねる。
「一緒に行こう」
再び大きく目を見開いたニティア。
「……わたしも……いっていいの……?」
「あぁ」
大きく鼻を啜るニティア。
「し、しょうがないわね……どうしてもって言うなら一緒に行ってあげる」
俯きながら、小さく答えるニティア。
「先生に子守り頼まれたからな」
「なっ!」
目を合わせた2人は、同時に小さくと笑っていた。
⸻
雨も上がり……暗闇に包まれた森の中。
虫の音が鳴り響く。
薪や藁の上に置かれた、簡単な棺。
そこには、2人にとって大切な人が眠っている。
「……さようなら、ジャヌスさん」
術式を組み、指先に魔力を込める。
ニティアが1番最初に教えてもらった基礎魔法。
震える指先から、小さな炎が点くも……ゆらゆらと揺れ、消えてしまう。
もう一度魔力を込め、炎が点くも……今度は自分の涙で消えてしまった。
松明を持ったフィニスが、ゆっくりとニティアに近づく。
「予想外の出来事が起こった時……今一度落ち着くこと。お前には、どんな困難だって乗り越えられる力がある」
ジャヌスがフィニスに向かって言っていた言葉を、優しく投げかける。
ニティアの震えが止まっていた。
「お子様ひとりに見送らせたら、先生に怒られるからな」
ニティアの肩に手を添えたフィニスは、持っている松明をゆっくりと棺に近づける。
泣きながらニティアも魔法で指先に火をつける。
しかし、今度の炎は……小さいながらも力強く燃えていた。
2人で同時に火をつける。
「私……お子様じゃないもん」
大粒の涙を流し、泣きじゃくるニティア。
まっすぐに揺らめく炎を眺めるフィニス。
「先生は、よく王都で色々調べ物とかしてたからな……」
「……ぐすっ」
「まずは王都」
ニティアの頭を優しく撫でる。
「……ふわふわのパンケーキ……食べに行くか」
「……うん」
コメント
2件
うわぁ…ぴえんが止まらないよ😭💦 フィニスくんが怒りにまかせて「♡♡♡てやる」って言ったとこからの、英雄の記事と賢者の声で我に返るシーン…そこで先生の想いを継ごうとするの尊すぎるでしょ…🥺 そしてニティアちゃんの「一緒に行く?」「…うん」はもう、ずっとずっと一緒だねって約束に見えたよ…! 雨上がりの篝火、そっと見送るふたりの背中が印象的だった〜✨ 次はパンケーキ食べて元気出してほしいな🍽💕