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「最悪……」
「ハハッ。まぁまぁ……。僕はそんなナギもひっくるめて可愛いと思ってるよ」
「ちょっとお兄さん! 全然フォローになってないから!」
真っ赤な顔でむくれる姿が、またたまらなく愛おしい。
(ああ、自分は本当にこの子に骨抜きにされているんだな)
そう改めて思い知らされる。
「でもさ……。僕のこと、ナギの身体にしか興味がないと思われていたなんて、ちょっとショックだったな」
「ち、違っ! そういう意味で言ったわけじゃ……」
「じゃあ、さっきのはどういう意味だったのかな?」
「うぅ……それは、その……」
もごもごと口ごもるナギに苦笑を浮かべ、蓮はそっと手を伸ばした。 俯いた横顔に触れ、掌でその頬を包み込む。吸い付くような肌の柔らかさが、じんわりと熱を持って伝わってきた。親指で目尻を優しく撫でると、ナギは決まり悪そうに視線を泳がせる。
「したくて堪らなかったのは、ナギの方じゃないの? あの言い方だと、『一日中抱き合っていたい』と言っているのと同義だと思うんだけど」
「だ、だって……」
「だって?」
「最近忙しくて……。そんな風に過ごせる時間、全然無かったし……」
モジモジと指先を捏ね合わせながら、消え入りそうな声で白状するナギは、文句なしに可愛い。
本当はもっと意地悪を重ねてからかってやりたいのに――結局、こうして素直な本音をぶつけられると、毒気を抜かれてすべてがどうでもよくなってしまうのだ。
結局その夜はナギの家へと向かい、空白を埋めるように何度も互いの熱を確かめ合った。 笑い合い、時に睦み合い、夜が更けるまで片時も離れることができなかった。
――そして翌朝。
「ナギ。ほら、起きて……」
「んー……あと十分……」
ナギは羽毛の上掛けを頭からすっぽり被り、芋虫のように丸くなった。
「そうやってダラダラしているうちに、日が暮れちゃうよ?」
蓮はため息をつきつつも、問答無用でその防壁を剥ぎ取った。 すると、一糸まとわぬ姿で眠っていたナギの身体が冷ややかな外気にさらされ、寒さに肩をすくめて小さく震える。
(……これはこれで、妙に煽情的というか、エロいんだけど。いや、そうじゃなくて!)
「うー……」
枕にしがみついてささやかな抵抗を見せていたナギだったが、やがて観念したように重たげな身体を起こした。
「ほら、早く支度しなよ。コーヒーを淹れておいてあげるから」
「……頭痛い。身体もだるいし」
ベッドの上で胡坐をかき、寝癖でぼさぼさになった髪をぐしゃりとかき回しながら、ナギが不満げに声を漏らす。
「こんな姿、よい子のみんなには絶対に見せられないね」
「……誰のせいだと思ってるの。何回も、さぁ……」
「う……それは、申し訳ないと思っているけど……」
蓮は思わず視線を逸らした。 歯止めが利かなくなったのは自分のせいだと自覚している。――だが、最後の方はナギだって相当に乗り気だったはずだ、などという反論は、この場では飲み込むのが正解だろう。
「と、とりあえず支度しておいで。リビングで待ってるから」
微妙な空気を誤魔化すように急かすと、ナギは頬をほんのり朱に染めながら、弾かれるようにベッドを飛び降りた。
「とりあえず、シャワー浴びてきなよ。ベタベタで凄いことになってるし」
「……誰のせいだと……」
ナギは不満げに独りごちながら、床に散らばった衣類の山からシャツを一着掴み取った。そのまま、のろのろとした足取りで浴室へと姿を消していく。
待つこと約十五分。身支度を終えてリビングに現れたナギは、先ほどまでの無防備な姿が嘘のように整えられていた。 無造作ながらも計算された髪のセット。
カジュアルなハーフコートに、ざっくりとした網目のマフラー。脚の長さを強調するタイトなジーンズ。ラフな出で立ちでありながら、抜群のスタイルも相まって、モデルが誌面から抜け出してきたかのような華がある。
(……本当に、何を着ても様になるな)
いつもの小悪魔モードで少し幼く見える彼も捨てがたいが、こうして年相応の「男」としての格好良さを見せつけられると、改めてその魅力に圧倒されてしまう。
「どしたの?」
「いや、なんでもないよ」
蓮が凝視していることに気づいたのか、ナギが怪訝そうに首を傾げた。慌てて何でもない風を装ったものの、隠しきれない熱視線にナギはふっと勝ち誇ったような笑みを漏らす。
「まぁいいや。準備もできたし、行こうか」
「あぁ、そうだね。……でも、その前に」
玄関で靴を履き、こちらを振り返ったナギの隙を突く。蓮は彼の後頭部をそっと引き寄せ、チュッと軽く、羽が触れるような短さで唇を重ねた。
「……なっ、なにするのさ」
「んー、なんとなく。キスしたくなったから」
「……ッ、ばかっ!
」
不意打ちには相変わらず弱いらしい。じわじわと林檎のように赤くなっていく頬を隠すように、ナギは逃げるようにドアの向こうへと消えていった。 その後ろ姿に込み上げてくる可笑しさを堪えきれず、蓮はククッと忍び笑いを漏らしながら、愛おしい背中を追って外の世界へと足を踏み出した。
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