コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……放置、って……」
言葉を失い固まったままの私に、彼が、ふっと口づける。
「……来なさい、私の部屋へ。いいですね? 駐車場にある私の車の前で待っていなさい」
唇を離し、有無を言わさぬ口ぶりで続けると、
「私は、あと10分程で帰りますから、合わせて駐車場まで降りてきてください」
おもむろに落ちていたペンを拾い上げ、私に手渡した。
「……わかりましたね?」
問いかけられるも、何も答えられずに、私は診療ルームを後にすることしかできなかった──。
のろのろと帰り支度をして、何も考えられないままにぼんやりと歩いていたら、いつの間にか足が駐車場へと向いていた。
……どうしてあの医師に言われるままなんかに、ここまで来てしまったのかがわからなかった。
止めてある車のそばで立ちすくんでいると、政宗医師が現れて、
「……乗りなさい」
と、助手席のドアが開けられた。
クリニックからさほど遠くはない距離を車を走らせて、マンションへは数分足らずで着いた──。
(この距離を車で移動することに、何の意味があるんだろう……)
そう思っていたら、「……こんなに近いのに……」という言葉が、口をついてこぼれた……。