コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
鈴木が特攻して数日の夜が開ける少し前、兵舎の扉が叩かれた
「橘清志。突撃命令が下った。午前六時三十分。飛行場集合だ。」
その言葉が鼓膜に残る。
眠気もなく、言葉もなかった。静かに布団から体を起こし、敬礼をするように頷いた。
外は薄暗く霧が出ていた、岡部さんが起き上がりぽつりといった。
「…ついに来たのか。お前が行くのは惜しい。」
何も言えず荷物をまとめた。手ぬぐいと家族写真、そして白紙のままの遺書
訓練場の端に1本の松の木がある。何人もの人を見送って成長来た大きな松の木。
岡部が来て小さな包み紙を差し出す。
「…これは、?」
「梅干しと乾パン。うちのかあちゃんが送ってきたやつ。」
しばらく手を伸ばせなかった。やっとの思いで受け取ると岡部は黙って頷いた。
「なぁ、お前も怖いか?」
しばらく考え、言葉を選び答えた。
「…はい、でもみんなもそうだったんでしょ?」
初めて優しい笑顔を岡部は見せた。
「俺ももうすぐ飛ぶと思う。だから、今は見送ってやるよ」
朝日が昇りかけていた。
兵舎へ戻り、遺書を書いた。震える手で、泣きながら。
──────────
母さんへ
俺はお国のために命を捧げます。
けれど、泣かないでください。
母さんは笑顔の方が美しいですから。
一つだけわがままを言えるとしたらまた、
兄さんたち、母さん、父と笑って過ごしたいです。
育てて下さりほんとにありがとうございました。
そして、ごめんなさい。
清志
──────────
朝日が差し込んだ。
どこか切なかった。
母に苦しい思いをさせぬと、この国を勝たせる為に命を捨てる。