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俺は今、完全に拗ねている。
彼が一時帰国してから、カメラの前でもそうでなくても、プライベートでも…その彼が──めめが、構ってくれへん。
多忙を極めているのは解る。俺だって勿論忙しくさせてもらっているし、とても有難いことだとは思っている。そんな中でスケジュールのすれ違いがあるのは当然のこと。でも…
“ごめん、今は出掛けてるから電話できない、また今度ね。”
“これから共演者の方と飲みに行くから今日は会えないかも。”
と、互いに空いた時間でさえ、満足のいくコミュニケーションは取れず。
今だって、グループの仕事で会えるとなっても、
「おはよ。」
「…め、」「蓮ー!おはよ!」
「うおっ!?…おはよ、佐久間くん。康二も。」
「、おん。おはよう。」
と、抱き着くさっくんと視線を交わして話し出して…その流れでラウやふっかさんと談笑し始めて。何だか、いつもみたいにその中に入る気になれなかった。
(まあ短い滞在期間やし…どのメンバーとも友達とも対等に時間使いたいやろうしな。…でも、
逆に俺との時間はどうなん?)
敢えてめめたちを視界から外し、誰にも聞こえないような小さな小さな溜息を吐く。俺はスッと立ち上がると、気持ちの切り替えを兼ね、局のラウンジへ行くことにした。
「、はぁ…。」
椅子に座るなり、ぐぐっ、と目一杯の伸びをする。腕を下ろした瞬間、血の巡りが良くなったのを感じる。特にどこを見るわけでもなく外の景色を眺め、ホットコーヒーを啜る。
そのまま背もたれに完全に背中を預けて、思考はサラに。そうして暫く時間を潰していると、
「何してんだよ康二。」
不意にぽん、と背後から頭に手を置かれ、完全に気を抜いていた俺は《うわぁあっ!?》と大きく身体を跳ね上げた。
「ねぇー、もうほんと声デカいって…。」
「てっ…照にぃ…ごめん…。」
声の大きさに指で自身の右耳を塞ぐ照兄と、バクバクと拍動する心臓辺りを押さえる俺へ、ラウンジに居た人たちの視線が集まる。2人して《すみません…。》と所在なさげに謝ると、照兄が俺の席の対面にそっと座った。
「照兄も休憩しに来たん?」
「ん?いや、お前を探してた。最初はトイレかと思ったけど、楽屋から出る時の顔がそんな感じじゃなかったし、戻り遅かったからさ…またどっかで拗ねてんのかと思って。」
そうしてサーバーから持って来ていた水を口にすると、こちらを見据えて頬杖をついた。
「めめ、まだ皆と話してたけど、康二が居ないって気付いてから…その間ずっと部屋中を目で探してたよ?」
「!…、…きっと他のメンバーやって。知らんけど。」
照兄から聞いた言葉に小さく目を見開くも、気持ちに耐えるような言い方をしてしまい…それに自爆して心がずし、と重くなる。紛らわせるように、とん、とん、と指先でカップを定期的に叩いた。
「折角帰国してんやし、俺ばっかりってわけにもいかんやろ。そら俺やって皆とわちゃわちゃしたいけど…なんか、気分乗らんくて。」
吐き出した言葉の代わりにコーヒーを1口。そんな俺の一連の挙動を見守り、照兄はスマホで時間を確認し、席を立ちながら水を飲み干した。
「そろそろ時間だ。…行こう、康二。」
「ん?あー…行こか。」
まだまだ余っているコーヒーを持って、照兄の後ろについて行くように歩くと、彼は俺の肩に太い右腕を回して横に並ぶように寄せられる。そのままぽんぽん、と2回肩を叩かれ、その手が離れる。
その意図を汲み取れないまま、俺たちはラウンジを後にした。
いつものツナギに着替え、スタジオへと皆で向かう。康二は皆の1番後ろで、その前で阿部と話すめめの背中を眺めていた。
(何を遠慮してんだか…。)
隣を歩くふっかに目配せすると、彼は《あっ!》と声を上げてくるっと後ろへ振り返る。
「康二、ちゃんとリップ持った?」
「んぇ?…あ、…忘れとる!取ってくるわ!」
ツナギのポケットを確認し、《先行ってて!》と駆け足で楽屋へと戻っていく康二。
…実は、彼のリップクリームはふっかが持っている。康二の背中を暫く見送り、オレンジが視界から消えた頃、こちらと目が合っためめはきょとんとしている。そんな彼に目だけ動かす──お前も行け、と言わんばかりに。
「…あ、やべ。俺も忘れ物してる。」
「ちょっとー、2人して遅刻しないでねー?」
ふっかが楽屋へ走るその背中に声をかけ、残った全員と目を合わせると…その全員が俺たちの思惑にニヤニヤとしだし、さっさとスタジオへと再び歩を進めた。
「、…無い…。」
確かにさっき使った筈なのに、忽然と姿を消したリップクリーム。自分が行動したそこかしこを探すもやっぱり見当たらなくて。
「また無くした…?え、何でぇ??」
顎に手を添え、今一度記憶を呼び起こす。しっかり覚えている。ちゃんと決まった場所に置いていた。今日ばっかりは無くす筈、ないのに。
ふと、背後で扉が開く音が聴こえた。反射的に振り返ると、
「、え?めめ…なん、」
…気付いた時には、つかつかと歩み寄ってきためめの腕の中にすっぽりと収まっていた。その事実が、彼の登場への驚きを上書いていくには少し時間がかかった。
「ごめん、康二。流石に気遣いに甘え過ぎた。本当にごめん…寂しかったよね。」
「…、まぁ、うん…。でも、しゃーないやん。めめを待ってた気持ちは皆一緒やし…スケジュール決まってるんやから、めめには皆に平等でいて欲しかって。」
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俺の言葉に、めめの腕の力が強まる。
「そんなのいいから…もっと、ワガママ言ってよ。俺まで寂しくなっちゃうじゃん。」
「…めめ、」
後頭部を押さえられ、唇を塞がれる。薄く開いていたそれに舌を差し込まれ…滞在期間分と、帰国後の会えなかった日分の熱が与えられる。
「っ、ん…ン…!」
突然のことに息継ぎが上手く出来ず、縋るようにぎゅ、と黒のツナギを掴む。そうして漸く、めめが一時的にでも帰ってきたのだと実感した。
「…、康二、ただいま。」
「ッは…お帰り、めめ。」
お互いに笑い合ったのも束の間。
「…!ヤバい、康二収録!!」
「あかんあかん、ほんまや!急ご!」
咄嗟にめめが俺の手首を掴んで走り出す。半ば引っ張られるように焦りながら続いて走るも、掌から伝わってくる体温に俺は再び緩く口角を上げた。