テラーノベル
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「……おや、始まってしまいましたね」
瑞樹はどこか名残惜しそうに低く苦笑すると、ゆっくりと柊吾の顎から指を離し、夜空へと視線を向けた。
瑞樹につられて、柊吾も弾かれたように頭上を見上げる。
大きな爆音と共に次々と打ち上げられる花火は、闇に包まれていた境内を色鮮やかな光で明滅させ、二人の姿を美しく浮き彫りにしていた。
さっきまでの羞恥や動揺も一瞬で吹き飛び、柊吾は子供のように目を輝かせて感嘆の声を上げた。
「……っ、すご……っ凄い綺麗だ」
打ち上がるたびに夜空を染める大輪の光を、まばたきも惜しむように見上げる。
隣に立つ瑞樹の手を、夢中でぎゅっと握り返しながら、ふたりで並んでしばらくの間夜空を見つめていた。
かつてアイドルだった頃は、こんな風に大勢の人で賑わう花火大会に来ることも、屋台で買い食いをすることも許されなかった。ずっとテレビの向こうや遠くの窓から眺めるだけだった光景が、今、大好きな人の温もりを感じながら目の前に広がっている。
ただただ胸がいっぱいで、柊吾は握った手に少しだけ力を込めると、隣の瑞樹を見上げて眩しいほどの笑顔を向けた。
「黒瀬さん、ありがとうございます。僕、こういうイベントに来るの本当に初めてで……。すごく、楽しいです」
心からの感謝と無邪気な喜びが弾けるその表情を、瑞樹は愛おしくてたまらないといった温かい眼差しで見つめ返している。
その時――ひときわ大きな重低音が響き、夜空の最高到達点で弾けた光が、まるで垂れ下がる柳の枝のようにゆっくりと尾を引いて広がった。夜空全体を包み込む黄金色の光が、二人の顔を優しく照らし出す。
「今の見ました!? すっごくきれいじゃなかったですか!?」
感動のあまり興奮気味に瑞樹へ振り返った柊吾。
だが、瑞樹の瞳は夜空の花火ではなく、はじめからずっと柊吾だけを映し出していた。
「……そうですね」
瑞樹は優しく目を細めると、そっと長い指を伸ばし、柊吾の頬に優しく触れた。
「でも、俺にとっては……花火に彩られた柊吾さんの方が、魅力的ですよ」
「え……っ」
指先から伝わる熱と、暗がりの中で深く光る瑞樹の視線が絡み合う。
驚きに息を呑んだその瞬間に、ひときわ大きな花火が弾け、眩い光の中で二人の距離がゼロになった。
――んっ、
重なる唇。
光が消え、辺りが一瞬の暗闇に包まれるのと同時に、瑞樹の手が柊吾の後頭部を強く引き寄せ、逃がさないように深く深く舌を割り込ませてきた。
「んむ……っ、……んっ……」
打ち上がる花火の爆音すら遠のいていくような、圧倒的な熱量。
先ほどまで焦らされていた反動のように、口内に残る甘いチョコバナナの味を舐めとり、奥深くまで貪り尽くす激しい口づけ。
(……あ、……)
こんな場所で、外で、誰かに見られるかもしれないのに。
#婚約破棄
霞花怜
816
頭の片隅で警鐘が鳴っているはずなのに、不思議と抵抗したいという気持ちは少しも湧いてこなかった。
瑞樹から与えられる熱と快感があまりにも愛おしくて、柊吾は自ら瑞樹の首元に両腕を回し、その引き締まった体にぎゅっとすがりつく。
「……っ、ふ、……んっ……」
自ら口づけを深めるように顔を傾け、夢中で瑞樹のキスに応えた。
瑞樹の喉から、小さく満足げな低音の吐息が漏れる。さらに腰を抱く腕の力をぐっと強められ、柊吾の身体は瑞樹の胸元へと完全に埋め尽くされていく。
幾重にも重なる花火の光が、激しく重なり合う二人の影を、境内の石段の上に鮮やかに浮かび上がらせていた。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 花火の光の中で重なる二人の距離、すごく綺麗なシーンだった…!柊吾くんが初めての花火大会にこんなに純粋に感動してるのも可愛いし、瑞樹さんがずっと柊吾だけを見つめてる視線の温度がもう、重くて愛おしくて、胸がぎゅってなったよ。最後のキス、自ら受け入れる柊吾くんの気持ちの変化もすごく伝わってきた…かんなさんの書く二人の距離感が本当に繊細で、何度も読み返したくなる🌙