明晴side
正直、驚きを隠せなかった
まさか佐野くんからあんな提案が出るなんて……
そういえば、前の体育祭でもこんなことがあったな
もうだいぶ昔の話だけど
その時は、立場が逆だったっけ
そんなこと思い出しながら、僕は座ってリレーを見ていた
今のところ、僕らのクラスがリードしていた
これなら、優勝できるかも!
今回は生徒として見届けるなんて思わなかったよー
そんな呑気なこと考えていると
「おい、佐野先生がアンカーだぞ!」
「え!? 」
「勝ち目ねぇじゃん!」
という声が、他のクラスから聞こえてきた
そう、本当は僕が走るはずだったアンカーを
佐野くんが走ることになったのだ!
これもまた前と逆の立場なんだけどね
そして、佐野くんにバトンが渡された
よし、このまま……と思っていた矢先
[ここでは、妖術を使いくぐり抜けてもらいます!]
その瞬間、佐野くんの足が止まった
え、なんで……
「あー、佐野先生妖術の扱い苦手なんだっけ」
「え、それ勝ち目あるって事じゃん!」
「このまま抜いてけー!」
その会話を聞いた時、彼が話していた事を思い出した
【苦手なんだよ、妖術をコントロールするの】
そう、課外授業で話していた会話だ
僕は、「あの後」の佐野くんを知らない
だから、どう成長したのか
どういう思いで教師をやっているのか
何も知らない
僕にできることは、何も無い
……いや
一つだけある
今、この状況でできること
それは……
佐野side
くっそ……
俺はリレーの途中で立ち止まっていた
理由は、今の障害物だ
ここは妖術を使わないと通れないようになっていた
こんなの聞いてねぇよ……
他のやつから見たら、何やってんだアイツって見えるかもしれない
だけど、できない
俺の力は、他のやつも巻き込んじまう
しかも、あの日からずっと心が不安定だ
この状況で使ったら、何が起こるかわからない
だけど……!
「佐野せんせーい!」
生徒席の方から、とても大きく、明るい声が聞こえた
その方向へむくと
安倍が、他の生徒に支えられながら最前列まで来ていた
あいつ、あんだけ安静にしてろって言ったのに……
だが、そんな考えは次の言葉で吹き飛んだ
「佐野先生ならできます!」
「生徒の僕が何言ってんだってなるかもしれないけど!」
「僕は佐野先生が、ここから逆転するってことを」
信じてます!
……!
「そうだ、行け!佐野先生!」
「がんばれー!」
「やったれー!」
安倍が応援してから、次々と他の生徒も俺を応援し始めた
……あぁ
「やっぱり」すごいわ
キィィ
俺は術を発動させた
「いやー、凄かったー」
「それな!」
「今まででいちばん興奮したー」
そんな会話が聞こえてくる体育祭後のグラウンド
俺はその端でテントを片付けていた
正直、安倍に今すぐでも聞きたいことがあったが
まずはこっちを優先しないと、他の奴らに言われるからな……
「佐野ぉー!」
と、後ろから呼ぶ声が聞こえて来て俺はそこへ走り出した
胸元に「あるもの」が無くなっていることに気づかずに
コメント
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この話好きすぎます!続き待ってます!!!!