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はるながくん、弟がいるんだ! 一人っ子かと思ってた!
そんなわけで、晴永は女子社員らが(裏で?)そんなことになっているなんて気付かないまま――。
静かになったフロアで、満足げに箸を動かしていた。
卵焼きの隣には、彩りよく詰められたおかずが数品。
ブロッコリーの胡麻和え、れんこんとさつまいもの甘醤油煮、アスパラガスのベーコン巻き、ひじきの煮物入り鶏バーグ。
(——これ、契約の範囲内だった……よな?)
ふと、そんな考えがよぎる。
思い出されるのは、先週末――。
晴永は、なまこを理由に、まんまと意中の人――小笹瑠璃香とひとつ屋根の下で暮らす権利を獲得した。
その前段階として婚姻届を書いてもらったり……あまつさえワンナイトラブまで経験して、色々と瑠璃香を囲い込む下地はできていたのだが……生来のヘタレが発動して危うく丸め込みに失敗するところだった。
だが、強引に連れ出したショッピングモールで、瑠璃香がハムスターを飼いたがっているのに気が付いてからはとんとん拍子。
我ながらびっくりするぐらい上手に瑠璃香を家に呼び込むことに成功した。
だが、気持ちがイマイチ追いついていなさそうな瑠璃香に、晴永は『契約という名の提案』を持ち掛けたのだ。
1.家賃はいらない。
2.生活費も不要。
3.部屋は別々(瑠璃香はなまこと同室)。
4.なまこの世話は瑠璃香が中心。
5.無理のない範囲で弁当を作って欲しい。
5は、晴永としてはあくまでもお願いのつもりだった。日下が食べたという瑠璃香お手製の卵焼きを手っ取り早く食べるには、弁当を作ってもらうのが一番だと思ったからだ。
正直な話、何もしてくれなくてもいい。瑠璃香がそばにいてくれるだけで晴永は満足だった。
一応にルールがあった方が、瑠璃香が安心するかと思って提案してみただけ。どれも条件というほどのものではない。強いて言えば、5なんてある種の願望だ。
それなのに瑠璃香は、少し考えてから、ゆるゆると首を振った。
『なんだかこの条件だと私に有利すぎて嫌です』
真面目な瑠璃香らしいダメ出しだった。
『だったら……どうすればいい?』
まさか俺と同室でもいいとか言ってくれるんだろうか? などと期待した晴永だったのだが……。
『家事。……できることは、私が全部やりたいです』
『は?』
『晴永さんがお嫌じゃなければ、お弁当だけじゃなくて朝晩のお食事も私が作ります』
思いもよらない瑠璃香の提案に、晴永は瞳を見開いた。
自慢じゃないが、晴永は料理がものすごく苦手だ。会社で仕事を卒なくこなすように、整理整頓や掃除はそこそこ得意だ。
凪川 彩絵
#独占欲
だが、料理だけは……壊滅的にセンスがない。
子供のころは忙しい両親に代わって……家政婦が家に来て、夕飯などを作ってくれていた。
物心がつくにつれ、自室をいじられるのが恥ずかしくなってからは、自力で部屋を綺麗に保つことだけはマスターしたのだが、料理だけは必要性を感じなくてスルーした。
ある程度大きくなってからは、ひとつ下の弟がやたら料理に興味を持って、家政婦を雇う必要がなくなった。だが晴永的には、家政婦へ依存していた食事のあれこれが、弟へ移行しただけに過ぎない。
やはり晴永自身は料理とは縁遠い生活を送って、今日にいたる。