テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
だが
前に進んでいたはずの俺の体は
強い力で後ろに引っ張られた
勢いでコンクリートに座り込んだ
血液が体中をグルグルまわっているのがわかる
心臓がドクドクと激しく動いている
「あんた、何考えてんの!」
目の前にいる青年に怒鳴られた
俺を引き留めたのは彼だったらしい
何も言えない俺を彼は黙って見ていたけど手を差し出された
これは…?
差し出された手を見つめ困惑していると
痺れを切らしたのか半ば強引に手を引かれ立たされた
かと思うと更に引っ張られ連れてこられたのはチェーンのカフェだった
呆然としていると目の前に緑の紙コップが置かれた
香りからするにコーヒーだった
コーヒーと彼の顔を交互に見ると
「飲みなよ」
と言われた
正直俺はこの状況が飲み込めなかった
本気じゃなかったとはいえ
線路に飛び込もうとした俺と
それを助けた男
カフェで向かい合ってる
「コーヒー苦手だった?」
何事もなかったように
友人に言葉をかけるように
ごく、普通に話しかけてくる
「いや…好き…だけど」
その様子についこちらも答えてしまった
「あ、やっとしゃべった」
ニカッと笑う男に当惑する
悩みなんてなさそう
きっと昔から自信に溢れてて
こいつは、こいつの周りは
幸せに溢れてるんだろうな
そう思うと憎たらしいような
羨ましいような
落ち着かない気持ちを誤魔化すためなのか
ほぼ無意識にコーヒーに手を掛けていた
手を掛けたからには飲まないのは違和感でしかない
仕方なく口をつける
「…甘い」
ケチをつけるように言ってしまい自分の嫌な部分が出ているなと少し沈む
「疲れてんのかなと思って甘いやつにしたんだけど苦手だった?ごめんね」
謝られて更にいたたまれない気持ちになった
「いや…大丈夫…」
周囲はざわついているはずなのに
二人の間には緊張感にも似た静けさがあった
この男の周りはほんわかした空気があるにはあるのだが
「ねえ、また会ってくれる?」
笑顔を崩さずに言われたが、何を言われているのか頭には入ってはこなかった
「は?」
「また会って欲しいんだけど」
俺の隠さない怪訝な顔を気にする様子はなく
繰り返された言葉はかろうじて意味を伝えた
「…なんで」
「ナンパ」
「は?」
「ナンパしてんの」
やっぱりこういうやつ、苦手だわ
鞄をあさり財布を取り出して千円札を引き抜く
それを目の前に置き、立ち上がろうとすると
目の前の男はあろうことか財布を取った
唖然としていると
「ほら、スマホ出して。じゃないと返さないよ、これ」
とのたまった
「返せよ」
「スマホ貸して」
少しずつ大きくなる声と大の男が財布を取り合う異様な光景に周りの客が訝しげな視線を送ってくる
何度か問答を繰り返したがこの男は諦める気はないらしい
仕方なく諦めてスマホを差し出すと財布はあっけなく返却され
男は嬉々として自分のスマホを取り出しながら操作をした
連絡先の交換にしてはやたら長いと思ったが
「はい、俺の連絡先も入れといたから」
黒い画面のスマホを向けてきた
「ブロックしないでよね」
笑顔を崩さず男は言うのだった
#ご本人様には関係ありません