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その夜。
未央は風呂上りの縁側で、ひとり缶ビールをあけていた。昇ってきた満月を見上げるとなんだか心が温かくなってくる。。
Tシャツ、短パン生乾きのぼさっとした髪の毛。いつものリラックスタイム。
あした、コーヒースタンドに寄りにくいよなぁ……どんな顔していいかわかんないし、朝はやめよう。うん、たまには帰りに寄ってみようか。
あの王子さまのキスをつまみに、いくらでも飲めそう。きょうは熱帯夜、座っているだけでダラダラ汗が出てくる。
ガラガラ──隣の家の窓の開く音がして、誰か縁側に出てきた。
隣はしばらく誰も住んでいなかったが、とうとう誰か引っ越してきたようだ。
あの字のきれいな女性。いったいどんなひとだろう。
あいさつがまだだったから、ついでに言おう。
未央は隣の家を覗き込んだ。隣の家との境には、腰ほどの高さの網のフェンスがあるだけで、視線をさえぎるものはない。
「こんばんは、はじめまして。隣の篠田……で……す……」
隣の家の縁側に立ったのは、お風呂上がりであろう首にタオルをかけた上半身裸の男性。下半身は……よかった、ハーフパンツはいてる。
えっ? 人違いじゃないよね? だって……、ここ、コーヒースタンドからけっこう距離あるよ? ツヤツヤの長めの黒髪、180センチはあろうかという長身、笑顔の爽やかなイケメン……。未央は隣人の顔をまじまじと見た。
「こんばんは、隣に引っ越してきました……って、あれ? 未央さん?」
お互いの動きが止まり、時が止まったように見つめ合う。
「ぐっ……郡司くん!? なんでここに!?」
「庭付きの平家、俺の予算で住めそうな部屋、ここだけだったんです。いいとこですね」
都心からそれほど離れていない上に、庭付きの1DKで平家。それが気に入ったと亮介は話した。
亮介は縁側からじっと未央を見つめた。いつもの穏やかな顔じゃなく、どこかいじわるっぽい顔にドキっとする。
「未央さん、きのう言ったこと。嘘じゃないですからね」
そう言われて心臓がドキンと鳴る。
キスされた手の甲がうずいて、パッと抑えた。
亮介は縁側に出してあったスリッパを履くと、裸足のまま庭に降りる。
そのままヒョイっとフェンスを乗り越えてこちらにやってきた。
ええーっ、待って待ってちょっと待って!! あまりのことに未央は目がまんまるになって動けない。
容赦なく近づいてきて、亮介は未央の顔をのぞきこむ。
そのイケメン具合に目など開けていられない。恥ずかしすぎて目をギュッと瞑り顔を背けると、頬にそっとキスされた。
そのままギュッと未央を抱きしめながら、耳元で亮介がささやいた。シャンプーのいい香りが鼻をかすめるが、あまりのことに身動き一つできない。。
「未央さん。これからよろしくお願いしますね。いろいろと」
亮介は未央からゆっくり離れると、またフェンスを飛び越えて家へ戻り、ガラガラと窓を閉めた。
亮介の姿を彫刻になったように固まって見送る。ガチャと窓の鍵を閉める音がしても、しばらく呆けてそちらを見ていた。
ややあってはっと我に帰り、ドーンと後ろに大の字で倒れこむ。空いたビールの缶が、足に当たってガシャンと縁側から落ち、カラカラと転がっていく。
なに? あれ。 なんでキスされた? 抱きしめられたよね? いろいろってなに?
それが事実であることを受け入れられず、頭の中が大混乱になる。
郡司くん、私のことからかってるんだろうなきっと。年上の反応見て楽しむなんて。なんてやつだ。
どう考えてもそうであるとしか思えない。
この前まで大学院生だったって言ってたから、今は25歳くらいかな。未央は自分より7つも下の男の子に翻弄されるのも、楽しいかもしれない。そんな気持ちもわいてくる。
彼の美貌は目の保養にうってつけ。隣に引っ越してきたってことは……。毎日あの美貌が拝めるってこと!? なんか楽しいことが起きる予感。
玲奈にはああいったけど、やっぱり誰かそばにいて欲しい。誰かと一緒に喜んだり楽しんだりしたいな。パートナーが郡司くんみたいなイケメンだったら、ほんと最高なのにー♡
未央は静かにワクワクしていた。胸の鼓動をおさえつつ立ち上がり、雨戸を閉めてベットにボフッと倒れ込んだ。