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2コラボ企画
「基礎コースの担当をします、篠田です。きょうのレッスンは筑前煮。みんなで楽しくつくっていきましょう。よろしくお願いします」
未央は大手クッキングスタジオの講師だ。駅ビルの中にあり、生徒も多い。
友人のススメで通い始めてどハマりし、勤めていた会社をやめてクッキングスタジオ講師に転職したのは3年前のこと。
レッスンに通い始めた頃は料理下手で、目も当てられないほどだった未央。教室に半年も通うと、それなりになってくるのだから不思議なものだ。先生たちもほめてくれるものだからますます上達し、資格までとってしまった。
担当の先生から、講師へのスカウト? を受け就職。通ってくる生徒とにぎやかに過ごすのはとても楽しかったし、自分に合っている。毎日が楽しくて時間はあっという間だ。
ただ、出会いの場で素直に職業を明かすと、料理教室の先生という色メガネで見られる。それだけが難ありだった。
いつでもどこでも、料理したいわけじゃない。手抜きもしたいし、惣菜で済ませたいこともある。それがわかってもらえず、辛くなって前の彼氏と別れた。あれから2年半経つけど、まだ彼氏はいない。
仕事が楽しい。サクラもいるし、もうこのまま独身でもいいんじゃないかと思っていた矢先の大事件。
きのうは亮介にほっぺにキスされて、おとついは手の甲にキスされて、その前は人工呼吸され……。付き合ってもない人に三日連続キスされることは、人生においてもうないだろう。まだふわふわとその気持ちを引きずっていた。
「先生、できました。 先生?」
「あ、ごめんなさい。はい、それでオッケーです。じゃあ次はこれを……」
なんとかレッスンを終えるも、思わずため息が漏れる。休憩室でうなだれていると玲奈が話しかけてきた。
「なんか、元気ない? また体調悪いの?」
「いや実はかくかくしかじかで、まったくもって仕事に身が入らず……」
未央はため息をつきながらことの顛末を話して聞かせる。
「えっ……なにそれ? 大丈夫なの? なんか変な勧誘とか、お金目当てじゃなくて? あ、お金そんなにないか」
お弁当を食べながら玲奈は心配そうな顔をした。
「相変わらず口悪いね……。でも、そうだよね。何かの間違いだ。あんなイケメンが、イケメンに、イケメン……」
「ちょっと? 未央?」
きのうあれからほとんど眠れなかったので、突然眠気が襲ってきてテーブルに突っ伏した。
そうだ、あれは全部夢だったのだ。目が覚めたら、またいつもの毎日。コーヒースタンドで遠目に郡司くんを愛でて、英気を養い、神々しい雰囲気に大満足して仕事に向かう。そう、それで十分……。
「……お! 未央! 起きて、あんたにお客さん。早く、早く!!」
玲奈の大きな声で目が覚めた。なに?お客? ぼーっとしながら何とか立ち上がり、ぺたんこになった前髪を直す。
血相を変えた玲奈に手を引かれて、ふらふらとスタジオの入り口に向かうと、キャーキャーと声がする。なんの騒ぎだ?「未央さん、突然きてごめんなさい。きょうって仕事何時までですか?」
それは亮介であった。立ってるだけで神々しいイケメンが訪ねてきたので、スタッフや生徒が固唾を飲んで見守っている。なんの罰ですか?
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